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ヒロインだって知っている!  作者: 金谷 令。
上章 再び歩き出すヒロイン
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第二話 鍛えはじめる少女

 朝起きると、まだ皆は寝ているようなので、起こさないようにこっそりと外へ出る。

 外は朝の少し肌寒さが残る時間帯で、空が薄っすらと朝を伝えてくれる。まだ日は上ってないけれど、夜の闇は払われた時間。私は前世も前回もそして今回もこの時間が好きだ。       

 まぁ中身が同じだから当たり前なんだけどね。


 それで、良く寝たのと、昨日の夜少し考えられたのと、そして転生を経験した私としては、もうすっかり落ち着いていた。そんでもってこれから何をしようか……と少し考えてから、ポンと手を打った。走ろう。


 私はヒロインとして生まれたので、魔力量が普通の人よりも多い。そのせいで色々と面倒な事に巻き込まれるのだけれど。でも魔法にばっかり頼っていると、いざと言う時に死んでしまうかもしれない。と言う事で体力づくりをしよう! 

 走る場所は、外に出ると人さらいとか奴隷商とかに見つかるかもしれないので、此処、孤児院の小さな家の周りを回る事にしよう。では早速レッツランニング。





 ……はぁーはぁーぜぇーぜぇー。私の、たい、りょく……低い!


 そりゃ五歳とかの女の子だけどさぁ、もうちょっと頑張ろうよ。軽く三週くらいしたら息上がって、最後に一回気力を振り絞ってバテタ。もう歩けそうにも無いので、身体強化で体を補強して、壁に寄り掛かる。

 身体強化は、体内にある魔力を全身若しくは強化したい部分に流し、補強する技で、これがあるのと無いのでは力に差がかなり出る。ただ、強化している間は魔力を使っているので、魔力切れには注意しなくてはならない。魔力切れを起こすと最悪死ぬし、気絶とか余裕で起こるので注意しないと。


「『レイン』」


 私がそう唱えると、上からざぱーっと水が降ってくる。

足元には小さな水たまりができ、ボヤケながらに私を写しこんだ。そこには黒い髪を肩の先まで伸ばした、可愛らしい女の子がいた。元々ヒロインの姿は可愛いと言うか庇護欲を誘うような絵だった。それがまんま幼くなった感じだ。中身が私じゃ無ければ、かなり男性にもモテたかもしれない……まぁ中身が私なので、不意に二ヤリと笑う姿を目撃されて、相手に不気味な印象を与えた事も前回あった。

 そんな事を思いながらも、このままだと風引くかも……と考え次の魔法を使う。


「『清』」


 もう一つ私が唱えると、ずぶ濡れの私から普通の私へ。体の汚れとかを綺麗にしてくれる魔法で、浄化の下位魔法。この世界は日本語と英語とかがごちゃ混ぜで、違和感があったけれど、二回目だからそんな違和感も感じなくなったし。

 え?魔法の特訓?多分そんなにしないけど? だって、一応前回魔法は一通り習ったし、興味もあったから色々調べたし、元々魔力量が高いのと前世の記憶で何とか習得してるんだよね色々とね。

 でも不意打ちに弱いのは前回で分かったから、そう言う不慮の事態にも発動できる魔法は欲しかなぁ……。


 因みに魔力って言うのは、大体が産まれ持った物で、その魔力量が成長する事はほとんどない。魔力量は遺伝と言う説が濃厚で、父親と母親の魔力量によって生まれてくる子の魔力の量が決まると言うのが、この世界で知られている事、本当かどうかは知らないけど。だからどうしても貴族に魔法使いが多くなるし、でもたまにイレギュラーとして平民からも遺伝無視してポッと魔力量が高い子供が出るから、学園はそう言う子をスカウトして、いずれ貴族に組み込もうとしている。


 魔力が多いと何がいいかと言うと、例えば火の玉を出すためには魔力量が一必要。火の玉を投げつけるのに二必要。火の玉をもっと強い火の玉にするのに四と言う具合に、量が多ければ、その分色々な魔法が使えるようになる。そして魔法には二種類ある。さっき私がやったように、体内の魔力を消費して、脳内でイメージ、その後呪文や魔法の名前を言って、それによって空中に編まれた見えない式から発動するのが魔術。編まれると言っても、前世の魔術式―丸い円の中に色々書いてある―では無くて、自分の魔力が干渉して形を形成してるって感じ。

 もう一つは精霊術。精霊との契約によって魔法を行使する方法。精霊にも色々いるけれど、大体は契約した精霊にイメージを教えて、精霊の魔力で魔法を行使して貰う方法。精霊は人と違って魔力量と言うよりも、空気中の魔素に直接干渉して魔法を行使しているようで、その実態は謎に包まれている、って本に書いてあった。実際精霊なんて珍しくて、私も本の中でしか知らない。


