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moderato.  作者: 奏多
16/56

#16 BMW

小走りでバーに向かう。



いつも深夜に歩く道を昼間に歩くと、全く違う雰囲気だ。




明るい日中に見る《moderato.》は、いつもの隠れ家的な雰囲気はなくて、なんとなくこじんまりとしたものだった。




「香帆さん!」



聞き慣れた声のほうを向いた。






「………BMW!?な、んでそんな………」



颯爽と現れ、車から降りた優也の後ろには、THE高級車・白いBMWが停まっていた。




大学生のくせに、妙に馴染んでいる優也もおかしいが……。




「ん、ちょっと見栄はってみた(笑)」



いや、笑い事じゃないだろう……



「そんな酸欠金魚みたいな顔しないで。意外に安いから」



見え見えな気遣いが、さらに自分の平凡さを引き立たせる。




「………」


「はい、とりあえず乗ってください」



さりげなく助手席のほうまで歩き、すっとドアを開ける。



絶対フツーの音大生じゃない。



確信した。







恐る恐る助手席に座ると、優也は外からドアを閉めて運転席に座った。



思わずまじまじと顔を見てしまう。




「………そんな見ないで、照れる…」



前を見ながら顔を赤くする。



「今日、なんか雰囲気違いますね」


「わ、若すぎたかなっ…こんな格好、普段しないから緊張してて……」



慌てて弁解。



舌を噛む勢いで、まくし立てる。



「全然そんなことないです。………すっごいかわいい、です」


「へ、あ、…………ありがと…」



生まれて初めてのBMWの中で、生まれて初めて息が止まりそうなほど緊張する沈黙を経験した。






「ここです。先に中までお連れしますね」


「う、うん……」




乗ったときと同じようにドアを開けてもらい、そっと降り立ったその先は…………




「…………ホテル…?」




やたら規則正しくかつ現代風に整備された庭と、ホテルかと見間違うような立派なエントランス。



優雅なクラシックが流れ、落ち着いた照明で、一度は住んでみたいマンションランキングというものがあるなら、間違いなく一位独占の代物だ。




「………」


「ごめん、車停めてくるんで、ここで待っててください」


「はっ、はい!」



私の驚きを分かっているのかいないのか、微笑んでから走っていった。




「…………はぁ〜……」




もしかして、すごい人…?最近の音大生って、こんなものなのか??

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