#15 カットソー
《今日の午後に行ってもいい?》
《了解です!じゃあバーの前まで来てもらえますか?迎えにいきます。楽譜は心配しないでくださいね♪じゃあまた!》
……結局行くことにした。
自分から言い出した手前、断るのもおかしいし、かといってメールを自ら率先してするのも、長年やってきた『できる女』な振る舞いを壊すようで恐ろしく、結局迷いながら次の朝を迎えた。
ベッドから手をのばして充電器からケータイを奪って開くと、新着メールが来ていた。
《朝早くにすみません。今日来ますか?来られるんだったら急いで部屋片付けるんで!》
相変わらず機転の回る奴だ。
私のこの妙なプライドを思って送ってくれているといったら、買いかぶりすぎだろうか。
返信をしてから朝食をとり、服を選びにクローゼットに向かう。
優也が一人暮らしか実家通いか分からないので、一応少し若く見えて上品なデザインのものを選ぶ。
黒いニットにロングスカート……これじゃあ参観日か。
茶色いワンピース………若すぎだよね。
ころころと鏡の前で服を合わせる私を、別の私が苦笑してみている。
『年下の大学生のために、こんなに悩んでいるなんて』
べつに下心なんてない。ただピアノを弾いてもらうだけなんだし!!
……自分で自分に言い訳。
若すぎず大人びすぎず、て、そんな服………ッ!
と、気付けば約束の時間の1時間前。
普段から仕事の資料ばかりじゃなくて、雑誌も読んでおくべきだった。
「……こ…………これ!」
奥深くから引っ張りだしてきたのは、オフホワイトのファーつきカットソー。
リボンが胸元にあって、全体がぼわぼわしている。
去年、あまりに派遣のコらの仕事出来なさにキレて、むしゃくしゃしながら衝動買いした一品。
「………かわいすぎかなぁ…」
鏡に合わせてみると、意外に幼くない。
普段なら絶対に着ないだろうジャンル。
でも…………
カットソーの開いた首元からは鎖骨が綺麗に見えてて、おとなしめのスカートと合わせると、意外にも……
「…………いいかも」
髪はめずらしくハーフアップにし、ゆるく巻いてメイクにとりかかる。
上品に見えるように整え、足元はこれまた衝動買いの冬物パンプス。
アイボリーの外出用ロングコートを羽織り、ラメ入りマフラーをゆるく巻いて、玄関の全身鏡に映す。
「……変…?」
こんな格好、会社の人には見せられないなぁ。
年甲斐もなく、年下のためにこんなに着飾るなんて…………
鍵をしめ、肌寒い日差しの下を、ゆっくりと歩き出した。




