#29 管理人
「じゃ、また」
車でマンションの前まで送ってもらい、管理人のところまでついてきてもらった。
私が事情を話すと、
「おやおや、それはすまなかったねぇ。起こしてくれりゃよかったんじゃけど…」
「いえ、そんな深夜になんてご迷惑ですから…」
「はて、それではあなたが、黒沢さんのコレかい?」
そう言って、管理人のおじいさんは親指を立てた。
「え、いや、ちがいますっ!てか、それもう古いですょ……」
「だってお世話になったんじゃろ?わたしが若い頃はのぅ………」
「ちょっとあんた!若い子がいるからって、そんなこと話すんじゃないよっ!」
おじいさんの背後から、おばあさんが顔をだして釘を刺す。
「…おーこわ…。あれでも昔は可愛いげがあったんじゃが………」
悲しそうに呟くおじいさんに、私と優也は同時に吹き出した。
「じゃ、また」
鍵を開けてもらい中に入ると、優也が言った。
「え、お茶くらい出すよ?」
「うん、実は今すっげー帰りたくないです。でも試験前なんで、今日は練習しないといけないから……」
と、残念そうに言った。
あんまりはっきりと
今帰りたくない
なんて言うから、こっちが焦る。
「そ、そっか……それじゃあしょうがないね」
「…………」
「……じ、じゃっ、またね」
「え、うん……」
「ありがとね」
「あ、はい。またいつでも……。なるべくキレイにしときます(笑)」
もう一度、じゃ、と言うと、階段に向かって廊下を歩いていった。
カツーン、という足音が、まだ冷たい廊下に響き渡る。
ときどき寒そうに背中を丸めながら、歩いていく。
その後ろ姿に、少なからず愛しさを感じてしまった…………。




