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moderato.  作者: 奏多
15/56

#15 カットソー

《今日の午後に行ってもいい?》



《了解です!じゃあバーの前まで来てもらえますか?迎えにいきます。楽譜は心配しないでくださいね♪じゃあまた!》




……結局行くことにした。



自分から言い出した手前、断るのもおかしいし、かといってメールを自ら率先してするのも、長年やってきた『できる女』な振る舞いを壊すようで恐ろしく、結局迷いながら次の朝を迎えた。




ベッドから手をのばして充電器からケータイを奪って開くと、新着メールが来ていた。




《朝早くにすみません。今日来ますか?来られるんだったら急いで部屋片付けるんで!》




相変わらず機転の回る奴だ。



私のこの妙なプライドを思って送ってくれているといったら、買いかぶりすぎだろうか。






返信をしてから朝食をとり、服を選びにクローゼットに向かう。




優也が一人暮らしか実家通いか分からないので、一応少し若く見えて上品なデザインのものを選ぶ。




黒いニットにロングスカート……これじゃあ参観日か。



茶色いワンピース………若すぎだよね。



ころころと鏡の前で服を合わせる私を、別の私が苦笑してみている。



『年下の大学生のために、こんなに悩んでいるなんて』



べつに下心なんてない。ただピアノを弾いてもらうだけなんだし!!




……自分で自分に言い訳。




若すぎず大人びすぎず、て、そんな服………ッ!




と、気付けば約束の時間の1時間前。




普段から仕事の資料ばかりじゃなくて、雑誌も読んでおくべきだった。






「……こ…………これ!」




奥深くから引っ張りだしてきたのは、オフホワイトのファーつきカットソー。



リボンが胸元にあって、全体がぼわぼわしている。




去年、あまりに派遣のコらの仕事出来なさにキレて、むしゃくしゃしながら衝動買いした一品。




「………かわいすぎかなぁ…」



鏡に合わせてみると、意外に幼くない。




普段なら絶対に着ないだろうジャンル。




でも…………




カットソーの開いた首元からは鎖骨が綺麗に見えてて、おとなしめのスカートと合わせると、意外にも……



「…………いいかも」




髪はめずらしくハーフアップにし、ゆるく巻いてメイクにとりかかる。




上品に見えるように整え、足元はこれまた衝動買いの冬物パンプス。




アイボリーの外出用ロングコートを羽織り、ラメ入りマフラーをゆるく巻いて、玄関の全身鏡に映す。




「……変…?」




こんな格好、会社の人には見せられないなぁ。




年甲斐もなく、年下のためにこんなに着飾るなんて…………




鍵をしめ、肌寒い日差しの下を、ゆっくりと歩き出した。

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