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ヒロインだって知っている!  作者: 金谷 令。
上章 再び歩き出すヒロイン
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第五話 出会う少女

 あれから一か月ほど過ぎた。

 私は特に何かあった訳じゃ無い。しいて言うなら、訓練して寝て訓練してといった具合になる……まぁ今はその方が気楽でいいんだけどね。

 ティーダお兄ちゃんの身体強化については、その後ギルドマスターに引き継いだ。私が教えるのも良いけど、私は魔法の練習もしたいので、付きっきりって訳にもいかないし。


 そんなティーダお兄ちゃんは、昨日から実施訓練に行っている。

 流石に一か月程度じゃ凄く強くはならないけれど、ギルドマスターが人選して、任せてもいいという傭兵に少しの間ついて回り、訓練するようだ。

 勿論、実習先でも剣の稽古はするみたい。教える人が変わるけど、そこはギルドマスターの人選って事だし大丈夫だと思う。


 そして私はと言うと、今はいつものギルドの地下にいる。

 あれからイメージでの魔法発動にも慣れて来て、氷槍なら目視の範囲で魔力と相談しながら複数本作ることが出来るようになった。

 ただ、これを主力にするといっても、残念ながら戦力不足。これに何かアレンジしていって、一つくらい強い魔法を覚えておきたい。


 そんな事を考えた一か月になった訳だけれど、今日の実験は成功した。

 何をしたかと言うと、お馴染みはお馴染みかもしれないけれど、氷槍に風を纏わせてみた。これによって氷槍が飛んでいくスピードが速くなり、壊れにくくなったと思う。

 でもそれだけと言われればそれだけだ。


 魔法はイメージ次第で色々と出来る。それはもう色々と。でもこの世界の人はそこを軽視している。それは詠唱についてだったりもそうだ。そして私もまたその知識を鵜呑みにしてしまって、染まってしまった一人。いや染まっていたというべきかな、今はその可能性に気が付いているから。でも未だに抜け出せていない。きっと転生したてだったら、もっと面白い魔法を考え付いたはず……でも、思いつかない、それが歯がゆい。


「よぉ、順調かぁ?」

「ダメですね」


 最近は、人がいないところではギルドマスターと素で話す事が多い。素と言っても、無理に子供っぽくしないだけなんだけど、それだけでも私の負担は大分楽になる。


「まぁ独学だしなぁ」

「色々な魔法が載っている本とか……無いですかね?」

「流石になぁ、城にいきゃあるかもしれねぇがよ?」

「あとは、その辺に売ってるような物だけですか」

「でもそいつぁお嬢ちゃんには必要ねぇよなぁ」


 この付近に売っている本は、私が学園で使っていた物とほぼほぼ同じなので、特に買おうとは思わない。あの本には、様式美が優勢されている、私が今求めているのは、そっちじゃなくて、実践的な方だ。


「……若しくは、弟子入りすりゃあいいんだけどなぁ」

「弟子入りですか……あんまり目立つのは嫌なんですけど」

「そうだなぁ、お嬢ちゃんは今何を目指してるんだぁ?」

「そうですね、殺傷能力の高い魔法ですかね」

「それならアイスストームでいいじゃねぇかぁ」

「訂正しますね、ギルドマスターのようなクラスの人に対抗できる、殺傷能力の高い魔法、ですね」

「ったく物騒だなぁ、そんなもん持って何すんだぁ?」

「保険です」

「保険?」

「そうです保険です、死なない為の保険、私には必要ですから」

「……良くわからねぇが、そう言う事なら一人知ってるなぁ」

「……安全な人ですか?」

「それはアーリャに聞いた方がいいだろうなぁ」


 アーリャさん? その人とアーリャさんが知り合いと言う事? でもあのアーリャさんと関係があるというだけで、少し期待してしまう。なんといってもアーリャさんの底は見えない、それに少し近づけるかもしれないのだから。


「その人はアーリャさんのどう言った関係の方なんですか?」

「師匠だ」

「師匠?」

「あぁ、アーリャの師匠のエフローラと言うばーさんだなぁ……だがなぁ、あいつは、一寸……いやかなり変わった奴だからなぁ」

「分かりました、今日はこれで帰ってアーリャさんに聞いて来ます」

「もし行くようならなぁ、俺に声かけろ、俺も久しぶりに顔見に行くからなぁ」

「分かりました、ありがとうございます」


 私はギルドマスターにお礼を言って、少し早い時間だったけれど、孤児院に戻った。


 



