一直線
ハク達は森の中にいた。
「いっぱいいるね」
アカネが森の中でも一番高い木の上から、遠くを見ている。
「んー約5万ってとこだね、兵装をしてるから魔帝の軍だと思うよ」
偵察を終えたアカネは、ひゅんと木の上から飛び降りてくる。
30m近くの高さから飛び降りたのに、ほとんど着地音もしない。
「わらわ達を探してるのかしらね?」
クロクロはいつものように優雅にお茶を飲んでいる。
「まぁ、十中八九そうだろな」
ハクが左目のモノクルを触りながら応える。
「周り、ほとんど囲まれてるよ、見つかるのは時間の問題だね」
アカネが、地面に敵の配置図を、さらさらと描き上げる。
四方八方をしらみつぶしに探しているようだ。
「ドウスルノジャ?我ノ転送魔法デハ、一度ニ3、4人シカ運ベヌゾ?」
「じゃあミリとヴィオーラを安全な場所に連れて行ってくれないか?あとは俺達が何とかする」
「判ッタ引キ受ケヨウ」
ハクの申し出に魔王は頷く。
ハクから作戦内容を聞くと、魔王はピエールさんの近くにいるミリとヴィオーラの元に行き、ピエールさんと少し会話した後二人を連れて消えていった。
ピエールさんが魔王に頭を下げていたのが印象的だった。
「探せ!草の根をわけても探しだせ!」
緊那羅王は、5万の兵を使いローラー作戦のように運用しハク達を探していた。
相手はたかが十人程度、発見してしまえばどうにでもなる。
そう思っていた。
「貞節を司るヘーラーの力を示すのですわ」
「知恵を司るアテーナーの力を示せ」
「太陽を司るアポローンの力を示せ」
「純潔を司るアルテミスの力を示せ」
「戦いを司るアレースの力を示すのデース」
「富を司るヘルメースの力を示せぇ」
「炎を司るヘーパイストスの力を示せ」
「海洋を司るポセイドーンの力を示せ」
「「「「「「「「神鎧、降臨」」」」」」」」
天にかざしたメダルから眩しい光が発生する。
メダルの光は天を貫き、空中に複雑で巨大な立体魔法陣が描き出される。
その魔法陣が星のように光輝くと、その光の中から染み出てくるように、金属製の8体の人型が現出してくる。
それは王笏を持った女性のような黒い巨人ヘーラー。
巨大な盾を持った女騎士のような白銀の巨人アテーナー。
背に日輪のような金属の輪を背負った白い巨人アポローン。
月輪のような弓を背負った女性のような緑の巨人アルテミス。
無数の剣を装備した攻撃的な赤い巨人アレース。
羽の生えた靴を履いた青年のような青の巨人ヘルメース。
巨大な鎚を装備した錆色の巨人ヘーパイストス。
三叉の鉾を持つ雄々しい姿の群青色の巨人ポセイドーン。
「な・・・何だアレは」
魔帝軍が目の前にあった森の上に、突如現れた巨人達におののく。
「神鎧だと?それも八体?ばかな・・・」
緊那羅王は驚愕する。
白い巨人アポローンが前に進むと、日輪のような金属の輪を空へと投げる。
金属の輪は天高く舞い上がり、それに呼応するかのように、空に巨大な魔法陣があらわれる。
静かな声が響き渡る。
「陽光収束」
空から、一筋の光が放たれる。
その光は魔帝軍の中央を、一直線に斬り裂き分断する。
長さ一キロメートル、幅50m、その範囲にある物全てが一瞬にして蒸発した。
「な・・・」
緊那羅王は、光の直撃はかろうじて受けてはいなかったが、あまりの事に硬直し何もできないでいた。
「貴方の本気は、あいかわらず無茶苦茶ですわね」
クロクロがヘーラーの中で呆れている。
「では私が道を切り開きマース」
ピエールさんの操るアーレースが両手に長剣を携え、まだハクの魔法で燻っている敵陣の中央に突っ込んでいく。
そして両手の長剣を振るい、進路を妨害しようと近づいてきた敵を、一瞬の内に切り刻んでいる。
アーレースに近づくだけで死が確定していた。
その後をクロクロの操るヘーラーが飛び、ヘーラーの肩に乗った精霊王達がアーレースの援護射撃をしている。
ただピエールさんのアーレースがあまりにも強すぎるため、適当に目潰しとかをやっているだけである。
暇なので、しまいには鼻歌まで歌っていた。
ヘルメースとヘーパイストスとポセイドーンは、馬車をえっちらおっちらと担いで隊列の中心を飛んでいる。
「せっかく新しい神鎧なのに、こんな役なのぉ?」
「俺様もあばれたかったぞおおお、でも素材は置いていけないのじゃああぁあ」
「オレ地上は苦手なんだけどなあ」
アオイ、ドラン、呂尚は愚痴っていた。
その上を、アカネが操るアルテミスが飛び、月輪のような弓で、飛行し攻撃してくる敵を次々に狙撃していた。
数年ぶりに使ったであろう弓で、正確に敵を撃ちぬいていく。
アルテミスの制空権には、何者も入ることは出来なかった。
ハクのアポローンは、アルテミスのすぐ後ろを飛び、禁呪で敵を近づけないように適当に吹き飛ばしまくっている。
一発の禁呪で百体近くの魔帝軍の兵士が戦闘不能になっている。
味方を巻き込む心配のない状態の無いハクは相手にとっては悪夢のような存在だった。
「ひゃっはぁああああああああああああ」
普段使えない魔法を使えるハクは、普段より大分ハイテンションだった。
殿は、クリスティナが乗るアーテナー務めていた。
後ろから追ってくる魔帝軍から、雨のように飛んでくる魔法や砲弾を巨大な盾で防いでいる。
アーテナーの盾はあらゆる攻撃を防いでいた。
「地味なのぉおお」
ハクの魔法のせいで追いついてくる敵がいないため、クリスティナはまともな戦闘が出来ず少し不満そうだった。
ハク達の移動速度は馬車を担いでいるため、せいぜい時速100キロ程度だったが、それでも相手よりは圧倒的に速いため、一気に敵の中央を突き抜けていき、遥か彼方へと消えていった。
魔王のユニコーンが率いる馬たちは、ハク達が敵を引きつけている間に、迂回経路で逃げてもらっている。
あの賢いユニコーンの事だ、ちゃんと任務を果たすだろう。
ハクが取った作戦。
力技で一気に中央突破し逃走することであった。