「あら、カルセドおはよう、今日は早いのね」

「アーニャさんおはようございます」


 そんな事を考えていると、孤児院からアーニャさんが出てきた。アーニャさんは此処で孤児の世話をしてくれている女の人で、綺麗な赤い髪の二十代後半くらいで、体型や身長は平均の女性。今思えば、こんな人がなんで孤児院なんかやってるんだろうって少し不思議に思うけど、地雷を踏みそうな気がするので聞かないでおこっと。アーニャさん怒ると怖いんだもの。

 空を見ると、既に太陽が見える。ここは街を少しばかり外れた所にあるけれど、活気が出て来たのが分かる。


「ちょうどいいわ、カルセドお洗濯物手伝ってちょうだい」

「はーい」


 このやり取りも懐かしい。学園が始まるのは十二の頃で、それから三年間学園に通う予定だった。それに学園に行く前は私も少しは足しにと糸を紡いだりと、内職を手伝っていたから、お洗濯物を手伝うのは今の私くらいの年齢の子。だからとっても懐かしい。

 

 身体強化を解除しても動くようになった体を使って、洗濯物をパンパンと伸ばしてから、アーニャさんに渡し、アーニャさんがそれを孤児院と近くの木に張られた紐にぶらせ下ていく。簡単な作業だけど、前回の私はこれをやっている時、少しでも役に立ててうれしいと、嬉々として手伝っていたみたい。

 みたいって言うのは、私(前世)とヒロインが混ざったのが私だから、純粋にヒロインの気持ちって言うのは記憶で知っているし、無意識に私(前世)のような行動をしたり、ヒロインのような行動をするので、混ざったと言うのが正しいと思う。更に言うならば、私(前世)と私(前回)と私(今回)が混ざった……混乱しそうね。

 

 そんなこんなで洗濯物も終わり、この年齢の時は一体何をしていただろうかと首を傾げる。

 ……あれ、何にもしてないんじゃ?

 遊んで、食べて、寝ての生活だった気がする……。ま、まぁ子供だし仕方ないよね。


 私が一人納得していると、ティーダお兄ちゃんも家から出て来た。


「アーニャさんおはよう、行って来る!」

「ティーダおはよう、無理しないようにね」

「ティーダお兄ちゃんどこ行くの?」


 そう言えば、この子の記憶を辿ると、丁度一週間くらい前から、ティーダお兄ちゃんが朝から何処かに行って、夕方にヘロヘロになって帰って来るんだ。だから不思議に思ってたんだけど、まぁいいやって子供ながらに思って何にも聞かなかった、でも折角だから聞いちゃおう。因みに暦は前世と同じ一週間は七日間。


 ティーダお兄ちゃんはアーニャさんに伺うような視線を向けて、アーニャさんはニコリと笑いながら一つ頷く。


「実は俺、八歳になったから傭兵になろうと思ったんだけど……」

「だけど?」

「丁度ギルドにいたギルドマスターに死にたいのかって怒られて、勝手に行ったからアーニャさんにも怒られて、そんで色々あって、ギルドマスターに剣の稽古をして貰ってんだ」


 色々あり過ぎじゃない? て言うかギルドマスター仕事しなくていいのかな……。本人がいいならいいんだけど。


「ギルドマスターは私の知り合いだから、うちの子をよろしくって言ったのよ」


 アーニャさんが何と言う事は無いと言った風に言ったけれども、よろしくでギルドマスターが動くってあなたは一体何者ですか……アーニャさんの謎は深まるばかり……。


「私もいく!」


 それは置いておいて、こんな面白そうな事なら首を突っ込む! と言うか少しでも私は私を強化したい! 前世でも前回でも剣術なんて習わなかったから、こんな機会逃してなるものかー!


「んー、でもカルには早いと思うけど……」

「お願いー」


 ティーダはまたアーニャさんの方をちらりと見ると、アーニャさんは少し苦笑いしながら私達の方に来て撫でてくれる。


「二人ともけがしないって誓える? 特にカルセド」

「誓える!」

「俺も誓う」

「じゃあしっかり夕方には帰ってきなさい」

「「はい!」」


 私達は元気のいい返事を返して、孤児院を後にした。


 孤児院を出ると、ボロイ家がポツポツと立っている区画に入る。と言うよりもうちの孤児院もこの区画にある。


「ねー、ティーダお兄ちゃんはどうして傭兵になりたかったの?」


 うーん……一応五歳をイメージしながら話してるけど、正直辛い……。


「早く一人立ちしたら、アーニャさんが楽になると思ったんだ」


 ……しっかりしてる。

 この世界の子供は、結構しっかりしている子が多いと思う。貧しくて大人にならざるを得ない子供がいっぱいいるって、実感する。

 ティーダお兄ちゃんだって、ホントはまだ親に甘えたっていい歳だ。でも孤児で甘えられるのは忙しそうなアーニャさん、そりゃ大人にもなるかな。


「ティーダお兄ちゃん、手つなご」

「……いいよ」


 ふふふ、年齢的に見れば下だけど、お姉ちゃんに甘えてもいいのよ。

 

 って良く考えれば、私が甘えたような感じになってる? もしかして一寸外に出て緊張とか怖がったりで手を繋ごうとした子に見えてる? ……作戦失敗だ。つ、次こそは!


