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ヒロインだって知っている!  作者: 金谷 令。
上章 再び歩き出すヒロイン
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第四話 反省する少女


 昨日、ギルドマスターとの試合を反省しながら、今は朝のランニング中。

 今日も今日とて、孤児院の周りをグルグルと回っている訳です。


 まずは反省その一、看破された要因でもある間合いについて。これは学園で身についてしまった事を、そのまま流用していたのが仇となり、ギルドマスターに見破られてしまった。

 そもそも学園では実施の魔物対自は行われていない。それを考えると、あれは形式的に綺麗な作法だったんじゃないかなぁと思ってる。例えば、騎士と傭兵では動きが違うのは当たり前。傭兵は、対魔物に対して騎士よりも現実的な動きをすると思う。騎士はそもそも組織の動きが入って来るし、そこには騎士としての様式美も入って来る。私の将来の道は傭兵だと考えるならば、様式美は捨てて、現実的になるべきだ。だから学園で教わった間合いや魔法に関しての仕草は一旦頭の片隅に追いやる事にする。


 次に魔法について。対ギルドマスターで私は少し奢っていた。転生者であり、二回目である私なら、いいとこ行けるんじゃないかと……。実際は惨敗も良い所だ。氷槍も当たらなければ意味が無いし、融解して構築しても、その時間に攻められてしまう可能性が高い。もっと実用的に殺傷能力の高い魔法が必要となって来る。

 それは後で考えるとして、ギルドマスターのあの速さにはかなり驚いた。世の中にはあんな化け物クラスがうようよいるとなると、私もうかうかしてられない、出来るだけ力を付けて、死亡を回避しないといけないからね。

 

 あと引っかかるのは詠唱について。前回の癖で、皆が詠唱している物は詠唱していたが、もっと名前だけで発動できるようにならなければならない。そもそも魔法名を言う必要があるのだろうか。魔法はイメージがかなり重要だ、その為に魔法名を唱える事でより確かなものとし、発動が確実になるんだけど、よくよく考えてみたら、訓練すれば何も言わなくても出来そうな気がする。

 と言うのも、前回の学園の校長先生が、これをやっていたからだ。前回は転生の記憶が戻りたてで、おぉすごい! 魔法! としか思わなかったけれど、今ならその重要性が分かる。まずはスピード。勿論詠唱しない訳だから早い。そしてもっと大事なのは、対人において、此方がどんな魔法を繰り出すかを秘匿できるという事がある。私が氷槍と唱えれば、相手はあぁ氷の槍が来るんだなと分かる。でも何も言わなければ、それだけ相手の思考を遅らせて、此方が有利に働く事になると思う。

 

 と言う訳で、さっそく無詠唱も練習をしながら走る。因みに私が使えるのは、水と風と光関連の魔法だ。

 この世界には魔法の属性と言う物がある。属性の種類は地水火風雷光闇の七種類。あとは私がつかった氷なんかは、水の派生と言ったか形になる。

 一般的に自分の属性は産まれた時に決まる、属性と言ってもその属性しか使う事が出来ない訳では無い。例えば、私は火の属性を持っていないけど、火の玉くらいなら出せる。でも火の槍を作ったり火の魔法で相手を攻撃することは出来ない。つまり、自分の属性で無い物は、一寸使えるけど、鍛えてもそれ以上には行かないという事だ。生活に困らないくらいの雑多な物はだいたい使える事が多い。


 私が走りながらに無詠唱で作ろうと思っているのは、水の玉だ。まずはこれくらいから始めるのがいいかなと思ったので、走りながらに自分の隣に小さな水の玉を作り出す。

 結果は成功。ただし、かなりの集中力が必要だった。多分これは慣れだと思う。なので、水球を消しては作って消しては作ってを繰り返していると、アーリャさんが出て来た。

 どうやら、今日は朝の素振りの練習が無くなったようだ。


 その後、いつも通りアーリャさんの洗濯物を手伝ってから、パンを食べる。パンと言ってもちょっと硬いパンにスープ、と言ういつもの朝食だ。この孤児院の不思議な所は、食料にあまり困らない言う事だ。

 よく物語で、食べるためにスリをしたり、ごみを漁ったり、酷い仕事をしたり、と言う描写を孤児院と言われると私は連想する。でも実際この孤児院は、食べ物はある、まぁお金はそんなにないみたいだけど、でも細々と暮らしていけるだけのお金がある。不思議だ。多分アーリャさんマジックなんだろう。この人はきっと只者じゃない。


