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勇者はいってます。  作者: 夢見創
六章目 海原を越えていけ
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星の部屋

「ベヒモスすらも敵じゃないのかよ、クローディア。我が妹ながら信じられないな」

 首を綺麗に寸断されたベヒモスの頭をしげしげと眺めながら、クルガリオが感嘆の声を上げる。


 ベヒモスの皮膚は、騎士の鋭い斬撃でも弾かれるほど強固である。

 勇者のグロウは別としても、クルガリオ位の膂力があって、なんとか傷をつけられる程度。

 それがスッパリと綺麗な断面で切断されている。

 聖女の力というものは、これほどのものなのか。


「いえ、アカネがベヒモスの視界と動きを奪っていなければ、わらわの奇跡をベヒモスに当てることは出来ませんでしたわ」

 クロクロがアカネの肩をつかみ、クルガリオの目の前に押し出す。


「アカネも凄かったな、ベヒモス相手に冷静に動けてたじゃないか」

 そういって、アカネの美しい緑の髪(・・・)の頭をガシガシと撫でる。

 アカネは照れくさいのか顔を真っ赤にしている。


 彼女もまた、矢でベヒモスの硬い皮膚を見事に貫いている。

 冷静にそして確実に、皮膚が薄い関節の内側部分をピンポイントで狙っていたのだろう。

 なんという戦闘センスなのか。若干十二歳の子供とは思えない。


「しかし、このレベルのダンジョンにベヒモスとか・・・」

 ハクはぶつぶつと喋りながら、部屋を隅々まで丁寧に調べていた。




 そして見つけてしまった。




「クルガリオ様、この壁変ですよ?」

 ハクが星の配置図が書かれた壁を見上げている。一見すると、どこもおかしい所は見受けられない。

 星が散りばめられた、ただの壁である。


「星の位置が微妙に違うんです」


 ハクは星の位置を全て記憶しているというのか?


 ハクは、配置が違うという星を触る。

 するとその星が沈み込み消え、別の場所に星が出てきた。

 この壁は高度なパズルになっているようだ。

 ハクはひょいひょいと星を触り、星を移動させていく。


 いつのまにかクロクロも参加していた。

「ここはこうですわね、あら、アルゴルも違いますわね」

「クロクロ、そっちのほうはお前に任せる」

「解りましたわ、わらわにおまかせなさい」


 クロクロもハクと同じく星図を記憶しているのか?

 少年少女の二人が、手分けしながらものすごい速度で星図を完成に導いていく。

 ハクやクロクロが手が届かない場所は、グロウがクロクロを、クルガリオがハクを肩に乗せて作業を行った。

 クルガリオは二人の知識量の半端なさに舌を巻く。

 グロウも驚愕しているようだった。

 アカネは、ハクを信頼してるのか、あまり驚かず見守っている。


 そして数時間を費やし、数百あまりの手順を経て星図がついに完成する。


 すると重苦しい音があちこちから響き始め、部屋が振動しはじめる。

 振動共に中央の床が徐々に開き、下に続く階段があらわれる。


「ふむ・・・こんな仕掛けがあったのか」

 クルガリオが階段の下を覗き込んでいる。先は暗く全く視認できない。


「ハクがせっかく見つけたんだ、行ってみるしかねーよな」

 クルガリオは斬馬刀を構え、ニカッと笑う。


 階段は螺旋状になっており、長く深く続いていた。

 安全のため先頭はクルガリオ、殿はグロウが務めている。


 階段の壁には、東方系の絵図が面々と描かれている。

 ハクはその絵をしげしげと見ながら、難しい顔をしている。

「何かしらの神話の一節が描かれているみたいだなぁ・・・世界の創造と破滅?うーん」


 階段を降りる度に、寒気のするような気配が徐々に濃くなっていく。

 邪気などに敏感なクロクロが、その気配にあてられ少し気分が悪くなってきているようだ。


「大丈夫か?クローディア」

 クルガリオが心配そうに声をかける。

「この程度なら、まだ大丈夫ですわ・・・」

 クロクロは気丈に振舞っている。

 これほどの気配だ、この先に何があるかを確認しておきたいのだろう。


 辿り着いた先は、思ったよりも広く、そして薄暗い部屋だった。


 奥の方に祭壇のようなものがあり、祭壇の周りは東方の古い文字である甲骨文字が一面に書かれていた。

 その祭壇の中央には、鎖で何重も拘束された一本の剣・・・いや形状から刀か?があった。


 クロクロが顔をしかめている。

「・・・なんて禍々しい邪気・・・」

 刀は赤い鞘に入っており、鞘と鍔の隙間から禍々しい邪気が漏れ出ている。


「絶大な力を保証する代わりに、持った人間に何かの代償を求めるそんな所かな?たぶん相当性格の歪んだヤツが造った代物だね」

 ハクが、かろうじて読める部分をつなぎあわせ、そう推測する。


「呪われた武装というやつか。残念だがこいつは、このままこの場所に置いとくのが正解だな」

 クルガリオが少々残念そうな顔をしている。

 クロクロやグロウも同意見らしい。

 ハクもアカネも反論することはない、こんな武器は世に出ないほうが良いのだ。


「さて、地上に戻ろうか」

 ハク達が出口に向かおうとした・・・その時。




「あらぁ、面白い魔力が近くにいるから来てみたら、聖女ちゃんと勇者ちゃんじゃないの」

 声は美しいが、底冷えのするような冷たい女性の声が部屋に響き渡る。


 そしてハク達の目の前に、闇から滲み出てくるように、青白い肌の妖艶な女性が現れた。






 悪夢の始まりだった。

過去話続きます

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