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作者さま向けの解説やら資料やら

「剣と魔法」世界における人口あたりのマジックユーザー比率に関する一考察 ~プリースト技能者編~

(まえがき)

 拙作のこれ(https://ncode.syosetu.com/n5607ci/)を書いた際に計算してみたものをたたき台としています。そのため、始めからある程度の方針が先に立った上で考えを進めておりますので、一定の恣意性を孕んでいるものかと存じます。ご参考の際はそうしたあたりを割り引いてお受け止めいただけますようお願い申し上げます。

 近代化を迎える以前の原始的農業生産社会の場合(いわゆる“中世ヨーロッパ風”社会の場合)、よほどの地理的好条件に恵まれた場合を除き都市人口というものは周辺一帯の衛星的農村地帯との人口比においておおむね5%~10%ほどとなるそうです。

 逆に言うと90%~95%は従事的生産層でなければなりません。でなければ人口に対する食糧消費を賄えなくなるからです。

 このため、「都市」や「城塞都市」といった一見大層にも思える言葉が使われておりますが、その実態は現代を生きる我々の感覚からは大きく乖離したものがあり、人口わずか千名~二千名程度の小都市がほとんどだったそうです。万を超えるような人口の集約地点は大都市扱いの稀な存在だったそうです。

 これはやはり逆算してみると理解がしやすく、一例として人口一万人の都市を中心に据えた場合、周辺の農村部人口が十万人規模で存在している必要が生じます。食料の運搬や警備力の実効的到達を鑑みた場合の“衛星”許容距離がおおむね半径20km~30kmほど(つまりは、地形にもよるが一日で移動できる程度の範囲)ですから、今日の我々がファンタジックな世界を想像する場合と実際は異なり、当時の人々は意外とコンパクトにまとまって集落を連ねていたことが分かります。(少なくとも途中で野宿しなければ隣村にも辿りつけないといったことは、基本的にはなかったようです。)


 さて、表題の「マジックユーザー比率/プリーストの場合」ですが、近代化以前の原始的農業社会の場合、絶対的な食糧供給能率の都合上、具体的生産的労働に携わらなくてよい特権的階級を養える“量”が限られていました。あくまで参考資料上からの類推ですが、一万人都市ですと、支配階級・貴族階級が付帯する上級役人なども含めて五十名~多くて百名に届かないくらい。次いで聖職者がおおむね三百名ほど~四百名に届かない程度、と考えられます。

 つまるところは、都市内人口比において3%~4%ほどでしょうか。付帯的な浮動層を含めても5%までいってしまうと養うことが苦しくなってくるようです。

 この三百数十名程度の聖職者たちの内から、はてさて何割が“奇跡の祈祷術”(よく神聖魔法などと呼ばれやすいですね)を使えるとするか、これが問題の要となります。


 まず三百数十名のすべてが術を使えると考えた場合。

 この場合、都市内の医療事情がおそらくほぼすべて神官司祭頼りで解決してしまえるだろうとなります。とすると、癒しの術の恩恵を受けられることが珍しくもなく、礼料(御布施の体を借りた料金)も廉価であることでしょう。

 一見いいことづくめにも思えますが、ただしこの場合は奇跡に頼らない形の医療技術や製薬法などが駆逐されているだろうとも考えられます。となると、たとえば冒険者への仕事の依頼内容の内から日常的に使うための薬草採取、といったものも必要性がなくなるわけです(特殊な魔術媒体などに使うための薬草・霊草といった例外ならばありえます)。

 また、基本的に怪我人や病人が後を引きずることもない社会になりますから、そうした事故や悲劇的事態から生じうる解決のためのクエストも成り立たなくなります。人々の平均寿命からして長くて恵まれた社会になるかもしれませんし、逆にそうして人口が減りにくい社会だからこその食糧不足や侵略戦争、新地開拓のための隷従的扱いとなる底辺層の労働身分などが定められているかもしれません。

 これらのことから、かなり偏った社会の形成が予想されます。こうした波及面についても考慮の上で、“その世界観”において許容されうるものか、ご判断いただければと存じます。


 次に、すべての聖職者身分が奇跡の術の行使能力を備えているわけではない、とした場合。

 割合にもよりますが、消去法的に考えることで絞り込んでいけます。少なすぎた場合、貴重な特殊治療能力者となるので、特権階級の健康余命確保のため強力に独占されるであろうことが容易に予測できます。この場合、普遍的に社会に還元されることがないため(要はプレイヤー的立ち位置で自由に動く余地のある立場がありえなくなるため)ここでは省きます。多すぎた場合に関しては、前述に準じることになりますのでやはり省きます。

