#35 オーナー
………目を覚ますと、カウンターだけが電気をつけた状態で、私の座っている以外の椅子は全部上げられていた。
いつかと同じように、また私の肩には優也のジャケットがかけられていた。
「わ、どーしょ、もうこんな時間………」
慌てて時計を見ると、もう3時を回っている。
急いで立ち上がりかけたそのとき、店の奥から誰かが出て来た。
優也……じゃない。
「え、あ、あの………」
出て来たのは、初老のおじいさん。
どこか気品のある、優しそうなおじいさんだった。
「すみません!閉店時間過ぎてるのに……」
急いで御会計をしようと財布を取り出すと、おじいさんは笑って言った。
「いやいや、これは優也からのささやかな祝いということで……のぅ」
「でも……」
「よいから。今あやつはまだ準備しとるんじゃが、ちゃんと送ってもらうんじゃよ」
と言って、悪戯そうな目で笑った。
「誰じゃ、みたいな顔をしておるのぅ」
「す、すみませんっ」
思ったことがすぐに顔に出るのは、早く直したほうがいいだろう。
「わしが、この店のオーナーじゃ。ま、所有しておるだけで、全部あれに任せっきりじゃ」
オーナーさん………。
「あれとはちょいと知り合いでな。あれの家のことは聞いたかね?」
「い、いえ、あまり……」
「そうか。まぁとにかく、あれは家と折り合いがうまくいっとらんのじゃ。高校でこっちに来てからは、この店で働いてもらっておる」
……あんなに優しい優也が、家の人とうまくいってないの?
あんな広いマンションで、高校生からずっと一人なの?
優也の今までの行動からは信じがたかった。
「これはわしからのお願いじゃ。…あれと、仲良くしてやってくれんか」
そう言って、オーナーは頭を下げた。
「や、やめてください」
「わしは、あれが不憫でならんのじゃ。……いつもはあんなに笑っておるが、内心ものすごく寂しいんじゃ。……お願いします………」
涙目で私に頭を下げるオーナーをみて、私も少しもらい泣きしてしまった。




