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moderato.  作者: 奏多
30/56

#30 物思い

†優也side†



香帆さんを部屋まで送りとどけたとき、香帆さんが部屋に案内してくれそうな雰囲気になった。




「お茶くらい出すよ?」



落ち着き始めていた俺の心拍数はまたしても上昇。



一人暮らししている気になる女の人の部屋にあげてもらうなんて………




よからぬ妄想が、俺の脳内ワールドを占拠する。




仕方ない、若いんだから(笑)




しかし、あいにく来週にはピアノ科の実技試験がせまっている。



何度かレッスンに行けてなかった日もあったから、試験にすべてがかかっていた。




そんな文字が頭の片隅で点滅しだした。




「………実は今すっげー帰りたくないです」



これは俺の精一杯の抵抗。



だけど香帆さんは大人だから、そんな俺の小さなあがきになんか気にもとめなかった。




仕方なく彼女に別れを告げ、マンションを出る。



帰り際に管理人のおじいさんが手を振ってきたので振り返し、とぼとぼと足取り重く車に向かう。




近所のおばさんの、車に対する羨望と驚嘆の視線をかわし、乗り込んでエンジンをかける。




車内に残った香帆さんの残り香に、しばし想いを馳せることにした。




今度、また何かチケットとって誘ってみよう。




香帆さん、喜ぶかな。




俺、なんでこんなに彼女のことばっか考えてるんだろう。



ふと思い立つのは、彼女の笑顔や彼女の声。




香帆さん。




どうやら俺の頭は、あなたのことでいっぱいみたいだ。

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