看板娘のご褒美
厨房に戻ったマオは、壁に手を当て気を落ち着かせていた。
魔王の中の人、魔王たんことマオは動揺していた。
心臓がバクバクしている。
ちなみに「マオ」という現在の彼女の名前は、湖の女神様が魔王って名前は使えないよねと東方の島国の「魔王」という呼び名をもじってつけてくれたものである。
可愛い語感なので、魔王もちょっと気に入っていた。
気を落ち着かせていると。
そこに12歳位の快活そうな少女が近づいてくる。
先日、街中でマオに話しかけてきた少女である。
名前はミリといい、このレストランの主人の娘であった。
マオをスカウトし、行く宛もなかった彼女に住む所と職場を与えてくれた大恩人である。
「マオさん、さっきのお客って知り合いかな?」
「シリアイ違ウ、絶対違ウ」
強固に否定する。
バレてないバレてない絶対にバレてない。・・・目が少し泳いでいる。
「そ・・・そう?じゃぁこの料理、3番テーブルに持って行ってくれるかな?」
トレイに熱々のビーフシチューが乗っていた。
美味しそうな匂いが食欲を誘う、このレストランの看板メニューである。
トレイを受け取ったマオは、少し深呼吸するとトテトテと3番テーブルへと向かっていった。
そして何の前触れもなく、何も無い所でコケた。
マオが持っていたトレイはふあっと浮かび上がり、上に乗っていた熱々のビーフシチューは、料理を待っていた筋肉隆々のいかついモヒカンお兄さんの顔面に直撃する。
「ぐぉおおぉおおぉおおおおぉおおぉおおおおおぉおおぉお」
どことなく汚物は消毒だぜーが似合いそうなお兄さんは、あまりの熱さに雄叫びを上げる。
ジュゥウウウという音までしている。
「コメンナサイ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」
マオは手に持った布巾で相手の顔をあわててふこうとするが、床にこぼれたシチューでさらに滑り、体ごと相手に体当たりをしてしまう。
「ごふぁあああああ」
見事なコンボだった、その勢いで椅子ごと倒れるモヒカンお兄さん。
マオは床に座り込みオロオロしながら、お兄さんについた汚れを、一生懸命に布巾で拭き落としていた。
「う、うぉおおお・・・ハァハァ」
・・・ハァハァ?
「本当ニゴメンナサイ、我ノセイデ・・・」
マオはしょぼんとしている。
「だ・・大丈夫!き、気にしないでマオた・・ちゃん」
大被害を受けたはずのお兄さんはそう言って、さわやかな笑顔をマオに向けた。
「ど・・・ドジっ娘属性・・・だとぉ?し・・・しかも天然物・・・」
アオイが、何故か血涙を流している。
というか、他の席にいる客も血涙を流している。
ただし同じに見えて意味合いは違ってるだろう。
「僕があれをやると、あざとくなってしまうんだよぉ」
アオイが握りしめていたスプーンが飴細工のようにぐにゃぐにゃに変形する。
ミリがマオを厨房に下がらせ、被害を受けた客に近づく。
すると、客のお兄さんはミリに小袋を渡す。
ミリが中身を確認すると、お兄さんとミリは同時にサムズアップする。
いい笑顔だった。
・・・うん・・・理解した。
「あいつめ、お褒美+ボディアタックまで・・・」
「次は俺の所で、ご褒美くれないかなぁ」
「お前は一度ご褒美もらっただろ、次は僕だ」
「毎日通ってるのに・・・まだ一度も・・・ちきしょう」
「死ぬまでに、あのご褒美を受けたいものじゃのぉ」
・・・変態しかおらんなぁ・・・
変態は増殖するもの、理解した