 家に帰ると、アーリャさんがリビングの椅子に座り、お茶を飲んでいたので、只今の挨拶をしてから隣に座り、早速聞いてみた。


「アーリャさん、エフローラさんってどんな人?」


 私がそう言うと、お茶が喉の入っちゃいけない方に入ったのか、ゴホゴホと咳をするアーリャさん。私、アーリャさんのこんなとこ初めて見た。


「……カルセド、一寸待っててね」


 そう言うと、アーリャさんは急いで立ち上がり、外へ出て行ってしまった。


 少し待つと、アーリャさんがギルドマスターと一緒に現れた。

 そしてアーリャさんは、私の対面に座る様にギルドマスターを促し、自分は先程の位置に腰を下ろした。


「話は聞いたわカルセド、私としては反対ね」


 アーリャさんは私に向き直り、私の目を見ながらそう言った。


「そう言ってもなぁアーリャ、このままだと嬢ちゃんは暴走して危ないと思うんだがなぁ」

「……カルセド」

「折角だから私は行きたいです……ダメ、かな」


 が、頑張るのよ私。ここで折角のチャンスを掴めなかったら、勿体ない!

 アーリャさんは目を閉じて何やら考え込んでいるようで、はぁとため息を着いて、私が行く事を許してくれた。


「でも、師匠が認めてくれたら、ね」


 ……まぁそりゃそうだけど。


「じゃあ嬢ちゃん、明日の朝迎えに来るからなぁ」

「はーい」


 てか明日! いきなりかぁ……早いなぁ。

 ギルドマスターはそれだけ言うと、さっさと家を出て行ってしまった。


 その日の夕飯の時に、孤児院の皆に、少しばかり留守にするかもしれないという事を告げて、眠りについた。孤児院の皆は少し寂しそうな顔をしていたけれど、此処最近は稽古で遊べてなったから、そこまで寂しくないかも……皆ごめんね。


 翌朝早速ギルドマスターが迎えに来てくれた。


 因みに馬車なんて乗ってない、でも徒歩でも無い。答えは簡単馬に乗ってる。


 ギルドマスターは私を抱えて馬に乗せる、私が前でギルドマスターが後ろだ。前回少しだけ乗馬の経験はあるが、あの振動は結構お尻に来るんだよねぇ。私は馬の鬣を少し撫でる……できればゆっくりお願いね。


「カルセド、無理しないでね」

「うん、行ってきますアーリャさん」


 私はアーリャさんに手を振って、出発した。


 先ずは一番近い門を目指す。ギルドマスターはやはり有名なのか、街行く人々にチラチラと見られるが、本人はどこ吹く風だ。

 門まで到着すると、衛兵らしき男性は一礼してギルドマスターを通した、流石と言っていいと思う。


 街を出た先は一面の草原だった。勿論道は通れるように整備されているけど。

 風が吹く度に草が揺れる風景は久しぶりに見た。学園に行ってからは見た事が無かったし、前世もコンクリートだらけだったから、あんまりこういう風景に親近感は無い。でもとても綺麗だと思う。


「街を出るのは初めてかぁ?」

「はい、綺麗ですね」

「この辺りはな、出る魔物もよえぇから、そこまで危険じゃねぇ」


 そうなのか、まぁ街のすぐそばに強い魔物がいたら、直ぐに討伐目標になるから、当たり前と言えば、当たり前なのかな。

 それから暫くは街道をゆったりと進んで行く。私は周囲の光景を眺めながら、頭をからっぽにした。この景色を見ながら、何かを考えるのはもったいない気がしたからだ。


 体感的には一時間と少しだろうか、街道を進むと、右手に森が見えて来た。


「あそこにいるんだ」


 どうやらエフローラさんは森の中にいるようだ……。

 乗っている馬が草原を突っ切りながら森へと向かう。


「この森はなぁ、大きな円形だ、そしてその真ん中にはばーさんが結界を張ってる」

「どんな結界なんですか?」

「結界を通る為のアイテムを持ってねぇと入れねぇーのさ」


 成程、先ずは結界をその場所に貼って、そこで生きる事を認められている人と言う事を忘れてはならなそうだ。勝手にそんな事した、国からもギルドからも怒られるだろうから。


 それにしてもこの森は静かだ。

 

「ここは結界のせいで魔物はいねぇし、動物もすくねぇ」


 私はそれに頷いた。たまに見るウサギのような小動物や、小鳥くらいしか見かけない。しかもどれもあまり動き回っているようには見えない。特に小鳥はずっと木の枝の上におり、動くどころか鳴こうともしない。寝てるのかな?


