#16 BMW
小走りでバーに向かう。
いつも深夜に歩く道を昼間に歩くと、全く違う雰囲気だ。
明るい日中に見る《moderato.》は、いつもの隠れ家的な雰囲気はなくて、なんとなくこじんまりとしたものだった。
「香帆さん!」
聞き慣れた声のほうを向いた。
「………BMW!?な、んでそんな………」
颯爽と現れ、車から降りた優也の後ろには、THE高級車・白いBMWが停まっていた。
大学生のくせに、妙に馴染んでいる優也もおかしいが……。
「ん、ちょっと見栄はってみた(笑)」
いや、笑い事じゃないだろう……
「そんな酸欠金魚みたいな顔しないで。意外に安いから」
見え見えな気遣いが、さらに自分の平凡さを引き立たせる。
「………」
「はい、とりあえず乗ってください」
さりげなく助手席のほうまで歩き、すっとドアを開ける。
絶対フツーの音大生じゃない。
確信した。
恐る恐る助手席に座ると、優也は外からドアを閉めて運転席に座った。
思わずまじまじと顔を見てしまう。
「………そんな見ないで、照れる…」
前を見ながら顔を赤くする。
「今日、なんか雰囲気違いますね」
「わ、若すぎたかなっ…こんな格好、普段しないから緊張してて……」
慌てて弁解。
舌を噛む勢いで、まくし立てる。
「全然そんなことないです。………すっごいかわいい、です」
「へ、あ、…………ありがと…」
生まれて初めてのBMWの中で、生まれて初めて息が止まりそうなほど緊張する沈黙を経験した。
「ここです。先に中までお連れしますね」
「う、うん……」
乗ったときと同じようにドアを開けてもらい、そっと降り立ったその先は…………
「…………ホテル…?」
やたら規則正しくかつ現代風に整備された庭と、ホテルかと見間違うような立派なエントランス。
優雅なクラシックが流れ、落ち着いた照明で、一度は住んでみたいマンションランキングというものがあるなら、間違いなく一位独占の代物だ。
「………」
「ごめん、車停めてくるんで、ここで待っててください」
「はっ、はい!」
私の驚きを分かっているのかいないのか、微笑んでから走っていった。
「…………はぁ〜……」
もしかして、すごい人…?最近の音大生って、こんなものなのか??




