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moderato.  作者: 奏多
41/56

#41 思い出

「………じゃあ、あの、失礼しました………」




昼過ぎになって、いたたまれなくなったのか、優也が申し訳なさそうに立ち上がった。




「ごめんね、こんな狭い部屋で………」


「い、いえ!元はといえば俺のせいですから…っ」


「ん〜……(笑)」




否定はできない。




「でも、昨日ピアノの練習できてないよね。やっぱり起こせばよかったね」


「いえ!………正直、ちょっと嬉しかったし……」



へ?今、なんて……



「ゆぅ……」


「あ、もしよかったらですけど、新しい課題曲決めてもらえません?」




……話変えたな…(笑)




わかりやすすぎだよ…




「課題曲?」


「はい。今度の課題曲をこの中から選んでこい、って何冊か渡されちゃって」


「でも、そんなの自分で決めたほうがいいんじゃ……」



だって学校の課題でしょ?



素人の私なんかが選んじゃまずいんじゃないの?




「どれもとくにやりたいのなくて。香帆さんが弾いてほしいと思うやつにします」


「でも………」


「大丈夫ですよ。軽い気持ちで選んでください。ほんと、何でもいいですから」



そう言いながら、学校の鞄から何冊かの楽譜の束を探し出す。




そんなこと言われても……。



とりあえず差し出された楽譜に目を通す。




ベートーベン……ショパン………リスト………






あっ!




「これ、これがいい!!」


「ん?」



私が見ている間にくつろいでいた優也が、ゆっくりこっちに目を向ける。



「モーツァルトの……ピアノソナタ17番?」


「うん!………これがいい…優也さえよければ、なんだけど」




思わず笑みがこぼれる。



だってこの曲は………



「………私、前にも優也にモーツァルトのピアノソナタ弾いてもらったことあったじゃない?」


「あぁ、うん。モーツァルト好きなの?」


「それもあるけど…………お父さんが、よく弾いてくれた曲、なんだ」







父親は、音大を卒業してから趣味としてピアノを弾いているような人だった。




特によく弾いていたのがモーツァルトのピアノソナタで、いつもそれを聴きながら眠っていた。




私が小学校に上がる前に事故で死んでしまったから、顔とかは正直あんまり覚えてない。




だけど、ピアノを弾く父親の背中は、今でも朧げながらも覚えている。




それを思い出したのだ。




「……そうだったんですか………」


「そんなしんみりしないで。私この曲すごい好きで……。だから、優也に弾いてほしいの。……それじゃあダメ、かな」




正直引くよね。死んだ父親の好きだった曲を弾いてほしい、なんて。




けど、どうしても優也に弾いてほしかった。




優也のあの温かい日だまりみたいな音色で、奏でてほしかった。






「……がんばります。ご希望にそえないかもしれないけど………」


「希望なんて!弾いてもらえるだけで十分なの」




そうして、少し笑ってみせた。




「そんな暗い顔しないで。そんな風にしたくて言ったんじゃないんだから」


「……うん」




そう言って、優也は静かに微笑んだ。




父親の大好きだった曲を、優也が弾いてくれる。




それはやっぱりすごく嬉しかった。

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