 貴重すぎず、多すぎず、また複数の宗派があったとして(たとえば有名な“剣の世界”のように六大神や光の五柱神など)それぞれの宗派がその特権的権威ある立場を失わぬ程度には安定して特殊能力者を確保できていると考えた場合、世代別に技能の教えを途絶えることなく継承するためには一つの宗派あたり五名~六名ほどは少なくても必要でしょうから(その中でさらに才能の多寡があるわけなので)、細かな小宗派も含めたとして都市内にはおおむね三十名~五十名ほどの治癒術者がいる、となってくるでしょうか。

 この数字なら、治癒を受けようと思えば受けられるけれども、そのために用意しなければならない礼料は決して安くなく、庶民が気楽に頼ることは難しい、といった程度のバランスが成り立つのではないでしょうか。


 後者の数値を引いて話を進めます。

 今度は都市外の衛星村落における割合について考えます。神官(プリースト技能者)が癒しの奇跡を使える世界の場合、軽い怪我などについてはもっと気軽に対処するための薬師がいたとしても、頼れるものには頼りたがるのが人間というものですから、そうした社会において神官不在の村落というものは、いわば“無医村”の扱い、住民心境ではないかと考えられます。モンスターの襲来などといった脅威も想定せねばならない世界であればなおさらでしょう。つまり都市には術者がそれなり人数いるのに都市外にはぜんぜんいないなどとなると、治安の維持に不安が生じることになってくるわけです。

 よって、一定の比率で各村落にも神官がいる(というか配備されている)と考えます。ではそれがどれくらいか、という部分が肝になるのですが、そこを考える前にまず村落ごとの規模が関わってきます。

 よくファンタジックな世界を描く際に、村人が百名もいないような弱小の村落が登場することが多いのですが(おそらく“まれびと”たる冒険者などの活躍や特異性を目立たせたいためだと思われるのですが)、実際にそんな少人数だと自治体としての存在と生活が維持できないだろうと想定されます。まず一戸(一家)あたりの人数が十名ほどはいるはずです。近代的医療技術が普及する以前の文明で、かつ癒しの術があって当たり前ではないとした場合、乳幼児の死亡率が高いはずですので、基本的には多産奨励文化となっているはずです。そうすると、一戸あたりの人数が十名から多ければ二十名ほどいてもおかしくなく、むしろ十を割るほどの小数に陥った家は次代を維持できず速やかに消えゆく(もしくは離散する)結果になるのではないでしょうか。その上で、一つの村の中で血を濃くしすぎるわけにもいきませんから、周辺の村々と嫁婿の交換を行うとしても一定数より多くの戸口がないとやはり世代の先行きが安定できません。そもそもモンスターの脅威などがあれば防衛力や防壁を囲う都合上からの労力の確保を要しますから(まさかのノーガード戦法ではまともな精神状態で暮らせないでしょう)、やはりある程度のまとまった人口を要します。また、農民の移動が領主によって制限されているといった事情の加味などもありえるでしょう(だいたいの場合、嫁取り婿取りは願い出れば許可されるものではあったでしょうが)。

 これらの要件から、まともに「村」と呼べるほど暮らしが世代を重ねて成り立っている村落においては、少なくとも三十戸から五十戸、人口にして五百人以上はまとまっていたのではないかとここでは考えさせていただきます。ただし、その内の「主に戦力として数えられる世代」となると、割合を高めに占めるだろう子供をまず省き、老人も省きますから、女性を含めたとしても半分か、半分を下回るくらい。女性を除くならば三分の一を下回って四分の一近くとなってくるのではないかと考えられます。

 よって、一つの村が五百名から、ものの資料によると二千名規模の「村」あるいは「小さい町」といったものも珍しくなかったそうですから、この範囲で想定したいと存じます。


 各村に、必ず一人はプリースト能力者がいるとした場合、暮らしは安定しているでしょう。ただし薬師の出番はあまりありません。

 五村~六村あたり、つまり“一帯”に一人程度とした場合、気安く日常的に頼ることはできなくなりますが、たとえば「お~い、隣村の木こりのマゴロクの奴が熊に襲われてざっくりやられちまったらしいだ! すまねぇが司祭さま馬で駆けつけてやってくんろ!」といった救命行為、また日常的にも往診医療が成り立つと言える範囲でしょう。

 これより稀になってくると、救急救命は間に合わなくなるので他の手段を備えておくことになるか、いっそ主筋の都市から都度派遣してもらった方が利便性を見込める(ただし費用の問題が大きくなるので村々の都市に対する隷従度が高まることになる)のではないかと考えが変わっています。

