#7 天気予報
「じゃ、そろそろ帰りましょうか!」
あれからどれくらいたったのだろう。
私は日頃の仕事疲れと、コンプレックスだった名前を褒めてくれた安心感から、すっかりカウンターで眠っていた。
気付けば肩には黒いジャケットがかけられていて、一目で彼がかけてくれたのだと分かった。
「ごめんなさい、話きいてもらっといて寝ちゃうとか…」
「ん?いえ、俺もちょっと寝てましたから」
店の電気が少し暗くなってたり、カウンターにあったはずのワイングラスがなくなってるのを見れば、それが嘘なのくらいすぐわかる。
自然と気を使える奴なんだなぁ…。
「送ります。俺も明日学校なんで、そろそろ帰んないと」
「いいのに、そんなの」
「今何時だと思ってるんですか?絶対送ります!」
ムキになって言う彼が、一瞬すごく幼くみえた。
さっきまでは大人っぽかったのに、やっぱり学生だ。
「入口のとこで待っててもらえますか?裏口から鍵かけるんで」
そう言って、店の奥まで入っていった。
まだ肩にかかっていたジャケットを丁寧にたたみ、自分のトレンチコートを羽織る。
外に出ると、予報どおり雪が降っていた。
「おまたせ」
裏口から彼が顔を出した。
ジャケットを渡すと、ありがとう、と言って袖に手を通した。
「寒いですね〜」
「…雪だからね」
「俺さ、天気予報できるんですよ」
空を見上げながら、突然言った。
「うそー。ただの学生クンが?」
「まぁ、予言って言ったほうが近いですけど(笑)」
少し得意げに話す彼は、完全にバーテンダーから普通の学生に戻っていた。
「じゃあ明日は?」
「ん〜……たぶん、雨ですね。雪降るほど寒くなりませんよ」
「何でわかるの?」
「カンです。でも8割くらいあたりますから!あ、じゃあもし外れたら、明日またカクテルサービスします」
「本当?明日もし晴れたら、大学まで乗り込むかもよ」
冗談で言ったこの言葉に、彼は嬉しそうに笑った。
「絶対雨です!……でも晴れかも」
「なにそれ(笑)」
雪のちらつく真夜中に、二人の声だけが夜空に響いていた。




