#3 知らない声
『もしもし!あ〜助かった』
電話の向こうから聞こえてきたのは、こっちが驚くほど元気な声だった。
声の調子から、たぶん学生の男。もしくは新卒。
「……あの………」
『あっ、すみません!拾っていただいてホントにありがとうございます!』
「はぁ…」
『俺、そのケータイの持ち主なんですけど、それどこに落ちてました?』
何でこんなにハキハキ喋るんだろう。こんな喋り方する人、うちの会社にはいない。
あの派遣のコらも彼を見習って、少しでもあのベタベタした口調をどうにかしてほしいものだ。
「……噴水広場です」
『あーやっぱり。すみません、すぐに取りにいければいいんですが、まだ仕事中で……』
「あ、届けましょうか?」
口が勝手に答えていた。わけのわからない私とは正反対に、口は次々に言葉を紡ぎ出す。
「私、今時間あるんで。よかったらお勤め先、教えていただけますか?」
今暇だから、じゃなくて今時間あるから、と答えるようになったのは、社会人になってから。
私は暇なんじゃなくて、今たまたま時間があるだけなのよ、と誇示しているみたいに。
そんな言葉が無意識に出るようになったとは、私もだいぶ社会に染まりつつあるようだ。
『え、いいんですか?だったらとても助かるんですが……』
「はい。どちらですか?」
『あ〜………それじゃあ、まず広場を出て次の信号を…………』
家までの道を通り過ぎ、見知らぬ電話から聞こえてくる聞いたことない声を頼りながら、夜の道を歩き出した。




