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ヒロインだって知っている!  作者: 金谷 令。
上章 再び歩き出すヒロイン
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第一話 プロローグ――舞い戻る少女――

 私はティーカップに入っている紅茶をグッと飲み干した。

 ここは悪役令嬢フローラの部屋。後ろには私達の執事が立っている。


「ごめんなさいカル、本当にどうしてこうなってしまったのかしら……」


 フローラの表情は本当に疲れており、その言葉が本心だとうかがえる。


 この世界はとある乙女ゲームの世界……。私は学園入学と共にその記憶を思い出し、折角なので結婚は無いにしても、攻略者を生で見ようと思ったのが運のつきだったのである。

 悪役令嬢もまた転生者で、その記憶を有しており、そして自分の没落と死を回避しようとして、攻略者たちに好かれていた。

 私はイベントが起こらない事を不思議に思い、少しばかり探りを入れた、そして攻略者たちはみなフローラに恋心を抱いている事を知る事となる。そこで私は諦め、でも折角の美形が見られるなら眼福よねーくらいの気持ちでいたのだが、私は嵌められたのだ。当時私に近づいて来た女がいた。その女とは友達になった、しかしそいつは元々この国の王子への狂信者、その女は私が探りを入れたのを王子が好きだからと言う意味の分からない誤解を抱き、そして王子に他国の密偵がいると教え、王子はまんまとそれを信じた。

 フローラはそれを知るや否や、私の事を擁護してくれたけれども、それが逆に最愛の女性を誑かす悪女となった。どうしてこうなったとは本当にこの事だと思う。ほんと、勘弁してほしい。


 フローラとは学園に入った時からの知り合いで、お互いが転生者と言う事で仲良くやっている、私の身が危険だと今晩こうやってお茶にも招待してくれた、ここならば少しは安全だろうと。

 私は首にかけているネックレスに触れ、ゆっくりと取り出す。これは私が隣国の王女であると言う印。でも王女なんて面倒くさくて結局はこのネックレスは人前に出す事は無かった。もし出していたらこの運命も変わっていたのかもしれないけれど、それは後の祭りにしかならない。


 その時扉が部屋の扉が粗々しく開けられる、そこにいたのは何人かの兵とあのにっくき女、私を嵌めたあの女が此方を見ながら笑っていた。私は反撃に出ようとして立ち上がるが、執事が私を取り押さえる。隣を見るとフローラも同じ状況だ。

 私は文句を言おうとしたその瞬間、素早く兵が此方に向かってきて私を剣で刺した。

 丁度お腹の上あたりを剣が貫き、私は脱力のまま地面に横たわった。


「……はぁ、漸く排除できたわ二人のヒロイン、貴女達さえいなければ……フフフ……アハハハハハハ」


 あの女の声が聞こえる。

 その笑い声がどんどんと遠くなる。

 私は負けて、死ぬ。

 傍観しようと決めたのが悪かったのか、そもそも学園なんかに行かなければ良かったのか、今の私には分からない。確かに言えることは悔しいと言う事。

 この世界に翻弄されて、あの女にもいいように使われて……悔しい。

 違う未来を行けたなら……もし、今回みたいに転生したら……きっと次こそ……。


『死にたくないですか?』


 既に五感は無く、ただ暗闇の中で誰かが言った。


「……死にたくない! こんな死に方まっぴら!」

『もしも機会が与えられるなら、今回と同じにならないと誓えますか?』

「誓うわ! こんな結末はこりごりよ!」

『よろしい……ならばお行きなさい……この世を戻しましょう……あの頃へ』


 その声を聞き、私は意識を手放した。







*****








「…………ル」


 ?


「……カル!」


 誰かが私を呼んでいる?


「カル!」

「ッ!!!」


 私はベッドから跳ね起きて、私の名前を呼んでいた人物に目を向けた。


「ティーダお兄ちゃん?」

「あぁそうだ、どうしたずっとうなされてたんだぞ!」


 うなされていた? 私は……そうだ、私は死んで……!

