赤いボタン
迦楼羅王は上にいるアカネを魔力で弾き飛ばし、ゆらりと立ち上がる。
アカネが再び攻撃をしようとするが、強力な障壁に阻まれ近づけない。
「ぬぉおおおおキルゥウウウゥウ」
斬血丸で連撃を放つがアカネの技量であっても迦楼羅王へ斬撃を届かせる事はできない。
そんなアカネを無視し、迦楼羅王は再び空中へとゆっくりと浮上しはじめる。
「・・・絶対に許さぬ・・・」
迦楼羅王は怨嗟の声をあげる
そして地上からの攻撃が届かない場所まで浮上すると、迦楼羅王は自分に向かって魔力を放ち始める。
なにかを決意したような迦楼羅王に危険を感じたアオイは、止めを刺すべく接近する。
だが、その直前でヘーラーの姿が掻き消え、アオイは空中に放り出される。
「くっ・・・やっぱりタイムリミットかぁ」
アオイは着地寸前で地面に気を放ち落下速度を殺し軽くストンと着地する。
「あと一撃で倒せたのにぃ」
悔しそうに迦楼羅王を見上げる。
「あの量の魔力を自分に集めて、何をやるつもりかしら?」
クロクロは目を凝らしながら、迦楼羅王の凄まじい魔力の奔流を見ていた。
「アレはやばい・・・たぶん自爆だ。自分の魔力を暴走させて、この辺をまるごと焦土にするつもりだ」
ハクが左目のモノクルを触りながら言う、少し声が焦っている。
「死なばもろトーモという事でショーカ」
迦楼羅王は高空にいるため、いかなピエールさんでもどうにもならない。
クロクロの精霊王達が波状攻撃を行い迦楼羅王を止めようとしてはいるが、迦楼羅王の障壁に弾かれている。
障壁の中で迦楼羅王は微動だにもせず、ただ自分に向かって無心に魔力を放ち続けている。
魔王とミリが防御魔法を多重に張り備えるが、迦楼羅王級の魔力の暴走を止められるかどうかはわからない。
「くは・・・くはははは・・・貴様らも一緒に死ぬよい・・・」
迦楼羅王の周りに紫電が走り始める、臨界が近くなっている。
もうすぐ暴走が始まる。
「ハク、赤いボタンを使うぞ」
ドランがハクに耳打ちをする。
「お前、あのボタンは絶対押すなって言ってたじゃないか」
「緊急事態じゃ、今の状況を何とかするには赤いボタンしか無いのじゃ」
ハクは嫌な予感を覚えるが、他に手はない仕方なく魔導棺桶車両に乗り込み、カバーを外し赤いボタンを押す。
その瞬間、めまいがするほどの量の魔力を魔導棺桶車両に吸われる。
「ぉ・・・ぉい、ドラン・・・」
『エネルギー充填、セーフティロックが解除されました』
奇妙な声が聞こえたかと思うと、棺桶が車輪と分離し持ち上がり、棺桶の前方にレールのようなものが伸びる。
同時に棺桶の後ろから望遠鏡に似たものが出てくる、ハクが覗き込むと+のマークが中央に浮かんでいた。
『ターゲットスコープオープン、ターゲットをロックして下さい』
「ハク棺桶を動かして、その+のマークをあの魔物に合わせろ」
ドランがハクに指示をとばす。
迦楼羅王周りの空間が歪み始めている、魔力暴走がいつ始まるか判らない状態だ。
迦楼羅王の笑いが聞こえる、すでに彼の目からは光がなくなり暗く虚ろになってる。
もう迷っている暇はなかった。
「あぁくそ!解ったよ!」
ハクは指示通りに棺桶を動かし、+のマークを迦楼羅王にあわせる。
『ターゲットロック確認、ショックアブソーバーを展開、安全確保のため3秒以内にここから離れて下さい。3・・・』
車両の前方に伸びたレールに、稲妻のような光が発生しはじめる。
「ちょ!おま!ドラン、お前一体何を仕込みやがった!!!!!」
ハクは魔力不足でふらふらになりながらも全力で逃げる。
光がどんどん強くなる。
「お前ら!耳を塞ぎ、口を開けておけ!」
ドランが変な指示を皆にとばす。
ドラン本人もしっかり耳を塞いでいる、これは絶対碌でもないことだ。
『2・・・1・・・0、発射!』
音すらも斬り裂く衝撃と閃光とともに、初速三キロメートル秒ものスピードで棺桶が撃ちだされていった。
棺桶はわずか0.1秒で迦楼羅王に着弾、そのまま迦楼羅王の体ごと輝く光となって遥か彼方へと飛んでいった。
ついでにハクも発射時の衝撃波にふっ飛ばされて、地面をコロコロと転がっていた。
魔導電磁レールガン・・・オーバーテクノロジーもいいところである。
ドラン以外の人間の目が全員点になっていた。
数秒遅れて聞こえてきた巨大な爆発音と共に、チーンという嫌な音が聞こえた気がしたが、全員聞かなかったことにした。
「ドラン・・・しっかり回収してくるのですわ」
クロクロがジト目でドランを睨みつける。クロクロの額には青筋が浮かんでいた。
「イエスマム!」
ドランは汗をたらたら流しながらクロクロに綺麗な敬礼をすると、すぐさまヘーパイストスを召喚し、棺桶が飛んでいった方向へすっ飛んでいった。
たぶん二十キロメートルは飛んでいる。
回収して帰ってくるのは少なくとも夕方以降になるだろう。
ハクは転がされた状態のままうつ伏せになっている、そんなハクの頭をアカネがペチペチたたいている。
クロクロはハクに近づく。
「ハク、貴方、自分が魔法を使える事を忘れておりません?」
ハクは・・・目をそらした。
「いつもは魔法を使うより、棺桶で殴ったほうが早く解決するからな、クロクロも俺が魔法使えるの忘れてたろ」
クロクロも・・・目をそらした。
「そもそも俺の魔術は扱いづらいんだ。今回のような乱戦向きじゃないんだよ、それはクロクロも解ってるだろ?」
「そうですわね」
クロクロはそういうと左目の眼帯に手をふれる。
「まだ、足りないか?」
「まだ足りませんわね」
ところでピエールさん、迦楼羅王配下の鳥みたいな魔物の死骸を丹念に調べてるのは、どういったおつもりでしょうか?
うん・・・碌でもなかった・・・




