偽装聖女
ダンジョン編かとおもいきや、横道行き
アオイはドランの馬車の御者をしながら昔の事を思い出していた。
アオイは、帝都の裕福な商家の三男坊として生まれた。
類まれな美しい容姿で生まれたため、幼い頃からちやほや甘やかされて育ち、自分でもその容姿が優れていることを自覚していたため、10歳の頃には老若男女問わず誘い毒牙にかけまくる淫魔のような少年と育っていった。
また物欲も凄まじく、富や美しい宝、全てを手に入れたがった。そして自分の容姿を餌として使い、悪魔のような手腕でそれらを次々に手に入れていった。
アオイはまるで神につかえる聖女のような清楚な感じの女装を好んだ、もともと絶世の美少女にしか見えない容姿だったため、この服装と良く鴨が寄ってくるのだ。
この頃から、アオイのことを良く知るものは「偽装聖女」という名で呼ぶようになっていた。
「あはははははは、世界中の富はぁ、全て僕の前に集まるのぉ」
アオイは有頂天の絶頂にあった。
息子の悪行に頭を抱えたアオイの父は、当時世界最高の武人といわれ心技体ともに優れた格闘家へアオイを弟子として修行に出した。
きっとこの師匠なら、アオイの心も体も鍛え上げてくれるだろうと信じていた・・・
父もアオイ本人も知らなかったことだが、アオイは武の才能において、不世出の天才であった。
常識はずれの反射神経と運動能力、また技を身につけるセンスも速度も常軌を逸していた。
師匠もこのアオイの能力を気に入ってしまい、自分の持つ技の全てをアオイに伝授してしまったのである。
そしてアオイは、たった二年で師匠の力と技を凌駕した。
「父上殿、我輩、あ、アオイきゅんに、もう教える事が無くなりました、いえ・・・むしろ新しい世界を教わりましたぁ」
生気を失い見る影もなくやつれ、ゾンビのようになった師匠は、そう言い涙を流しプルプル震えながらアオイを親の元へと戻しに来た。
アオイきゅんって・・・新しい世界って・・・
見た目は天使、心は悪魔、格闘家としては最強、ここに・・・ろくでもないクズ格闘家が完成したのである。
この時アオイはまだ十四歳であった。
生気を吸われたような師匠に比べ、この時のアオイは、どことなくツヤツヤしていたという。
アオイは、さらなる悪行に手を染めるようになった、そして誰も止めることはできなくなっていた。
港街ラクス。
大陸の流通拠点でもあるこの街は、人が集まり活気に溢れそして富も集まっていた。
アオイは、クラウス・リグラスと言うこの街の若い領主に目をつけた、彼を落とせばこの街の富は自分のものとなる。
彼がガマガエルのような親父じゃなく、若くてイケメンなのもポイント高い。
アオイは虎視眈々と計略をねり、罠をはりめぐらせる。
蜘蛛の糸のように一度捕まえたら逃げさいように・・・
出会いを演出し、自分に対する興味をクラウスに抱かせる、そして偶然や必然風の事柄を繰り返し、じわじわと心に侵食してくのだ。
アオイは、この手腕については百戦錬磨の手練れであった。
そして、クラウスは貴族のくせに初心なのか簡単に落ちた。
これにはアオイも拍子抜けであった、すでに彼は自分にメロメロになっていた。
はっきり言おうチョロかった。
自分の顔を見るたびにしどろもどろになり、何故か樽にはいってストーカーをするようになった。
アオイはわざと気付かないふりをして、いろんな格好をしてみせたり、他の人に手を出すふりをして嫉妬心をあおってみたりした。
そして、領主の家に招待される仲になるまであっという間だった、アオイはクラウスに酒と薬を飲ませ、自分を寝所に連れ込むように誘導する。
これまでも何度もやってきた事である、余裕、余裕。
このまま領主を籠絡してしまえば・・・
「この街は僕のものだぇ・・・うへへへ」
後もう少し、後もう少しだぁ。
アオイに邪悪な笑みが浮かんでいた。
酒と薬で、朦朧としているクラウスをベッドで組み敷く。さぁ・・・最後の仕上げをしよう。
バン!という音共に、突然寝所の扉が開き、白いローブの魔法使い風の男と、真っ黒な服装の少女がツカツカと入って来た。