 朝食を食べ終えたら、いつも通りティーダお兄ちゃんとギルドへと行き、裏庭で素振りをする。


「嬢ちゃんは今日からこれな」


 そう言って素振りを止められ、渡されたのは、剣よりは小さくそしてナイフよりは大きい短剣型の木刀だった。

 ……きっとこれで間合いを詰めさせようと言うのだろう。少しジト目でギルドマスターを見上げると、グッと親指を立てて此方を見ている。別にこんな事されなくてもちゃんと間合いは詰めますって。


 その後ティーダお兄ちゃんはギルドマスターと打ち合い。その間私は短剣の素振りへと移行した。剣だと上段から振り下ろすのが基本だったけど、短剣は小回りが利くので、突きや横凪ぎがメインになる。

 でもまぁ、そこまで筋力お化けになるつもりは無いし、どちらかと言うと、それなら魔法を磨きたい。


 ティーダお兄ちゃんの打ち合いが終わり、何時もの筋トレコースに入るティーダお兄ちゃん。私はその隣で、ギルドマスターと打ち合う。


「身体強化使えよぉ」

「……」

「使えよ」

「はーい……」


 クッ、出来るだけ人目に付きたくないんだけど。裏庭へのドアは閉まってるし、少しギルドの建物に寄れば表からは見えない、残るはティーダお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんは筋トレ中。これならいいかな。


 私は魔力を行き渡らせて、身体強化を施す。そう言えば身体強化は無詠唱で皆やっていたけれど、つまりはそう言う事か。思い込みとイメージ。身体強化は無詠唱で出来るという思い込みと、そのイメージで無詠唱を成り立たらせているって事かな。

 そして今日やってみた事がもう一つある。それは身体強化でのアクロバティック戦法。

 アニメなんかで良く見る、サーカス顔負けのアクロバティック戦法を、この身体強化なら可能なんじゃないのかと思う。それに訓練と言う事で、私もシャツとズボンな訳で、動きやすい。まぁ出来なかったら出来なかったでやってみるとしますか!


「嬢ちゃん、準備出来たかぁ?」

「はい、行きます!」


 先ずは一気に加速して突き、突きを放つ時はジャンプする様な感じで、相手に飛んでいく。その突きをギルドマスターの木刀で跳ねあげられて、私は勢い余ってギルドマスターに突撃。でもギルドマスターが私を抱えてから投げる。投げなくてもいいのに……。

 スピードに乗せての攻撃は、一寸制御不能なので止めよう……、まぁ今日は実験みたいなもんだしね。

 よし、次は高くジャンプして、丁度ギルドマスターの頭上から私が降ってくる感じ。

 私の短剣とギルドマスターの木刀がぶつかった瞬間、私は落ちる事を止めて少しその場でとどまる様な感覚に陥り、しかしギルドマスターがグッと上に力を加えて、私はひょいと少し浮いてから地面に着地した。普通に考えたら、ぶつかった瞬間そこだけ残って、私の体は降下を続けるはずなんだけど……謎だ。

 ……これ微妙だ。今度からは朝の自主練にアクロバティック戦法の練習を加えよう。


 今度は小細工なしで身体強化による速さ勝負。接敵して斬る。突く、払う。それを全て受け止められるので、突いた瞬間に木刀を持っていない左手で殴ろうとしたら、手で捌かれた……くぅ。

 

「今日はやけに良く動くなぁ嬢ちゃん」

「いろいろやってみようと思って」

「どんどん打ち込んで来い」


 私は一旦後ろに下がってから、また接敵して出来るだけ早く短剣を捌き、相手の隙や急所を狙い武器を振るった。隙はわざと作ってたみたいだけど。

 結局は一撃も与えられなかったけれど、その後色々レクチャーを受けて、次は筋トレと言う事になった。





 剣術の稽古が終わり、今は昨日来たギルドの地下に一人で来ている。ギルドマスターの許可は貰った。

 ここに来たのは、勿論魔法を練習するためだ。取りあえずイメージを固めるために、先ずはどんな魔法を元に、どんな魔法にするのかを考えよう。 


 ……一番最初に思い浮かんだのがかなり極悪だ。殺傷能力に長けた物はなんぞやーって考えて思いついた。相手の体内の水分を凍らせればいいんじゃない?と。

 だがこれはかなり難しい。相手の体内と言う事は、もろに相手の魔力に干渉することになる。相手の魔力に干渉するには、相手に自分の魔力を注ぎ込む必要がある。しかもその間かなり無防備になるのと、逆に相手からも同じ手を仕掛けられる可能性もあるので却下。


 風を使って攻撃も、一定以下の実力の相手ならかなり有効だと思う。俗にいうファンタジーの鎌鼬を発現させて、相手に切りかかる様にすれば、かなりの確率でスパンと行くと思う。でもギルドマスターのように鎌鼬を切れるような――推測だけど――人には全く持って効果が無い。


