魔王城に来た者
千メートルを超える険峻な崖の上に城があった。
その城は無数の触手で崖に絡みつき、大地を呪う禍々しい邪神にも見えるほど醜悪で生物的な外観をしていた。
人々はその不気味な城を、魔王の住む城「魔王城」と呼んでいた。
魔王城の最上階には、その城の主である魔王の執務室があった。
広さは約30m四方、窓もなく陰鬱とした黒い部屋で、壁には無数の魔神の像が飾られている。
曲面を描く天井には神と戦う魔神と魔物の軍という荘厳なモチーフのフレスコ画が大迫力に描かれている。
部屋は魔法による青白い光で灯されていた。
「四天王全員ガ、大事ナ用ガアルト城ヲ出テイルトハ・・・」
部屋の奥に備えてある豪奢机で、漆黒のローブで全身を包み顔を不気味な髑髏の仮面で覆った者が、山のような書類の前にして呻いていた。
「コノ用途不明ナ出費ノ件デ、問イ詰メタイ事ガアッタトイウノニ・・・」
羽ペンを片手に頭を抱えるその姿は、どこかの企業の総務の人間のようではあったが、溢れ立ちのぼる魔力で姿が霞むほど、膨大な魔力を秘めていた、この者こそ当代の魔王その人であった。
魔王は処理中の書類から目を上げ、肩をカキッコキッと鳴らす。
「サッキカラ、騒ガシイノジャ」
数刻前から城の内部が騒がしくなっている。それに今まで感じたことのない妙な魔力の流れも感じる。
「アホ共ノセイデ忙シイトイウノニ、虫デモ侵入シタノカ?」
魔王は執務室に入る唯一の扉を凝視する。
魔竜の飛び立つ姿が彫られたその扉は、鋼鉄より硬く魔法すら防ぐという、希少なアダマンタイン製であり、人間の軍隊の襲来にも耐えるように贅沢にも分厚く鋳造されていた。
魔王による魔術封印も幾重にもされており、魔王の許可なしには開けることは不可能である。
◇◇◇◇◇
配下の魔物たちの魔力が次々に霧散していく、しかもあり得ない速度で魔王の執務室に近づいてくる。
四天王がいないのを狙っての襲撃か?
「コノ速度、軍?イヤ・・・ソレニシテハ数ガ少ナイ・・・・何者ジャ」
「マァイイ、ココニ来タラ、我ガ始末スレバ良イコト」
もう目と鼻の先に侵入者がいるのを感じる。
どうせ彼らには扉は開ける事は出来ない、絶望に打ちひしがれた所を開けてやろう。魔王はそうほくそ笑む。
侵入者達の会話が漏れ聞こえてくる。
「ここが目的地だな」
「ハク・・・まだキル?キルキルキル・・・もっと斬りたいキルよ、斬らせろキル、斬らせろキル」
!?
「アカネ、お前は、少し落ち着け」
「キル!キル!キル!」
「この扉アダマンタインで出来てるよぉ、売ったら一財産になるよぉ、じゅるり」
「アオイ、流石にかさ張るだろ、これ」
かさ張るとか言う問題か?
「封じの古式魔法がかかってますの」
「古式魔法を見ぬくとは流石はクロクロ様」「さすがですわぁ」「クロクロ様なら造作も無いこと」「クロクロ様素敵」
「まぁ、そうだろな。とりあえずぶち抜くかね、ちょっと下がって耳をふさげ」
ぶち抜く!?
「せぇえのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
校正してたら、内容がだいぶ変化してきたので、タイトルも変えリブートしました。
話構成も変えて読みやすくなったと思います。