兄貴
ダンジョンを出ると、そこには三十代前半位の筋骨隆々の偉丈夫が立っていた。
周りには、彼の部下らしい剣士や騎士、魔法使いなど二十名前後の兵士が隊列を組んでいた。
「よぉ!ハクじゃないか」
偉丈夫がダンジョンから出てきたハクに声をかける。バリトンボイスのいい声だった。
「あれ?クルガリオ将軍、お久しぶりです」
「兄上様お久しゅう御座います」
「おう、クローディアも久しぶりだな。元気だったか」
「はい、おかげさまで」
クルガリオ・クロノクルス、この国の第二皇子であり皇位継承順位は第二位、第三皇国軍を率いる将軍でもある。
豪快な人物で、現在の皇帝に一番似た息子と言われている。
クロクロがいつもと違い素直な感じなのは、この兄はどこかの変態兄と違い敬愛できる人物なのであろう。
将軍はクロクロの黒のドレスをちらっと見ると。
「まだ、その喪服を着てるのか?クリスティナが心配しておったぞ?」
「・・・」
クロクロが目を伏せる。
「ところで将軍は何故ここに?」
「グリフ辺境伯に娘がどうとかと泣きつかれて、このダンジョンの攻略に来たんだが無駄足になったみたいだ。お前らが出てきたってことは、このダンジョンの攻略は終わったんだろ?」
「ええ、そうですね、最深部まで到達したと思います」
「くそう、気晴らしに暴れようと思ったのに・・・で、何か面白いことはあったか?」
悔しそうにしながら、将軍が興味津々で聞いてくる。
そもそも将軍の立場でこのような雑事に来るはずもなく、本当にただ暴れたかったのだろう。
「守護竜を倒し、ヘーラーのメダルを発見しましたわ」
そうクロクロが答える。
「こんな場所にヘーラーがあったのかよ」
「わらわにも想定外でしたが、ヘーラーのメダルはこのダンジョンの最奥の祭壇に封じられてましたわ」
「まぁ守護竜がいたってことは、並の人間では攻略は無理な話だろうし、今まで発見されて無くても不思議ではないのだが・・・そもそも竜の話も俺は初耳なんだがな」
「ハクが調子にのりダンジョンの壁等を壊して新しいルートを作っていましたし、偶然つながったのかもしれませんわね」
「・・・ハク・・・お前何やってたんだ?」
クルガリオがジト目でハクを見る、ジト目はこの皇家の伝統技なのだろうか。
「・・・ちょっと、やんちゃを」
ハクは必死で目をそらしていた。
ピエールさんが、戦利品の竜の肉を取り出して仕込みを始めている。
今夜の料理は竜の料理になるらしい。
あわれ竜。ピエールさんにかかれば守護竜ですらただの食材でしか無い。
竜の肉は1センチ厚ぐらいに正確に切り分けられ、ぱらぱらと香草や塩、香辛料が絶妙な塩梅でふりかけられていく。
毎度のことながら、隙の無い完璧な仕事をしていた。
将軍が、仕込み作業をしているピエールさんを見て頭をひねっている。
「どうかしましたか?」
「あの料理人どこかで見たような気がするんだが・・・」
「ピエールさんの料理は超一流ですからね。将軍もどこかであの人の料理を食べたのでは?」
「んーそう言うのでは無い感じなんだがな・・・お?ドランもいるのか、ちょっと行ってくるぜ」
将軍がドスドス走って、ドランの所に向かっていた。
将軍とドランはハクより古いつきあいだ、色々つもる話もあるのだろう。
二人は互いに背中をバンバン叩き合ってゲラゲラ笑いながら話していた。
そのうちにドランが竜の爪をとりだし自慢をし始め、爪で互いの頭をガンガン叩いて「硬いぜ!」「硬いな!」とかやっている・・・
頑丈でお馬鹿な二人だった。
夜の食事は、やはり竜の肉料理であった。
将軍と部下の兵士たちも一緒にご相伴になる。
「うめぇえええええ、これが竜の肉かよ!」
「竜をみたら、食い物にしか見えなくなるかも・・・」
「感動した、感動したぁあ」
ソテーにされた竜の肉は、鳥の肉のような食感で濃い旨味があった。
香草とダンジョン産の香り高いきのこが添えられ、肉と一緒に食べると口の中でなんとも言えないハーモニーが奏でられる。
肉汁とビネガーを煮詰めた、少し酸っぱい特製のソースがもう言葉にならないほど合っている。
当然、皆が奪い合うように食べていた。
「シャーーコレハ、オレノ肉、シャー」
一部野生化していた。
三十人程度で七十キロ近い肉が消費される。内訳はハクが1、ドランとクルガリオで1、他が8である。
食事中、兵士たちが隙を見ては魔王に話しかけようとしていたが、ミリに全員阻まれていた。
ミリのバリアは、なかなか強固であった。
そんな光景をアオイが死んだ魚のような目で見ていた。
「やっぱり・・・コキャっとしなきゃ・・・うへ・・・うへへへへ」
なにをコキャっとするのか?
魔王はゾクッとする寒気を感じていた。
腹が膨れたら、やはりと言うか、そのまま酒盛りに突入していた。
竜のモツを煮込んだものがピエールさんからつまみとして出され、あまりの旨さに泣き出すものまでいた。
将軍の部下たちも上司がアレなせいかノリが良く、やんややんやと楽しくやっている。
ドランが変な踊りを披露していたが、これは気にしないでおこう。
魔王がミリの目をしっかり塞いでいたということで、どんな踊りだったかは想像はつくだろう。
将軍が酒樽を持って、酒宴の外にいたハクの隣にどかっと座り込んでくる。
ハクのジョッキに酒を注ぐと、自分はそのまま酒樽でラッパ飲みをし始める。
「俺のアレースは役にたってるか?」
「おかげさまで・・・ただ、そんなに長くは持たないかもしれません」
ハクはちらっとアカネの方をみる。アカネは剣士たちと模擬戦のようなことをやっていた、そして圧勝していた。
「そうか・・・まぁ、何かあったらいつでも言え。俺が力になってやる」
「将軍とクロクロには、いつも迷惑をかけますね」
そういうと、ハクは苦笑する。
「アカネに関しては俺にも責任があるしな。それにお前は俺の可愛い弟分だ、あの件がなくても力は貸すに決まってるだろう、存分に兄貴分を頼りやがれ」
ポンポンとハクの肩を叩く。
そんな二人をクロクロは遠くから見ていた。
そして手に持った紅茶を一口飲むと、綺麗な夜空を見上げた。
久々に、まともな人きた・・・




