帝都クロノクルス
荘厳な意匠が施された部屋の玉座に五十代後半の威厳のある男が座っている。
背は高く筋骨も隆々であり、目は獣のような鋭い眼光がきらめいている。
彼の頭には荘厳な冠が被せられ、彼の手には豪奢な王笏が握られている。
彼こそ、クロノクルスの皇帝『クーデリアス・クロノクルス一世』であった。
そのもとに、乱暴に部屋に入ってた一人の偉丈夫が駆け寄ってくる。
「親父!なにがおきた?」
クルガリオであった。
「父帝の御前だぞ、静かにせい」
皇帝の傍で控えていた、線が細く神経質そうな男がクルガリオを諌める。
彼はこの帝国の第一皇子であり宰相でもある『クリミナス・クロノクルス』である。
クルガリオの直系の兄であり皇位継承権第一位、このままであれば彼が次の皇帝である。
「うっせいクリミナス兄貴、緊急事態なんだろうが」
「何だその口の聞き方は!」
クリミナスは語気を強める。
「二人共静かにせぬか」
皇帝が野太く威厳のある声で二人を諌める。
「斥候からの報告だ。3日前、魔王の軍25万が魔帝の軍50万に戦いを挑み、そして勝った」
クリミナスは冷静さを取り戻し斥候からの伝聞を言う。
「あぁああん?なんだそれは、魔王の軍が、二倍差の魔帝の軍に勝ったのかよ。あのへっぽこ魔王自らが戦場にでたのか?」
ヘックチ!
魔王がかわいいくしゃみをした。
「ナンジャ?」
魔王はきょろきょろ周りをみわたした。
「詳しいことはまだわからぬ。だが、それに怒った魔帝が報復として、魔王と人類に対し大々的な戦いをしかけるという噂が帝都に流れている」
「噂が流れるのが早過ぎるな。うちの斥候はさっき報告してきたばかりなんだろ?まだこの事は機密扱いのはずだ」
「あぁそうだ、何者かによって意図的に噂を流されている。魔王か、魔帝か・・・」
「何のためにだよ、いや・・・魔帝なら児戯のつもりでやるかもしれんが」
「早急に魔帝に対して、我が国の対応を決めねばならん」
皇帝が言う。
「円卓会議か?」
クルガリオが問う。
「そうだ、帝都にいる大臣や将軍たちにはすでに招集をかけている」
円卓にクリミナス座り、その隣にクルガリオが座っている。
クリミナスにクルガリオが話しかける。
「なあ兄貴、本当に皇帝にはならないつもりか?」
「あぁ、俺は臣民に人気がないからな、皇帝になっても人がついてこない」
「そんな事はないと思うけどなぁ」
実際クリミナスの実務能力に不満はなく、少々厳しすぎるところがあるが、彼が言うほど人気がないというわけではない。
「このまま宰相の地位で、この国を裏から動かす方が性に合っていると言ったほうがいいか?」
「あぁ、それなら納得するな」
クルガリオが笑う。
「ちきしょうめ、後でこき使ってやる覚悟しろ。そもそもお前も皇帝になる気はないんだろ?」
クリミナスは苦笑している。
「おれは肉体派だからな、玉座に縛られるのは性に合わん。その代わり軍部はおれに任せとけ、兄貴に悪いようにはしねえから」
「お前らしいなぁ」
「うっせえよ!兄貴」
実はそんなに仲が悪い兄弟ではないらしい。
二人っきりの会話を聞く限り、むしろ仲は良さそうだ。
「いっそ、クリスティナを女帝にするのもいいな」
「あいつは人気もあるし、頭も顔もいいから申し分ないんだが、あいつも皇帝になりたがらない気がするんだよなぁ。今だって見合いから逃げてるんだろ」
「逃げるどころか家出中だ」
クルガリオがあきれた顔をする。
「あいつは勝手に一般人と結婚して飯屋とか宿屋とか経営していそうだよな」
二人が同時にため息をこぼす。
「やはり、クローディアとグロウリオンしかいないか。母上もクローディアを自分の娘のように可愛がってるし、文句はないだろう」
「クローディアは母上の最愛の妹の忘れ形見だし、しかも聖女だ。母上は俺達が皇帝になるよりも嬉しがりそうだな。グロウリオンも勇者だし呪いさえ解ければ俺もそれでいいと思うんだがな」
「黒の魔女の呪いか」
「あぁ、クローディアとハクが呪いを解く方法を探しているが、あの呪いは厄介すぎる。あの糞魔女め、今度あったら八つ裂きにしてやる」
クルガリオの拳がきつく握られ怒りで震えていた。
重い扉の音がする。誰かが円卓の部屋に入ってきたようだ。
「大臣たちがきたようだ、この話はまた後でゆっくりな」
「おっけー兄貴」
大臣や将軍たちが円卓に座り、最後に皇帝がゆっくりと部屋に入ってくる。
「さぁ、覚悟を決めようか」
クリミナスが立ち上がり、円卓会議が開始された。
新章の始まりです。
此処から先は、あわただしい展開が続くと思います。




