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moderato.  作者: 奏多
35/56

#35 オーナー

………目を覚ますと、カウンターだけが電気をつけた状態で、私の座っている以外の椅子は全部上げられていた。




いつかと同じように、また私の肩には優也のジャケットがかけられていた。




「わ、どーしょ、もうこんな時間………」



慌てて時計を見ると、もう3時を回っている。



急いで立ち上がりかけたそのとき、店の奥から誰かが出て来た。




優也……じゃない。




「え、あ、あの………」



出て来たのは、初老のおじいさん。



どこか気品のある、優しそうなおじいさんだった。




「すみません!閉店時間過ぎてるのに……」




急いで御会計をしようと財布を取り出すと、おじいさんは笑って言った。




「いやいや、これは優也からのささやかな祝いということで……のぅ」


「でも……」


「よいから。今あやつはまだ準備しとるんじゃが、ちゃんと送ってもらうんじゃよ」




と言って、悪戯そうな目で笑った。



「誰じゃ、みたいな顔をしておるのぅ」


「す、すみませんっ」



思ったことがすぐに顔に出るのは、早く直したほうがいいだろう。




「わしが、この店のオーナーじゃ。ま、所有しておるだけで、全部あれに任せっきりじゃ」



オーナーさん………。



「あれとはちょいと知り合いでな。あれの家のことは聞いたかね?」


「い、いえ、あまり……」


「そうか。まぁとにかく、あれは家と折り合いがうまくいっとらんのじゃ。高校でこっちに来てからは、この店で働いてもらっておる」




……あんなに優しい優也が、家の人とうまくいってないの?




あんな広いマンションで、高校生からずっと一人なの?




優也の今までの行動からは信じがたかった。




「これはわしからのお願いじゃ。…あれと、仲良くしてやってくれんか」



そう言って、オーナーは頭を下げた。



「や、やめてください」


「わしは、あれが不憫でならんのじゃ。……いつもはあんなに笑っておるが、内心ものすごく寂しいんじゃ。……お願いします………」




涙目で私に頭を下げるオーナーをみて、私も少しもらい泣きしてしまった。


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