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ヒロインだって知っている!  作者: 金谷 令。
上章 再び歩き出すヒロイン
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第八話 精霊と少女

 二匹? は、私に気づいた様子も無く魔術らしき物を放ちまくる。

周囲を良く見て見ると、どこかの王城の謁見の間のような佇まいで、丁度王様が座っているような椅子の前で争っている。


 猫の方がキラリと光ったと思うと、一瞬にして狼の後ろで猫パンチを繰り出す。当った! と思ったけれど、当たった場所が風のように掻き消え、そのまま狼は猫に襲い掛かる。


 実際これを人間でやり始めたら、凄い高度な魔術だ。しかもお互い次々と魔術を放ち、とどまる所を知らない。


 少しの間ボーッとそれを眺めていると、猫が狼の腹に潜り込み猫パンチを炸裂。先ほどとは違い、狼にダメージが通り、私の近くまで転がって来る。


「クソッ、しくった……ん? 丁度いいお前も手伝え」


 いきなり人語を話し始めた狼に動揺しながら、キョロキョロと視線を彷徨わせ、私以外に誰もいない事を確認すると、人差し指で自分を指す、すると狼が頷いた。


「えっと……」

「いいから手伝え」


 狼はそれだけ言って戦場? へと戻って行った。

 どうしようかと少し考えた私だったけど、折角なのでお邪魔する事にした。


 狼が右から襲い掛かり、左に避けた猫目掛けて風の刃をその場に発生させるが、ヒョイと簡単に避けられる。

 あれだけ高度な魔術の打ち合いをしてるから、当たり前と言えば当たり前だけど、一寸私の負けず嫌いの部分を刺激され、風の刃で追い打ちしつつ部屋の中に氷槍を作って行く。氷槍の大きさは依然と比べれば大きく、そして内包する魔力量も大きい。そんな一か月の成果を次々と生み出し、初めてだけど狼と連携しながら戦っていく。


 狼が追い込み、私の風の刃と氷槍が逃げ道を絞り込ませ、そこに狼が襲うという連携だ。

 しかし狼の狼パンチ? もダメージは入ったが、余りダメージが多いとは言えない。私は待機させてある氷槍を順番に相手に自動で向かって行くように制御する。


「……暴風よ、氷の礫と共に吹き荒れろ『ヘイルテンペスト』」


 私がそう唱えると、部屋に風が叩きつけながら渦になって行き、そしてその風が鋭利な刃物と化しながら、更に雹が舞う。

 やっぱり詠唱するのとしないのじゃ、詠唱した方がいいなと思いながら体から力が抜けて行くのが分かる。


「……あ」


 ヤバイ! そう思った瞬間に私は意識を手放した。





*****




 どれくらい寝ただろうか、すっきりとした目覚めに伸びをしながら辺りを見渡す。


 知らない景色だった。

 キョロキョロと辺りを見渡すと、まぁまぁ大きな部屋で、しかも私は子供という事で更に大きく見える。部屋にはベッドと白いテーブルとイスがあるだけで、何とも質素だ。


 私はどうして此処にいるのか思い返す……。

 確か、私を戻してくれた女の子に此処に飛ばされて、飛ばされた先で狼と猫が争ってて、狼に加勢して……そ、そうだ。魔力使いすぎて気絶したんだ。

 

 それを確信した瞬間頭を抱えて蹲る。エフローラさんにあれだけ注意されたのに、魔力の残量は気にしろって……。はぁしかもテンション上がりまくってヘイルテンペストとか使った気がする……。あれ、アイスストームの上位互換で、威力はあるけど結構魔力食うんだった……。


「んお、起きたのか娘」


 声がした方に振り向くと、執事服のような物をだらしなく着崩した青年がいた。髪の毛は黒でピョコピョコとくせっけだと思われる跳ね方をし、顔は眠そうだで、しかしかっこいい感じだ。


「え、何々あの子起きたのダラート」

「うるせぇもっと静かに入って来いアズーラ」


 次にアズーラと呼ばれた女性が中に入って来る。メイド姿のその人物は綺麗な銀の髪をサラリと燻らせ、猫っぽい目で私を面白そうに眺める。


「えっと」


 私は少し困惑しながらもベッドを下りて二人と向かい合う。


「調子はどうだ?」

「いい感じです」

「ねぇねぇお名前は?」

「あ、カルセドですよろしくお願いします」

「ふーんカルセドちゃんかぁ、ねぇ抱きしめていいかしら? いいわよね?」


 アズーラさんが此方に近づいてこようとしたのを、ダラートさんが止める。


「そんな事より聞くことがあるだろうが」

「あぁそうだったわね」

「なんでそこで寝てたか、覚えてるか?」


 私はダラートさんの質問に一つ頷く。


「いやまぁあの時はまさか人間が入って来たと思わなくてな、いきなり手伝えとか言って悪かったな」

「へ? 」

「これなら分かるか」


 ダラートさんがそう言うと、ダラートさんを風が包み、そして風が収まるとそこには先ほどの狼がおり、もう一度風に包まれると、青年に戻る。


「それよりもカルセドちゃんはどうやってここに来たの? ここは精霊の世界だから普通は人間が入り込めないようにしてあるんだけど」

「えーっと……」


 私は二人に此処に来る事になったいきさつを少しボヤかして話した。流石に転生だの何だのは話せないので、特別な力も持った少女にここに飛ばされたというと、二人は少し考え込む。