 しばらく行くと、ログハウスのような物が見えて来た。木で出来た一軒家で、まぁまぁの大きさだ。

 その家に近づくと、一人の女性が家から出て来た。茶色い髪を三つ編みにした、肝っ玉母ちゃんのような人物が、両手を腰に当てながらこちらを睨んでいた。


「エフローラのばーさん久しぶりだなぁ」


 ギルドマスターは遠慮なくエフローラさんに近づいて行き、さっと馬から降りて挨拶をした。私は馬の上で待機中……降りれないだけです、はい。


「何しに来たんだいレヴォン」


 エフローラさんはそう言いつつも、視線は此方に向いており、私を探るような視線を向けている。


「ばーさんにこの嬢ちゃんの面倒を見て欲しくてなぁ」

「はぁ? あんたとうとうぼけたんかい?」

「いや、俺はぼけてねぇよ、この嬢ちゃんは中々見どころがあるんだ」

「どっちにしろ残念だったなぇ、アタシは一ヶ月と一寸したら南に用事があるんだ、さぁ分かったら帰んな」

「ならその一ヶ月でもいい」

「一ヶ月で何が出来るってんだい?」

「嬢ちゃんなら出来る」

「ほー、あんたがそこまで言うとはねぇ、嬢ちゃん名前はなんてんだ」

「カルセドですエフローラさん」

「あんた一か月っぽちで何かできると思ってんのかい」

「はい」


 私は素直に頷いた。たった一ヶ月、されど一ヶ月。私はとりあえず知識が欲しい。だからたとえ一か月だろうと一週間だろうと、この申し出は受けたい。


「じゃあテストだ、これに合格出来たらいいだろう、一ヶ月ぐらい面倒見てやろう」


 て、テスト……無理難題は勘弁ですよ?


「あんたが一番得意な魔法でこの辺の木に攻撃してみな、勿論詠唱なんてしたらそく失格だ」


 き、きつい……。普通の人ならこんな事言われたら呆れちゃうんじゃないかな。でもまぁやりますけど。

 私は右手を上に掲げる。そしてそこに氷槍をイメージ、風を纏わせて、木に放つ。放ったと同時にリロード、つまりもう一本顕現させて違う木に放つ。

 そしてそのスピードを段々あげて行く。

 作る放つ作る放つ作る放つ作る放つ……………………。


「もういい分かった」

「……はい」


 私は手をおろしながらエフローラさんを見る。すると何故かギルドマスターの胸倉を掴んでいる。


「あんた何したんだ」

「言っとくが俺は何もしてねぇよ?」

「なにもしてないぃ?」

「あぁ、気になるならアーリャに手紙でも出してみると良いと思うがなぁ」

「あの子が何だって?」

「この嬢ちゃんはアーリャんとこの孤児の子でなぁ、アーリャも思い当たる事はねぇみてーだがな」

「……嬢ちゃん、それはどうやって覚えた?」

「え、えっと自力で」


 何となく話の流れから、どうも私が魔法をどうやって覚えたかと言う話になってるみたいだ……。

 でも本当の事をは話したくないしなぁ。なんとかごまかしたい。これから教えて貰おうって言う人に無礼は無礼だけど、こればっかりはね。


「答える気は無いのか、まぁいいさ、これから一か月家でこき使うんだ、いつか吐かせてやろうじゃないか」

「それじゃあ」

「一ヶ月だ、一ヶ月で物になるには大変だよ」

「よろしくお願いします」

「泣いたって此処の結界からは出られないが、いいんだね」

「はい」


 エフローラさんは一つため息を吐きながらギルドマスターに向き直る。


「あの子に伝えときな、この子は面倒見る、あんたと同じ碌でも無い目をしてるって」

「そりゃいい事だなぁ、伝えとくぜぇ、じゃぁなばーさん」


 ギルドマスターはそれだけ言うと、さっさと行ってしまいそうになったので、後ろからお礼を言うと、片手をヒラヒラと振りながら行ってしまった。


 さて、ここから一ヶ月と言う短い間だけど、何とか少しでも魔法を上達させないといけない。


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