 一人悶々としていると、いつの間にか普通の家が目立つようになってきた。普通と言っても、貴族の家とかに比べたら小さくてぼろいけど、私達の区画からすれば立派なお家が並ぶ区画。ここには宿だったりギルド、色々なお店がある。


 ティーダお兄ちゃんは慣れているのか、悠々と人の行きかう道を歩きながらギルドへと歩を進める。途中で馬車とすれ違ったり、野菜を売っているお店のおじさんが行きかう人々に声を掛けているのを見ながら、ティーダお兄ちゃんを見失わないようにしっかりとついて行く。

 

 着いたのは、他の家の二倍はある建物で、裏には庭が少し見える。きっと裏庭は練習用とかそんなんだと思う。外見は白を基調とした立派な建物で、真ん中に木の両開きのドアがあり、今は開け放たれていた。と言うのも、建物の中には、剣やなんやらを持った物騒そうな人たちが、談笑したり、壁を眺めていたりしている。多分壁を眺めている人は、依頼書でも見ているのだと思う。たしかギルドの依頼書は左の壁に貼ってあり、右にあるカウンターで受けられる使用になっていると、話に聞いた。


 ティーダお兄ちゃんはその中へと入って行き、三つあるカウンターの一番手前の女性に話しかける。女性はティーダお兄ちゃんを確認すると、「裏で待っててー」と言って、奥の階段を上がって行った。ティーダお兄ちゃんはそれに返事をして、入り口から真っ直ぐ突き抜けて、正面にあるドアを開ける。

 そこは広い庭で、木の棒が幾つか刺さっているのと、馬小屋のような場所が端っこに立っていた。


「よぉ、今日も来たな坊主、でそっちのお嬢ちゃんは?」


 声のした方に振り返ると、先程私達が通って来たドアから人が出て来た。ツンツン髪のマッチョなおじちゃんが現れた。服はシャツにズボンと言うラフさ。本当にこの人がギルドマスター?なんかイメージと違うんだけど……剣の業と言うよりも、力で倒すぜー!な感じのおじちゃんだ。


「……お嬢ちゃん、なんかひでぇー事考えてねぇーか?」

「あ、いえ、初めましてティーダお兄ちゃんと一緒の孤児院のカルセドです」

「師匠、カルも一緒にやりたいって言うから、連れて来たんだ、勿論アーニャさんの許可も取ってあるし」

「ほぉ、お嬢ちゃんがねぇ、まぁいいぜ、仕事の片手間だしな、とりあえず坊主はいつものだ」


 ティーダお兄ちゃんはその言葉に一つ頷き、馬小屋の中から木刀を取り出して、一瞬動きを止めて木刀を振る。多分型の基本をやっているんだと思う。さっきまで少しダルそうな目つきだったおじちゃんも少し目つきが鋭くなってるし。


「じゃあお嬢ちゃんもあん中から持てるの持ってきな」


 私も一つ頷き小屋に向かう。小屋の中は木刀が散乱していたり、ちゃんとした武器も少なからず置いてあった。残念ながらぐちゃぐちゃっと。なので私は本物の武器の方には近づかず、手前にある木刀をいくつか持ってみる。

 うーん、結構重い。もうちょっと細いのないかなぁと探して、脆そうだけど少し小さな片手剣を見つける。これでいいかな。


 私はその剣を手に戻ると、おじちゃんはティーダお兄ちゃんに何やら指導しているようなので、気の木陰でその様子を少し眺める事にした。

 手の持ち方、振り抜きの力加減、体全体の力の入れ方なんかを指導指導しているようだ。一通りそれが終わると、ティーダお兄ちゃんは腕立て伏せを始めた。そこで私が呼ばれたので、そちらに行く。


「んで、お嬢ちゃん、好きなように俺に打ち込みな」


 おじちゃんはティーダお兄ちゃんの持っていた木刀を持って、適当に構えている。

 て言うか好きに打ち込めって言っても、私知らないんだけどやり方。

 んー……えっと、確か前世で剣道の授業をしたときに、持ち方は何だっけ、左手に力を入れて、右手は支えるだっけ? 良くわからないけどこれで行こう。


「行きます」


 私は軽く走りながら左手に力を入れながら、振り下ろす。けど木刀の遠心力か何かに持って行かれて、剣に振り回される結果になった。や、やったことないし筋肉もそんなに無いんだから、仕方ないよね……ぐすっ。


「お嬢ちゃんは先ず力つけねぇとなぁ」

「……はい」


 はぁ、ですよねー。

 と言う事で私もティーダお兄ちゃんの隣で、腕立て伏せを始めたが、十回で腕がプルプルでぺしゃんと潰れた。

 

 ……がんばんないとね。

 


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