 刺された場所を触ると何ともない……ん? んんんん? !!!!!!

 私は自分の手を目の前まで持ってくる。そして体をペタペタたと触り確信する。縮んでる! いや、そうだ、確かあの時この世を戻すとか何とか……まっさかぁ……。いやでもそれしか考えられない。でも異世界転生なんてある世界だから、なんでもありなのかもしれない……。

隣のお兄ちゃんは孤児院にいたころの兄弟で、少し深い緑の髪とちょっとキツイ目つきの男の子、彼は見紛うこと無き幼き日のティーダとしか言いようが無いし……。

懐かしい……血は繋がっていないけれど、ここの孤児院にいる子供たちは皆家族みたいなものだから、お兄ちゃんと呼んでたんだ。


「う、うん大丈夫」

「そうか、何かあったら言うんだぞ!」


 ティーダお兄ちゃんは、いつも何だかんだで皆の事を世話してくれたっけ……。

 そんな事を思い出しながら、私は自分の置かれている現状を確認する。


 えっと、私の名前はカルセド、年齢は……多分五歳くらいだと思う。これは正直推測でしかないんだけど、朝になったらもっとはっきり分かるはず。前世の年齢と巻き戻る前の年齢を足すのは……よしておきましょう。

 確か私は嵌められて刺されて死んだ。けど何処からか声がして時間が巻き戻った? まぁここは巻き戻ったと仮定しよう。 

 この世界はとある乙女ゲームの世界。良くある学園ものだ。乙女ゲームの世界と言う事は思い出せても、このゲームのタイトルは思い出せない、だけれども大よその話の流れは覚えている。因みに私が転生したのはこのゲームのヒロインだ。

 ヒロインは他の者より魔力が多く、孤児院にいた時に学園にスカウトされて、学園へ通う事となるのがスタートだ。勿論ヒロインは平民であるので嫌がらせを受けたりもするが、その才能だったり、心の温かさだったり、物珍しさからだったりと、攻略者と出会って行く。そしてそれを悪役令嬢が邪魔するが、その困難を乗り越えて、二人で幸せになる……若しくはハーレムエンドに持って行くと言う流れだった、勿論その途中でヒロインが王女だったり、最後に悪役令嬢を糾弾したりする、そんな至ってシンプルなゲーム。

確か前世の私は暇つぶしにこのゲームを遊んでいたはずだ、だから全部のルートを完璧にとか、全部のスチルを集めるなんてことはしていなかったはず。

 攻略対象は私が覚えているだけで三人、多分もっといたけれど忘れてしまったのだから、今考えても仕方ないと思う。

 まずはこの国の第二王子様、そして隣国の第三王子――この人のルートは逆に王女だとばれないけど、公爵家の養子に入る、因みに腹違い――、そして悪役令嬢の弟の三人。そんな三人は勿論ゲームなのでどこかしらかけている。暗い過去があったり、愛情不足だったりと色々だ。そのせいで性格もひねくれているが、それをヒロインが優しく接してあげると言う物だ。

 

 しかし、前回はノベルで良くある『悪役令嬢が転生してハーレム』だった。フローラ(悪役令嬢)の話によれば、糾弾されて死んだりしないように、幼少のころから頑張ってフラグを折っていたらそうなったのだとか……まんまノベルですありがとうございます。と言う事で、私は遠くから見ていたのだけれど……刺されて死んだ。多分今回のフローラも転生しているフローラだから、攻略者を落としに行くのは無理だと思う。それに学園にはあの女もいる、私達を殺したあの女だ。別に復讐しようとかはそんなに思わない。どっちかと言うともうお関わり合いになりたくないーって感じだ。ただ悔しいは悔しいので、もし会った場合は容赦しない、全力で相手をする。


 でも学園に行けば、あの女と鉢合わせてしまう事になる。なら学園に行かなければいい。学園にはスカウトだったから、それを断ってしまえばいい。でも貴族の誘いを断ると、この孤児院に迷惑が掛かってしまうかもしれないのは嫌だな。んー……早々に孤児院を出る? 孤児院を出ればスカウトに見つかるフラグを一つは折る事になる。


