表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
moderato.  作者: 奏多
11/56

#11 夜道

それからというもの、私は会社が終わったら週4日くらいの頻度でバーに通い、彼に愚痴を聞いてもらったりしていた。




前に会った大学の友達は来ないのか、と聞くと、



「実はバイトしてること、あいつらに言ってなくて」



と、悪戯っぽい笑顔で言った。




バイトなら他にいくらでもあるだろうに、あえて忙しい夜の仕事を選んだのは何故か。




ずっと気になってきたが、まだ聞けないままだった。




友達にも黙ったまま、音大生なのに練習時間を削って働く理由は何なのか。




彼の口調から、それが半端な理由ではないことくらい、すぐわかる。




私はあえてバイトの話はあまりせず、ひたすらたわいもない話で笑っていた。







「香帆さん、今度の土日って空いてます?」




いつものように閉店まで話し込み、一緒に店を出るとき、ふいに聞かれた。




「空いてる………どうして?」


「あ、前話した学祭があるんです。チケットあるんですけど、音大の学祭って誰誘ったらいいか、わかんなくて」




また出た。




あの少年みたいな、幼い笑顔。




「………行く。ピアノ弾くんでしょ?」


「マジっすか?!やった、じゃあこれ、チケット。2枚渡しておきますね!」




そう言って、私に白い楽譜柄のチケットを差し出した。




「誰か行きたい人がいたら、どうぞ。使わなくても結構ですから。ただ、誰かいたほうか退屈しないかなぁ〜と…」


「ん、じゃあ誰か誘うかも」




夜道を歩き出す。




それからお互い、黙ったまま歩いていた。




沈黙に耐え切れず話しかけようとしたが、自分から話し出す話題がないのに気付き、あきらめて歩き続けた。




彼と別れる駅間近になって、ずっと無言だった彼が、突然口を開いた。




「…………でも」


「え?」


「………彼氏は、呼ばないでくださいね」


「へっ?」


「じゃっ!」




私の聞き返しを遮るように短く言葉を切ると、駅の雑踏に紛れていった。




遠くに走り去る彼は、耳まで真っ赤になっていた。




私はほんのりほてった顔を冷たい手で包み、自分に言い聞かせた。




「年下の、しかも学生にときめいてどうする」




しかし、いつまでたっても顔は、赤いままだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