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勇者はいってます。  作者: 夢見創
六章目 海原を越えていけ
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逃げろや逃げろ

「魔王殿、お待ちしておりました」

 アカネが回復したため、隙を見て砦にやって来た魔王が見たものは、撤退準備をする魔王軍の姿であった。

「ナニヲヤッテオルノジャ?」

 出迎えたクリミナスに魔王が聞く。

「この砦から撤退するのですよ、魔王殿。すでに足の遅い歩兵部隊は撤退が終了しております」


 クリミナスが作戦を説明し始める。

「この砦にいる魔王軍の数と敵の数の差は3倍以上。しかもこの砦は元々彼らのものです、どこに隠し通路等の仕掛けがあるかもわからない。私の予測では攻められたら、数時間ほどでこの砦は陥落しますね。ですので我らは尻尾を巻いて逃げます」

「フム、ココデ迎エ撃ッテモ、勝チ目ハ無イトイウ事ジャナ?」

「一時撤退を行い、ここから3日程度の場所で人族の連合軍と合流します。すでにクルガリオに命令書を持たせ先に向かわせました。そこに更に魔王殿の国からの援軍が来ますので、魔帝の軍との数の上での不利が無くなります。また、その場所は攻めにくい峡谷なので、魔帝の軍を迎え撃つのには最適な場所なのです」

「理ニハ適ッテオル。ジャガ魔帝ノ軍、イヤ・・・天龍八部衆ハ強力ジャゾ?」

「勇者たちがいれば、その辺も何とか出来たかもしれませんが。今回は相手の戦力を出来るだけ削り取る事を目的とします。後のことは合流してから考えましょう」

「イキアタリバッタリジャナ」

「まぁ、嫌がらせは考えていますけどね」

 クリミナスはいたずらっ子のように笑った。




「ブーン、相手の動きが早まってるブーン、あと3時間もあれば、奴らがここに押し寄せてくるブーン」

 蟲王バイラが触覚をヒクヒクさせながら言う。


 バイラは威力偵察に来た魔帝軍に虫を、こっそり紛れさせていた。

 バイラはその虫の位置で、相手の動きを知ることが出来る。


「バイラ殿のその能力は便利ですねぇ。相手の動きがつぶさに解り作戦も立てやすい」

 バイラに地図を見せ、どのへんに敵がいるかを把握する。

「マキラ殿、幻影はちゃんと機能しておりますでしょうか?」


「私は専門家ですぞ、任せておきなさい」

 夜王マキラは腕を胸に当てながらダンディに答える。

 マキラは、撤退する様を敵に気づかれないように、砦全体に幻影の魔法をかけていた。

 この規模の魔法を使える者は、全世界でも数えるほどしかいないだろう。

 性格は変態でも能力は第一級なのである。


「魔王殿、敵にちょっとした、いたずらをしてみませんか?」

 いつも冷静そうなクリミナスに、いたずらっこのような笑みが浮かぶ。


 砦の外壁の上には、木や草で作られたダミー人形が置かれていた。

 マキラの幻影により、これらも立派な兵士に見えるようになっている。


 魔王はザキラとともに、その中央にいた。


「グルル、風に奴らの匂いを感じる・・・」

「ソウカ」

「敵の距離まで1キロメートルブーン」


 魔王は魔法陣を展開する、砦を包み込むような巨大な魔法陣である。


「火炎ノ嵐」


 古式の魔法で、見目派手な呪文である。

 範囲数キロという広範囲にわたる攻撃を仕掛けられるのだが、見た目とちがい直撃での殺傷能力はあまり高くない。

 せいぜい軽くやけどするくらいである。

 派手なだけで決め手にかける為に廃れた魔法である。

 マイナーな呪文なので、知ってる者も少ない。


 魔帝軍に威力を知られない為に、直撃しないように調整して撃ち込んである。

 それを数度、連続で撃ち込む。

 派手に燃え上がり、見た目は火の海が出来たように見えるだろう。


「この砦に、物凄い戦力があるように見せかけて下さい。敵を混乱させ進軍を遅らせてくれれば十分です」

 クリミナスは、そういった。


「マァ花火ジャナ」

 魔王は身もふたもないことを言った。


 派手に魔法を打ち込み、敵の進軍が止まったことを確認する。


「グルル、儂の背中にお乗り下さい魔王様。この場を離脱致しますガルル」

 魔王はザキラの背中に乗り、砦から駆け去っていった。


「魔王様を乗せるなんて、うらやましいブーン」

 バイラがそれを追いかける。




「やつらに、あれだけの戦力が?信じられぬ」

 夜叉王は魔王の魔法を見て進軍を止めた。


「策の練り直しが必要かもしれぬ」

 夜叉王は、寄生蜂の件もあり幾分慎重になりすぎていた。

 慎重になりすぎたゆえに、クリミナスの策にまんまとはまってしまったのである。




 翌朝、外壁に並ぶダミー人形と、もぬけの殻になっている砦を見て、夜叉王は遠い目になっていた。

「な・・・舐めおってぇえええええええええええええええええええええ!」

昨日アップしそこなったので、今日は2話あります。

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