 今回の想定(当エッセイ)では、やはり消去法的な観点から真ん中の例が具合がよいだろうということで採用しています。

 ※あくまで治癒能力を有する神官司祭の在住割合であって、能力がなくても日常的・季節ごとの祭事を司るためなどの、いわば“普通の”神官司祭やその一家などであれば各村におおむねいる(というか、祀られた神殿や(ほこら)がある)ことでしょう。


 以上から平均値を計算すると、都市外のプリースト能力保有者は15名ほどと算出されます(端数切り上げ)。ただしこれは非常に機械的に平均を割り出した場合の数値なので、これ単独で考えてしまうと実際性が薄くなりそうです。

 揺れ幅として、村落一つあたりの人口を少なめに寄せた場合(五百~六百)が約37名、逆に人口を多めに寄せた場合(千八百~二千)が約11名、と出てきます。

 この人数を都市内における能力者数とそれぞれの場合で足し合わせた場合の範囲が、41名~87名となります。これをさらに総人口十万~十一万で割ってみますと、多いほうの数字として約1,150人~1,265人あたりに一人の割合(0.079%~0.087%)、少ないほうの数字としては約2,440人~2,683人あたりに一人の割合(0.037%~0.041%)といった数字が出てきます。また平均ずばりを割り当てた場合は、約1,819人~2,000人あたりに一人の割合(0.050%~0.055%)になりました。


 概算ではありますが、拙作においては上記の数字を踏まえ、かつ作品内世界の社会文明レベルから戸籍整備や統計分析手法の未熟・未普及であろうといった面も踏まえて、大ざっぱに「一千人から二千人あたりに一人ほど」が治癒術師(プリースト技能覚醒者)の素養を持つ者として分布していると“言われている”と扱わせました。


 ただし、この数字は前提として、住民の大部分(実に九割以上)が都市部つまり権益階層を支えるための従事的労働生産層であり高度な教育を受けるような機会がなく、農村部においては識字率すら低い(予測として二割は切る)とした場合にそもそも能力に目覚める切っ掛けすらまず巡りあうことがない、たとえ体質そのものは魔法的素養を持って生まれていたとしても磨かれていないため発露しない、神に祈ること自体はあっても高度に練磨された精神性を備えていないため神が奇跡を授けるための高次意識と接触できない、といった社会文明レベルの低さから生じるどうしようもない機会損失の大なるところが前提としてそびえていることをご承知おきください。

 もし、すべての国民が五年~十年単位の基礎教養を学ぶ機会と優遇に恵まれ(それを可能とするほどの生活上の余裕が備えられており)、かつ神に仕える使徒としての奉仕・修行を五年~十年単位で積み上げることを当然として生涯を送れているならば、プリースト人口比は五十人に一人だとかいやさ十人に二人~三人いてもおかしくないよ! といった潜在性も考えられます。

 ということで、そうしたところの実情で変動してくるだろう数字に関しては、あなたの想定される作品内世界にあわせて調整していただければ幸いに存じます。


 以上、いずこかどなたかの作品構築において参考になるところでもございましたら望外の喜びと存じ申し上げます。乱文雑記にて失礼いたしました。

(なお、こうしたRPG界隈を趣味とされる方は多くいらっしゃるかと存じますので、一家言お持ちの方はぜひそれぞれのお立場からお考えを述べ寄せていただけますと大変嬉しく存じます。よろしくお願い申し上げます。)

(あとがき)

 おすすめ参考サイトページ様(敬称略)


「京都大学RPG研究会/RPGに関する雑文/中世ヨーロッパの風景/中世の都市人口」

 http://www.ku-rpg.org/column/population.html


「こちら第三艦橋/幻想書館/幻想世界の都市をデザインする」

 http://www5a.biglobe.ne.jp/~outlaws/text/city_design.htm


 勝手ながら筆者のうろ覚えなる知識を叩き直して文に形を与えるに際しまして大変参考とさせていただきました。この場を借りまして厚く御礼感謝を申し上げます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 医療事情を考えると、冒険で役に立つレベルのヒーラーって医療従事者になれば、そこそこ安定した暮らしができそうですよね。 彼らが態々冒険者になる理由付けって結構難しいんじゃないかと思いました。 …
[一言] 拝見しました 凄く色々参考になりました。 プリーストは兎も角、普通の「魔法使い」も やはり同じ数値になりますか? ・・・先生は安価ゲーとかに来られたこと有ります?w
[一言] 面白いです。 先日、アルテナの箱庭が満ちるまでという小説をなろうで読みました。この作品中ではなんらかの能力を得られる人が全体の0.5%で、そのうち10%がヒーラー系で、そのうち蘇生使える熟…
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