 でも私は孤児。私は王女よ!と名乗り出る事はしない。なんて言っても面倒くさいからである。折角やり直しの自由な体なんだし、この世界が乙女ゲームと言う事も、フローラのハーレムで、それを邪魔すると私がヤバい――糾弾されたり死んだりする――と言う事も知ってる……そしてこのゲームのもう一つの顔、RPG要素。これは超簡単な設定だったんだけど、実際の世界になると重みが凄い事になっている。


 世界では魔素と言う魔法の元?みたいなのを取り込んで凶暴になった魔物が存在する。設定で見ればありきたりな、それでいて世界に危機感をもたらしてくれる簡単な一文だ。

でも前回の記憶を探れば、その一文で多くの人が死んでいる。村を魔物に襲われた人々。商業の為に馬車で移動中に襲われた人々。そしてこの荒れた世界で盗賊を始める人々。文明だって高く無い。簡単に中性ヨーロッパのようなと言う一文があるだけで、前のような文明の利器は存在しない。真に残念な事だ! とまぁ嘆いていてもしょうがないので、この世界で頑張って生きて行こうと思う。二度目だしね。


 とりあえず今決まった事は、学園には行かない。その為にスカウトの人と鉢合わせないように、早めに孤児院を出る。後忘れてた、私の唯一の持ち物、ネックレス。このネックレスは、エメラルドのような宝石に、グリフォンが剣を持っている紋様が白い線で描かれている物にチェーンが通されている。これは隣国エリアスーラ国の紋様である。こんな物を持っていたら、私は関係者ですと大手を振っているような物、と言う事で少し大きくなったら売ってしまいましょう。


 そうと決まった訳だけど、孤児なのでお金が無い。この世界のお金は硬貨だ。大きく分ければ四種類、銅貨・銀貨・金貨・白金貨、最後のは国とかの関係の支払いに使われるもので、金貨だとかさばるので作ったみたいなものだ。細かく見ると、銅貨は銅貨、銀貨からは小銀貨と大銀貨に分かれている。次の金貨は小金貨、中金貨、大金貨。最後の白金貨は銅貨と同じで白金貨のみ。それぞれ百枚で次の位の硬貨一枚。だけども白金貨だけは、大金貨千枚分と言う途方もないお金だ。まぁ私が持つ可能性は無いと思う。


 話しがずれたけどお金の稼ぎ方は……やっぱりギルドに入ってお金を稼がないといけないかな。ギルドの仕事の総称はその名もずばり傭兵! 簡単。そこは冒険者じゃないの?って思ったけど、傭兵は傭兵なので仕方ない。八歳から入れる所で、実際に見た事はほとんどない。前回は前世の記憶が戻ったのが学園に入ってからなので、傭兵なんて怖い所は近寄らないって言うのが私の中での常識だった。


 でも今回は怖いとかよりも行ってみたい!と言う気持ちと、なんでも良いからお金を稼いでこの運命から逃げ出したい!と言う気持ちがある。多分死体に慣れるとか解体とか色々やらなくちゃいけない事はあると思うけど、あんな死に方するよりましだ。執事に抑えられて兵士に殺されるなんて……まっぴらごめん!


 でも私は非力な女の子、剣を握って相手をスパンと切れるかと言われれば無理である。しかし、私は前世の記憶と前回の記憶を持っている。そしてこの世界には魔法がある。これを使わない手は無い。そして今回は五歳からの再スタート、強力な魔法を考える時間がある。ギルドは八歳から入れるから、最低でも三年くらいは考えられると思う。

と言う事で先ずは魔法をどうやって使うかを考えよ……と思ったけど、一寸眠くなってきた。私の体は五歳、戻って来たのか未来を体験して来たのか知らないけど、まだまだ子供。ネムイ。と言う事でおやすみなさい…………。






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