神獣の力
ケルベロスは、その鋭い牙でハクの喉に食らいつこうと疾風のように襲いかかってきた。
ハクはそれを棺桶でかろうじて防御する。
ガキンと金属に弾かれる音がする。
『硬いのう』『硬い硬い』『自慢の牙が折れるかと思ったぞ』
棺桶のあまりの硬さに驚いたのか、ケルベロスは棺桶から口を離しジャンプするように一旦さがる。
だが目線はハクから全く離さない。
『ならば』『そうじゃな』『やってみよう』
ケルベロスのまわりに、濃い魔力が集まりはじめる。
『痺れろ』『砕けろ』『斬り刻まれろ』
雷撃、投石、風刃の魔法。
ケルベロスの3つの頭が、3つの呪文を同時に唱えハクへと放つ。
その一発一発が、上級の魔道士が唱える魔法以上の速さと精度と威力を持っている。
神獣は、魔法すらも自由に使いこなすのか。
ハクは棺桶を振りかざし、その魔法を同時に弾き飛ばす。
だが魔法の威力を完全に封じる事はできず、棺桶ごと数メートル後ろに持っていかれる。
『その棺桶』『魔法すら弾くか』『すごいね』
ケルベロスが感心している。
ハクは息を吐き棺桶を持ち直すと、重い棺桶を持っているとは思えない速度でケルベロスの懐に飛び込み、ケルベロスの前足に棺桶を勢いよく叩きつける。
だがケルベロスは、そのオーガすらも一撃で倒す重い攻撃をいともたやすく弾く。
ハクは、何度も何度もケルベロスに向かって棺桶を振り下ろすが、弾かれ、躱され、ダメージらしいダメージを与えることが出来ない。
鋼のような獣毛の尋常ならざる防御力と、肉食獣特有の俊敏性。
棺桶による打撃だけではどうにもならない。
『我らに』『そのような攻撃は』『効かん』
ケロベロスはにやりと笑い、巨大な前足でハクを凄まじい速度と威力で殴りつけた。
ハクは棺桶を盾にし直撃は避けたものの、下から突き上げられる形となり、バウンドしながら部屋の壁近くまで吹き飛ばされる。
直撃していれば、あの鋭い爪に引き裂かれ間違いなく死んでいた。
ダメージが思いの外大きかったらしく、ハクは苦悶の表情をみせる。
ハクがここまで苦戦するのを見るのは珍しい。
いまだにケルベロスにダメージらしいダメージは入っていない。
さすが神獣というところであろう。
「ハク・・・だいじょうぶキル?」
アカネが不安そうにハクとケルベロスの戦いを見ている。
誰もそれに答えられない。
クロクロすらも、何も言えず戦いを見守るだけになっている。
「我ガ戦エバ、ナントカナッタヤモシレヌガ」
魔王が誰も聞こえないくらいの声でつぶやく。
蟻が象と戦っているようなものだ、魔王にはリボーンがなぜこんなことを仕組んだのか判らなかった。
状況は圧倒的にハクの不利だった。
ハクは棺桶を車両モードに変形させ、黄色のボタンを押しドリル装備を出現させる。
ケルベロスの魔法攻撃を避けながら部屋の外周を使って加速、十分に加速が乗った所で、ケルベロスに向かって全速力で突撃を開始する。
ケルベロスとはいえ、加速の乗った超硬ドリルを使えばダメージが入る。
『早いな』『面白い』『だが』
棺桶のドリルがケルベロスに接触する寸前に、ケルベロスはすっと横に躱し、そのまま棺桶をハクごと横合いから蹴り飛ばした。
『単純』『甘い』『見きれる』
きりもみ回転しながらハクと棺桶が部屋の壁まで吹っ飛んでいき、壁に叩きつけられる。
アカネの絶叫が聞こえる。
数百キロ程度の物体なぞ、ケルベロスにしてみれば、なんと軽いものなのか。
ハクは頭から血を流しながら、一瞬アカネを見て、ふらふらと立ち上がる、もう棺桶を振り回す余力さえもなさそうだ。
棺桶をその場に置いたまま血を拭い、腰から魔導電磁レール銃を引き抜く。
ケルベロスはそれをみて口角をあげ、にやりと笑う。
『知ってるぞ』『知ってる』『光を放つ棒であろう?』
ハクが驚いたように目を開く。
『我らは、このダンジョンの主』『このダンジョンで起こりし事』『すべて知っている』
『水竜』『火炎ゴーレム』『それで倒された』
『さぁ』『我らに向かって』『光を放ってみるが良い』
「ちくしょう!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ハクは絶叫を上げながら、引き金をひいた。