白い男は、なぜか巨大な棺桶を担いている。
「ちょっと邪魔するぜ?」
こんな時に・・・
アオイはあと一歩の所を邪魔をされイライラしていた。
「お前たちは誰だぁ!?ここは領主様の寝所だよぉ、関係ない人間は出て行けぇ!」
アオイは闖入者に声を荒げる。
「それはこっちのセリフですわね、疾くと逝くのですわ」
黒い少女が手をかざすと、不可視の刃がアオイを襲う。無詠唱呪文!?アオイは魔法の刃の軌道を感だけで避ける。
「いきなり攻撃ぃ?しかも無詠唱魔法なんかぁあり得ないぃ」
アオイが避けた場所には不可視の刃による深い傷跡が刻まれた、腕位なら簡単に切断される威力であった。
今回は運良く避けられたが、アレは様子見だ、あの少女に本気でやられたら一方的にやられかねない。
「それを避ける貴方も大概ですわね、彼、思ったより強いようですわよ、ハクも行きなさいですわ」
「クロクロは人使いが荒いなぁ、まぁ俺も『偽装聖女』には興味あるしな!」
彼らはアオイの性別も通り名も知っていた。と言うことはアオイの素性はバレている。
アオイは戦闘態勢を取る。
白いローブの男は、背中から棺桶を下ろすとクルッと握りなおし、そのままアオイにむかって恐ろしい速度で棺桶を振り回して来た。
棺桶の重さは推定三百キログラム、魔法使いのような風貌のくせになんて膂力。
アオイは、水平に振り回された棺桶を飛び越えるように側転しながら避ける。
「こいつ軽業師のような真似を、やっぱり報告より強いな」
「棺桶振り回すなんかぁ、無茶苦茶なやつぅ!」
大抵の攻撃は、師匠の技で受け止める自信はあったが、流石にこの重さは限界を超えている。
あの速度だと、かすっただけでも大ダメージを受けかねない。下手に攻撃がはいったら即ミンチだ。
しかも相手には、まだまだ余裕がある。なんだコイツラは?
アオイは距離を取り、反撃の機会を狙う。
間合いに入れれば、こちらから攻撃ができる。
だが相手のほうが攻撃レンジが広く、雑に見えて緻密な連携を取ってくるために、なかなか糸口が見つからない。
こいつら、若いくせに実戦経験を馬鹿みたいつんでやがる。
アオイは舌を巻く。
瞬間、キンという音とともに、横合いから赤い閃光が飛び込んでくる。アオイはかろうじて反射で避ける。
その閃光は、刀を握りしめた赤いエルフの少女だった。
彼女は、アオイの側面にあった部屋の壁を瞬時に斬り裂き突入、その勢いのままアオイの懐へ飛び込み斬ってきたのだ。
壁の切断音が一回にしか聞こえないとか、どんな速度だ。
「ハク、斬っていいキル?斬っていいキル?」
何故二回言うし。
アオイはバックステップでさらに距離を取る。
正直今のは紙一重だった、一瞬でも遅れていたら、彼女の刀で真っ二つになっていた。
アオイの背中に冷たい汗が流れる。
アオイの状況は最悪だった。
真っ黒い魔法使いの少女、棺桶を振り回す変な白い男、刀を持った赤い少女。
彼らは、アオイが戦った中でも最上級の相手だった、と言うよりこいつらより強い奴は見たことがない。
危険度は師匠を遥かに超えている。
一対一でも勝てるかどうか怪しい。なんでそんな化物が3人もいる?
じりじりした時が流れる、正直逃げ出したかった。
焦りからか、アオイはこの部屋にもう一人居ることを失念していた。
「アオイちゃんは、僕のステディいぃいい」
うしろから、突然クラウスがアオイに抱きついてきた。
強敵の方に集中していたため、クラウスにまで気が回っていなかった。
相手に殺気があれば、反射で防御するのだが、クラウスにはそれがない。まさかの伏兵だった。
「アオイちゃんは、僕が守るぅううう」
正直邪魔だ、振りほどこうとするが異常な力で抱きしめられ、なかなか振りほどけ無い。
変態のパワーがまずい場所で炸裂していた。クラウスの目は血走り、精神はどこか彼方に行っていた。
「あ、ぇえ?ちょ、ちょっとぉおおぉ」
それを黒い少女がジト目で見ていた。嫌な予感がした。
次の瞬間、こんがりと焼かれた。
クラウスごと。
後一話あります。




