表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
moderato.  作者: 奏多
42/56

#42 課題曲

†優也side†



香帆さんの家を出てから、俺はまっすぐ大学に向かった。




練習棟に行き、ちょうど開いていた練習室の鍵を借りる。




休日にもかかわらず、練習棟の中はフルートやらホルンやらの音で溢れかえっていた。




ピアノの置いてある練習室は棟の一番奥にあるため、廊下に立ててある譜面台やら楽器ケースやらを避けながら、なんとか部屋までたどり着いた。




『使用中』の札をかけ、中に入って鍵をあける。




そしてピアノの前まで行くと、ついさっき決まった課題曲の楽譜を立て掛けた。




モーツァルトのピアノ・ソナタ第17番KV570。




神童と呼ばれた彼の、数多いソナタの中の1つで、晩年に書かれた簡素で澄み渡った旋律が特徴の変ロ長調。




今までの彼の作品のような、華麗さや深さは影を潜め、彼がますます純粋な音楽の境地にあったことを示す作品だ。




…………香帆さんのお父さんがこの曲をよく弾いていた、と言っていた。




そんな大切な思い出の曲を、俺なんかが弾いていいんだろうか……




それに、『事故で亡くなった』とも。




前に泣いていたときの、『どこにもいかないで』の言葉。




あれは、お父さんが亡くなったときのことなのか……?




だとしたら、ますます俺でいいのか、なんて思ってしまう。




鍵盤に指を這わせ、穏やかに踊らせる。


指は穏やかに音を紡ぎだす。




それと同時に、絶対にお父さんには負けたくないと、そう思った。







やがて曲は、緩やかな第2楽章に入った。




香帆さんにこんなにも深く印象を刻みつけたこの曲。




その思い出を、今度は俺が塗り直したい。




俺の曲にしてやりたい。




そこまで考えて、ピタッと指を止めた。









……何だ、この気持ちは……?




なんか、体の奥の方がモヤモヤする。




言葉ではなんとも表せない、ムカムカというかイライラというか……。




香帆さんのお父さんとは面識だってないんだから、好き嫌いなんかあるはずもないし……。






誰もいない練習室で、深く溜め息をつく。







わけがわからない。




何なんだ……??

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