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勇者はいってます。  作者: 夢見創
五章目 古代の神殿と騒がしい者達
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蟲王の奸計

はじめ言っておきます。

今回の戦いは酷いです。

 魔王軍は、膠着状態に陥っていた。

 牛貨洲の巨大な砦には、夜叉王の率いる50万の兵力がいたのだ。

 それに対して、魔王軍は25万。

 数にして倍の差がある。


 そもそも砦とか城を攻めるには3倍の兵力が必要というのがセオリーである。

 これでは戦略として全く成り立っていない。

 むしろあちらから、攻められてもおかしくはない。

 だが、余裕なのか罠なのかは判らないが、魔帝の軍は砦から一歩も出る気がないようだ。


 取り囲めないため兵糧攻めも使えない、むしろこちらの方が補給線が長いため長期戦には耐えられない。


「さて、どうするかの」

 巨大な赤竜である竜王ゴウラが難しい顔をしている。

「勢いできたものの、あの戦力で固められるとは思いませんでしたな」

 燕尾服を着たダンディな男、夜王マキラも腕を組み鋭い目で敵の砦を見ていた。

「ガルル魔王様がおれば、あの砦など一撃だったのにグルル」

 美しい銀の毛並みを持つ巨大な銀狼、獣王ザキラが悔しそうな表情をしている。


「なんとかなるブーン、簡単だブーン」

 巨大な甲虫、蟲王バイラがなにかいいだした。


「なんじゃと?なにか策があるのかバイラ」

 竜王ゴウラが恐ろしい顔で蟲王バイラを睨みつける。


 蟲王バイラがひょいと前足を上げると、一匹の小さい蜂がとまった。

「こいつは寄生蜂と言うブーン」

 とんでもなく嫌な名前だった。


「こいつを砦に忍び込ませて、魔物数体に卵を植え付けさせるブーン」

 その先を想像して他の王が青くなっている。


「植え付けた卵は1日で孵化して、宿主を内側から食べながら成長し、3日で成虫になって宿主を食い破って出てくるブーン、その時100倍の数に増えるブーン」

 想像通りで頭を抱え始める。


「もちろんバレないように幼虫の間は粘液麻酔を宿主に流してるブーン、宿主はちゃんと意識あるブーン、ちょっと調子悪いかな?くらいブーン」

 皆、眼の焦点が合わなくなってきている。


「そして成長した蜂は、さらに近くの魔物を襲うブーン。それの繰り返しブーン」

 皆、ガクガク震えはじめる。


「2週間もあれば、あの砦くらい落ちるブーン」


 身の毛もよだつ作戦というのはこういう事を言うと思います。


「あの砦に魔王様がいたらどうするのですか?」

 夜王マキラが心配そうに尋ねる。

「魔王様の気配は感じないから大丈夫ブーン、もし居ても寄生蜂は魔王様には絶対服従だブーン」

 寄生蜂が前足を上げた、なぜかサムズアップをしたように見えた。




 10日後。


 牛貨洲の砦から、無数の煙が上がり何かが焼けるような匂いがしていた。

「これは魔物が焼ける匂いガルルル」

 鼻が利く獣王ザキラが嫌な顔をする。


「あの夜叉王って凄いブーンね、寄生された魔物を躊躇(ちゅうちょ)なく生きたまま焼いちゃったみたいブーン、なかなかやれることじゃないブーン」

 夜叉王が蜂の存在を気づき、味方の魔物ごと焼き払ったようだ。

 その行動を蟲王バイラが賞賛する。

 そんな蟲王バイラを他の王が白い目で見ている。


「でもまぁ、少し気づくのが遅かったブーン、半分は殺ったみたいブーン」

 平然と言い放つ蟲王に他の魔将たちが戦慄する。


「今なら攻め時ブーン」

 軍というのは、20%が損害受けた時点で機能不全に陥る。

 今回は50%の損害だ、もうぼろぼろだろう。


「ゆくぞ者共!奴らを焼きつくす!」

 竜王ゴウラと配下の飛竜兵団一万が飛び出ていく、砦の士気は最低まで落ちており、竜王ゴウラや飛竜に命中するような対空攻撃はない。

 制空権を確保し安全となった高空からブレスで砦の上部を焼きつくしていく


「グルル儂に続け!」

 竜王ゴウラが制空権を確保したことを確認すると、獣王ザキラが砦正面の門をぶち破り配下の魔獣十万が砦内部に雪崩れこんだ。

 魔獣たちは近くにいる魔物の喉笛を、手当たりしだいに食いちぎっていく。相手は抵抗する余裕すらない。


「さてスマートに行きましょう」

 夜王マキラ配下の魔人達四万は、獣王ザキラ配下の魔獣たちが暴れているのを横目で見ながら、砦の重要地点を重点的に攻めていた。

 ついでに敵の情報を集めているところに抜け目なさが出ていた。


「みんな頑張るブーン」

 蟲王バイラの配下十万は乱戦になると味方を誤爆しかねないため後方待機となっていた。

 蟲王バイラはやることはやったため、旗を降って他の王の応援をしていた。


 まさに蹂躙であった。


 数時間後、砦は魔王軍の手に落ちた。

 3万は魔王軍に狩られ、5万は命からがら逃げだし、おとなしく投降してきた者は5万であった。

 27万は蟲王バイラの奇計によって、突入時にはすでに命が失われていた。


 夜叉王の姿は砦にはなかった。

 斥候部隊のサイムからの報告によると、魔王軍の攻撃が始まる前に、裏の門から十万の配下を引き連れ遁走(とんそう)したらしい。

 となると、魔王軍と戦っていた者達は捨て石だったようだ。


 魔王軍の完全勝利であった。




 占領した砦の広場に、蟲王バイラと竜王ゴウラがいた。

「なぁ蟲王よ」

 竜王ゴウラが遠い目をしていた。

「何だブーン」

「今回の寄生蜂の計、今回っきりにしようぞ」

「何故ブーン?」




「魔王たんに嫌われる」




 蟲王バイラの顔が青ざめた。

「わ・・・わかったブーン」


 蟲王バイラの周りを飛んでいた寄生蜂も、こころなしかシュンとしていた。




「・・・おのれ卑怯者共、この借りは絶対に返すぞ」

 フードを深く被った夜叉王は後ろを振り返りながら怨詛の言葉をはいていた。

ブーン、いやぁああああ

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