「まぁいい、兎に角お前は人間の世界へ帰れ」


 ダラートさんが右手を私に突出す。すると私の体が風に包まれるが、次の瞬間パン! と音がして風が弾ける。


「なに……」


 驚いた表情のダラートさんと、今度はアズーラさんが同じように私に手をつきだし、光が私を包む。けれど同じようにパン!と言う音と共に光が霧散して行った。


「どういうこと」

「いや、俺もわからねぇ、ただ人間の世界へ帰還させられないという事は確かだろうな」


 ……これ私大丈夫なのかな。さっきここは精霊の世界って言ってたけど、流石にここで生きて行けるのかな私。


「わかんない事は王に聞けばいいじゃない」

「……それしかねぇか」


 二人はその結論で納得したようだけど、お、王って何!もしかして精霊の王とか……ハハハ、そんな訳あるかぁ。


「あ、あの」

「ん? あぁお前はどうやら何かしらでこの地に縛られてるみたいだな」

「でも大丈夫よ、お姉さんが必ずお家に返してあげるから、とりあえず王の所に行きましょ、あの爺さんならなんか分かるはずだから」


 王様を爺さん呼ばわり……。いいの? 精霊の世界はそれでいいの? なんて言うか全ての精霊を束ねる威厳の塊みたいな人をイメージしたんだけど、違うのかな……。


「今すぐ行くわけじゃねぇから少しは休んでろ」

「そうよ、魔力切れを起こして倒れたんだから休んでおきなさい」


 二人から有無を言わない目線を浴びて、私は渋々ベッドへと戻った。


「それにしてもその年でそれだけの魔術が使えるとは、人間もまだ捨てたもんじゃねぇな」

「そうね、私もびっくりしたわ」

「アハハハハ」


 苦笑いしか返せない……。いや実は私二週目なんですよぉーとか言えるわけないし。


「と、特訓の賜物です」

「その年で特訓なんて凄いわ、頑張ってるのね」

「頑張ってる以前に少し異常だとは思うがな」

「はぁ! 一寸女の子に異常とか何言ってんの!」

「あれだけの魔術を使うまで魔力切れを起こさないって事は、それだけ魔力を保有してるって事だろ? 異常じゃねーか」

「ひ、人より魔力が一寸多かっただけじゃないの? 精霊と比べたら人間なんて大抵同じよ」

「バカか、精霊と人を比べんな」


 いや、言われてる事はもっともなんだけど、精霊とは流石に比べ物にならないっていうか……。あれ?


「あの、もしかしてお二人って精霊ですか?」

「ん?あぁそうだけど」

「えぇそうよ」


 そ、そっか、そう言え精霊はそれこそ文献の中にしかいないし、いるかどうかも曖昧みたいな話だったから、目の前にいると何とも言えない気分になるなぁ……。


「最近は人間の質が落ちて来て、精霊もあんまり人間にちょっかい出す奴は少ねーけどな」

「そうねぇ、あんな長ったらしい詠唱して、しょぼい威力だしね、それに比べてうちのカルセドちゃんは凄いわぁ」

「いつからお前のになったんだよ」


 いや、本当に、いつから貴女の者になりましたか! 

 

「お二人はそう言えば、風と光の精霊なんですか?」

「「違う(わ)」」

「そもそも精霊に属性なんてねーんだよ、その時に気分と、後は少しの相性だな」

「そうね、精霊と属性の相性はあるけど、それこそ人間にしてみれば全て使えるくらいの感覚でいいと思うわ」

「そ、そうなんですね」


 じゃあ風の精霊の何々~とか、そう言うのは無いって事なんだ……。それは一寸以外かなぁ。でも精霊にとっては相性がいいのと悪いのがあるみたいだし、相性がいい方をやっぱりメインに使うのかな……後は気分らしいけど。


 そうこう話していると、ドアがコンコンとノックされる。そして返事を待たずして白いひげを伸ばしたお爺さんが現れた。その姿は良くイメージされていた神様と言った風体で、木の杖を突きながら部屋へと入って来る。

 でも威厳と言うよりは、優しそうな雰囲気を醸し出している。


「ほっほっほ、呼んだかな?」

「あら来てくれたのね、爺様に聞きたい事があるのよ」


 や、やっぱりこの精霊が王。て言うか王様呼び出して良い物なのかな。精霊ではそれが当たり前っぽい? なんか王様も普通に対応しているし。でもさっきは会いに行くみたいな話だったから、精霊同士で特別な会話方法でもあるのかもしれない。


「この子についてなんだけど、人間界に送り返せないのよ」

「フム、ワシもやってみるかの」

 

 そう言って王様はトンと床に杖を軽く叩くと、綺麗な色々な色をした淡い光に包まれる。しかし先程と同じくパン!と言う音と共に霧散する。


「王でもダメなのか」

「一体この子にどんな魔法が掛かってるのかしら」

「…………フム、成程な、あい分かった」


 王様が私を見ながら、私では無い何かに返事をした。それは多分私を此処によこしたあの子なんだろう。


「この子の情報を引き出す中で、ワシにメッセージが込められておった、此処に連れてこられた理由も分かった、人間界に返す方法も勿論分かったぞ」

「流石は王ね」

「つっても早くかえさねーとやばいんじゃねーか? うちとあっちじゃ時間の流れがちげーだろ」

「ん? あちらは止まっておる、心配する事は無い」

「「「え!」」」

「あちらの時間は、この子が来た時で時が止まっておるから心配はないのぉ」

「そんな事があるのか?」

「世界に影響を及ぼす人物が消えると、稀になるの」

「つまりこのカルセドはそう言う人物だってことか?」

「カルセドちゃん凄い!」


 そう言えば、この世界に来たとき皆止まってたっけ……。でもそれは私のせいじゃ無くて、あの女の子のせいだと思うんだけど。

 んーでも、ずっと力を継続して使えなさそうだったから、私が居なくなるまでと気を留めてたってのも、有り得るのかな……。その辺は考えても分からないからいいや。


「えっと、それで帰る方法って言うのは」

「あぁ、それは精霊と契約することじゃよ」


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