 考えてみると以外と難しいなぁ。初心に戻ってみよう。

 私の一番使っていたのは氷槍だ。これは間違いない。いつもは一本で足りたけど、複数発現させることも可能だろう。現代の知識と合わせると、かなりイメージもしやすい。私が槍を作りたいところに、水素を集めて、それが槍の形を成し氷になって行く。これのかなり早いイメージ、そして無詠唱で行ってみる。

 最初は目の前に一本作るのが限界だった物の、慣れると段々作り易くなる。当面は先ずかなり多くの氷槍を作ることを目標にしよう。

 

 そう決めた所でギルドマスターが呼びに来たので、その日はお開きになった。


 その日の帰り際、どうもティーダお兄ちゃんの様子がおかしかった。

 なので「どうしたの?」と聞いてみると、少し生返事の後、此方を向いた。


「……今日の訓練の最初で、カル……なんか凄かったなって」


 あ、身体強化見られてたんですね……あーこりゃなんて言えばいいのかなぁ。


「師匠に聞いたら、後で教えて貰えって言われて……」


 あー、つまり、一寸拗ねてる? まぁ年下の女の子にいきなり抜かされたんじゃ、お兄ちゃんの立つ瀬も無いか……実際はずるみたいな物だし。

 それに、ギルドマスターが教えて貰えって言ったって事は、ティーダお兄ちゃんに身体強化を覚えさせろと言う事なのだろうか。うん、多分そうだ。若しくは自分でやるの面倒くさくて私に投げたんだあの人。


「あのね……実は、身体強化って言う魔法を使ってたの」

「身体強化?」


 私の言葉に、先程の少し拗ねた表情は無く、なんだか少しキラキラとした目線を送ってくる。魔法か?魔法に反応したのか?


「うん、自分の中にある魔力を使って、体を強化する魔法」

「それをすると、どうなるんだ?」

「力が強くなったり、早く動けるようになったりするけど、使いすぎると危険」


 そう、使いすぎると倒れちゃうからね。


「俺にも教えてカル!」


 お、おうこんなテンションの高いティーダお兄ちゃんを見たのは初めてかもしれない。


「でも今日は遅いから、明日の朝早くでいい?」

「おう!」


 嬉しそうに笑うティーダお兄ちゃん。いつも皆のお兄ちゃんとして少し大人っぽい印象を受けてたけど、まだ八歳。本当にまだまだ子供だ。いくらこっちの世界の子供たちが大人びている、大人にならざるを得ないといっても、皆まだ子供。


 その日見たティーダお兄ちゃんの笑顔は、年相応の無邪気な笑顔で、なんだか私はそれに少しほっとした。特に心配をしていた訳じゃ無いんだけど、なんでかな、ほっとする。


 その日も訓練で疲れた私達は、他の兄弟達よりも早く就寝した。





 翌朝目が覚めるのと同時にティーダお兄ちゃんを起こす。お兄ちゃんは唸りながらも起き上がり外を見ると少し顔を顰めた。


「はやいよ」

「私はいつもこの時間だよ」


 私がそう言うと、何か信じられない物を見るような目で見られた。失礼な。

 強くなりたいなら朝から少しは訓練しないと強くなれないぞーと言う事で、何時もの訓練姿になって孤児院の外へと出た。


「ティーダお兄ちゃんは魔力って感じる」

「ん? 分かるぞ」


 流石こっちの世界の子。本能で自分の魔力の流れを感知できるんだろうね。前回の私みたいに瞑想とかしなくてもさ……。


「その魔力を体の何処かにぎゅうぎゅうに詰める感じ」


 実際は筋肉を補助するように何だけど、多分言っても理解できないから、先ずは魔力を体に馴染ませて、一点に集中させるところから始める。


「こんな感じか?」


 身体強化をしているかは外見じゃ分からない。魔力の流れが分かる人なんてそうそういない。だからティーダお兄ちゃんに、どこに魔力を詰めたのか聞くと、足と言う答えが返って来た。


「じゃあ一寸走ってみて」


 私にコクンと一つ頷いたティーダお兄ちゃんは、少しずつ走るけど、どうもぎこちない感じだ。


「もうちょっと魔力ぎゅうぎゅうを抑えられる?」


 多分その原因は魔力の詰め過ぎ。丁度いい量でないと、その真価は発揮されない。


 その後何回かそれを繰り返し、一寸コツを掴んだところでアーリャさんとお洗濯タイムに入った。

 

 ……あれ、今日も私訓練してない……。


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