逃げろや逃げろ
「魔王殿、お待ちしておりました」
アカネが回復したため、隙を見て砦にやって来た魔王が見たものは、撤退準備をする魔王軍の姿であった。
「ナニヲヤッテオルノジャ?」
出迎えたクリミナスに魔王が聞く。
「この砦から撤退するのですよ、魔王殿。すでに足の遅い歩兵部隊は撤退が終了しております」
クリミナスが作戦を説明し始める。
「この砦にいる魔王軍の数と敵の数の差は3倍以上。しかもこの砦は元々彼らのものです、どこに隠し通路等の仕掛けがあるかもわからない。私の予測では攻められたら、数時間ほどでこの砦は陥落しますね。ですので我らは尻尾を巻いて逃げます」
「フム、ココデ迎エ撃ッテモ、勝チ目ハ無イトイウ事ジャナ?」
「一時撤退を行い、ここから3日程度の場所で人族の連合軍と合流します。すでにクルガリオに命令書を持たせ先に向かわせました。そこに更に魔王殿の国からの援軍が来ますので、魔帝の軍との数の上での不利が無くなります。また、その場所は攻めにくい峡谷なので、魔帝の軍を迎え撃つのには最適な場所なのです」
「理ニハ適ッテオル。ジャガ魔帝ノ軍、イヤ・・・天龍八部衆ハ強力ジャゾ?」
「勇者たちがいれば、その辺も何とか出来たかもしれませんが。今回は相手の戦力を出来るだけ削り取る事を目的とします。後のことは合流してから考えましょう」
「イキアタリバッタリジャナ」
「まぁ、嫌がらせは考えていますけどね」
クリミナスはいたずらっ子のように笑った。
「ブーン、相手の動きが早まってるブーン、あと3時間もあれば、奴らがここに押し寄せてくるブーン」
蟲王バイラが触覚をヒクヒクさせながら言う。
バイラは威力偵察に来た魔帝軍に虫を、こっそり紛れさせていた。
バイラはその虫の位置で、相手の動きを知ることが出来る。
「バイラ殿のその能力は便利ですねぇ。相手の動きがつぶさに解り作戦も立てやすい」
バイラに地図を見せ、どのへんに敵がいるかを把握する。
「マキラ殿、幻影はちゃんと機能しておりますでしょうか?」
「私は専門家ですぞ、任せておきなさい」
夜王マキラは腕を胸に当てながらダンディに答える。
マキラは、撤退する様を敵に気づかれないように、砦全体に幻影の魔法をかけていた。
この規模の魔法を使える者は、全世界でも数えるほどしかいないだろう。
性格は変態でも能力は第一級なのである。
「魔王殿、敵にちょっとした、いたずらをしてみませんか?」
いつも冷静そうなクリミナスに、いたずらっこのような笑みが浮かぶ。
砦の外壁の上には、木や草で作られたダミー人形が置かれていた。
マキラの幻影により、これらも立派な兵士に見えるようになっている。
魔王はザキラとともに、その中央にいた。
「グルル、風に奴らの匂いを感じる・・・」
「ソウカ」
「敵の距離まで1キロメートルブーン」
魔王は魔法陣を展開する、砦を包み込むような巨大な魔法陣である。
「火炎ノ嵐」
古式の魔法で、見目派手な呪文である。
範囲数キロという広範囲にわたる攻撃を仕掛けられるのだが、見た目とちがい直撃での殺傷能力はあまり高くない。
せいぜい軽くやけどするくらいである。
派手なだけで決め手にかける為に廃れた魔法である。
マイナーな呪文なので、知ってる者も少ない。
魔帝軍に威力を知られない為に、直撃しないように調整して撃ち込んである。
それを数度、連続で撃ち込む。
派手に燃え上がり、見た目は火の海が出来たように見えるだろう。
「この砦に、物凄い戦力があるように見せかけて下さい。敵を混乱させ進軍を遅らせてくれれば十分です」
クリミナスは、そういった。
「マァ花火ジャナ」
魔王は身もふたもないことを言った。
派手に魔法を打ち込み、敵の進軍が止まったことを確認する。
「グルル、儂の背中にお乗り下さい魔王様。この場を離脱致しますガルル」
魔王はザキラの背中に乗り、砦から駆け去っていった。
「魔王様を乗せるなんて、うらやましいブーン」
バイラがそれを追いかける。
「やつらに、あれだけの戦力が?信じられぬ」
夜叉王は魔王の魔法を見て進軍を止めた。
「策の練り直しが必要かもしれぬ」
夜叉王は、寄生蜂の件もあり幾分慎重になりすぎていた。
慎重になりすぎたゆえに、クリミナスの策にまんまとはまってしまったのである。
翌朝、外壁に並ぶダミー人形と、もぬけの殻になっている砦を見て、夜叉王は遠い目になっていた。
「な・・・舐めおってぇえええええええええええええええええええええ!」
昨日アップしそこなったので、今日は2話あります。




