夜叉王
死禁城、周囲4キロメートルにも及ぶ巨大な城。万を数える者達がたった一人の主のために蠢く魔城。
贅を尽くした装飾に彩られた城は絢爛豪華ではあったが、どことなく肌寒いような不気味さを漂わせる不思議な場所であった。
その最奥、玉座の間。
半身半獣の者、緊那羅王が、主のおわす御簾の前に傅いている。
「死皇帝様、魔王軍に夜叉王が敗れ敗走。現在残る配下十万を率い、牛貨洲第二砦の方に後退している模様です」
彼の美しい声は驚きを隠せていなかった。
修羅王と並び夜叉王は戦上手である、特に守りにおいては夜叉王以上の能力を持ったものはいない。
それが敗走するとは思いもよらなかった。
「夜叉王が敗れるとはな、敵の数を見誤ったかの?」
主が緊那羅王に問う。
「いえ・・・魔王軍二十五万に相違ありませんでした。だが奴らの中に奸計を使うものがいたらしく、夜叉王はその罠にまんまとはまった模様です」
「奸計とな?」
主が興味深そうに聞く。
「寄生蜂を使った、身の毛もよだつ下種な物であったと聞きます」
緊那羅王が震えるような声で答えた。
「なんと」
主が驚いている。
だが同時に楽しんでいるようにも聞こえる。
「ふむ・・・ならば夜叉王には、さらに70万の兵を下賜与える。夜叉王に汚名の返上をさせよ」
「ありがたきお言葉、夜叉王も喜びましょう」
主の言葉に、感極まったように緊那羅王が平伏する。
「では、早速、夜叉王に主の命を伝えますれば・・・」
緊那羅王はすくっと立ち上がり、一礼し主の元から去っていった。心なしか嬉しそうであった。
「ふははははははははははは、あの夜叉王が負けるか」
主の傍にいた美しい男が、耐え切れず笑い出す。
「くっくっく、修羅王よ、今回は本当に楽しめるのう」
主も笑いを抑えきれないようであった。
「これは、本当にカリ・ユガが始まるやもしれん」
「それは僥倖、では俺も遊戯の準備をはじめよう」
修羅王はそう言うと、転送門を開き何処かへと消えて行った。
牛貨洲第二砦。
静かな部屋の中で、フードを深く被った細身の者が豪奢な椅子に座っていた。
どことなく苛立ってるようである。
「あの卑怯者ども、次は八つ裂きにしてやる」
顔を隠していたフードを乱暴になげすてる。
フードの下から現れたのは、黒髪の美しい女性であった。
額には2本の短い角が生えている、彼女こそ鬼神夜叉王である。
「このあたしが、あのような奸計で敗走するとは・・・修羅王が笑う顔が目に浮かぶわ、忌々しい」
いらだつ夜叉王のいる部屋に、すすっと大蛇が忍び込んできた、そして夜叉王の目の前で化身する。
大蛇が化身したものは、見た目は一見普通の人間の男に見えたが、首には蛇のような鱗があった。
男の目は細く鋭く、金の瞳の瞳孔は縦に裂けていた、全体から薄ら寒い雰囲気のする男であった。
「何用じゃ摩睺羅伽王、私を笑いに来たのか?」
夜叉王は美しく鋭利な目で、その男を睨みつける。
「いえいえ、そのような事は。主の命により70万の兵を連れてきただけですよ?主はこの兵を使い、汚名を返上せよと主が仰せです」
摩睺羅伽王が静かにうやうやしく言う。
「天・・・いや、死皇帝様がそのような事を・・・判った、主の期待に答えよう」
思わぬ増援に、夜叉王が歓喜で震えている。
「魔王配下の痴れ者共・・・覚悟するが良い」
夜叉王は、その美しい口を歪ませにやりと笑った。
摩睺羅伽王はそんな夜叉王を横目で見ながら、再び大蛇となり何処かへとさっていった。
あとは龍王で八部衆も揃いますね。




