斬血丸
クロクロは勇者グロウリオンに駆け寄り、涙をボロボロとこぼしながら必死で回復の奇跡を掛ける。
だが一向に効果が現れない。
勇者の体は、黒の塊の死の魔力に侵食され、徐々にどす黒く変色していく。
「駄目よ、死んじゃ駄目!」
クロクロは勇者を抱き寄せながら、泣きじゃくっていた。
「あらぁん、聖女ちゃんを殺っちゃうつもりだったのにねぇ。まさか勇者ちゃんに当たっちゃうなんてねぇ」
いたずらが失敗したような、そんな軽い感じであった。
「そんなのアリかよ・・・」
斬馬刀を支えに立ち上がりながらクルガリオが毒づく。
クルガリオの体には無数の傷や骨折があり、クルガリオ自体も満身創痍の状態である。
グロウが倒される?あいつは勇者だぞ?そんなのが信じられるものか!
クルガリオの心がそう叫んでいた。
アカネが弓を魔女に向けて必死で撃つが、魔女の周りにある魔力の渦に全て弾かれる。
魔女はアカネの放つ矢など気にかけてもいない。
勇者を必死で助けようとしているクロクロをみながら、満足そうに邪悪な笑みを浮かべている。
「黒の魔女・・・本当にいたのかよ」
ハクは必死で対策を考えるが、あせるばかりで思いつかない。
「お兄ちゃん・・・ゴメンね」
アカネがハクの耳もろで囁く。
アカネは、部屋の奥にある、刀が封じられた祭壇に走る。
『絶大な力を保証する代わりに、持った人間に何かの代償を求める』
アカネはそれに掛けたのだ。
背後から「やめろ!」というハクの悲痛な声が聴こえる。
アカネは祭壇にたどり着くと、ためらいなく刀を引き抜いた。
『我は斬血丸、我に血を捧げよ、さすれば汝に力を与えん』
アカネの脳裏に声が響く。
迷っている暇はなかった、
アカネは、その刀で自分の腕を斬り裂く。
アカネの血が周りに飛び散る。
刀は生き物のように、その血を吸い取る。
『契約は成った・・・存分に我の力を使うが良い』
カランという音とともに、アカネの胸元からアルテミスのメダルが落ちる。
美しかったアカネの緑の瞳と髪が、赤き血の色に変色していく。
「斬る・・・斬る・・斬る・斬る!斬る!」
アカネはカッと目を見開くと、弾丸のように黒の魔女に向かっていく。
アカネはそのまま黒の魔女の懐に飛び込むと、目にも留まらぬ速度で斬血丸を振リ抜く。
「アカネは剣士の修行なんか、一切やってないはず・・・」
ハクはアカネの動きに驚愕する、それは眼を見張るような超一級の剣士の動きと技量であった。
斬血丸は、勇者の剣すら受け止めた魔女の暗く濃い魔力を深く斬り裂いた。
だが魔女にまでは届いていない。
「浅かった・・・斬る・・・」
アカネは、そのまま旋風のように斬血丸を振るい、魔女の魔力を削り取るように斬り裂いていく。
「私の魔力を斬っちゃうなんて。あの子のおもちゃも馬鹿には出来ないわねぇ・・・うふふふ」
魔女が指をパチン鳴らすと、魔女の周りに暗い魔法弾が数十個浮かびあがる。
魔女は、その魔力弾の全てをアカネに向けて矢継ぎ早に連続で発射する。
横殴りの雨のように飛んでくる魔法弾を、アカネは神速の速度で斬血丸を振るい、全て斬り裂いてみせる。
「全部斬ったの?何発かは当たると思ったのに」
魔女は驚嘆した、そして一瞬、一瞬だけ魔女は、アカネに意識を持っていかれていた。
その一瞬に、何者かが魔女に剣を突き入れていた。
剣はアカネの斬撃で薄くなった魔力の渦を突き破り、勢いを殺さぬまま、魔女の腹部から背中まで突き抜けた。
魔女から黒い鮮血が噴き出る。
魔女の血で周りが黒く染まる。
勇者グロウリオンだった。
グロウリオンの瞳からは光が失われ、全身死の呪いで黒く染まっていた。
まさに最後の力で魔女に一矢報いたのだ。
グロウリオンは、魔女に剣を刺し入れたまま、そのまま力尽き彫像のように動かなくなっていた。
その姿を、クロクロが泣き叫びながら見ていた。
「私に傷をつけるぅ?勇者ちゃんってば、人としてのリミッターがはずれたのかしらねぇ」
魔女は痛そうな素振りもせずに体から剣をぬるりと引き抜く。
傷口から血が滝のように流れているが、気にもしていない。
それどころか傷を愛おしそうになでまわし、指ですくいとった血を舐めとり妖艶な笑みを浮かべる。
「うふふふふふ・・・貴方達面白いわぁ。だから、まだ殺さないであげる・・・」
魔女は動かない勇者の額に軽くキスをすると。
闇に同化するように、消えていった。
過去話終了、元の時間軸に戻ります。




