#1 日常
「5時なんで〜お先に失礼します!」
「お疲れ様でっす!」
………またか。
派遣社員の、集団キッチリ帰宅。もとい、合コン。
終業時刻キッチリに帰って、商社マンだか医者だかと、バカバカしい話をしながら自分を可愛く装って笑う。
派遣社員が帰ったあとに残されるのは、彼女たちが残した大量の仕事の山。
「黒沢さんもどうですか?もう仕事終わってるじゃないですか〜」
呆れて物が言えない。どの面下げて言ってんだっつの。
「………いい。男に困ってないから」
「え〜そうですか?じゃ、お疲れ様です〜!」
早く消えてくれ。
ケバい化粧に振り掛けすぎの香水が鼻につく。
ドアの外から、彼女たちの話している声がする。
「黒沢さん、なに強がってんだろーね」
「仕事終わってんなら見栄張らないで来ればいいのに〜」
「ま、あんな堅物が来ても盛り下がるだけだしね」
「香織、なんであいつ誘ったの?」
「礼儀よ礼儀。誘われなかったらショックかな〜って」
「香織優し〜!」
大きなお世話だっつの。
私が早く終わらせるのは、あいつらが残した仕事を片付けるためだ。
よく飄々としていられるものだ。
「……帰っちゃったか。………黒沢くん……」
「もう始めてます」
揚げ句の果てに、完全に課長は私を頼っているし、どうしようもない。
私が会社を出るときには、決まって12時を回っている。
無能な派遣社員ばかり雇う今の会社に、少なからず反感を持っていた。
世間ではエリートと言われる部類。そこに、私は当然含まれていた。
慶応義塾大学在学中からロスに留学し、学生の間もエリートの勝ち組になるために、サークルもバイトもせずに必死で勉強した。
一流と言われているこの外資系の会社に入れた時、
「勝った」と思った。
仕事自体にはそれなりに満足している。英語も活かせるし、私には合ってると思う。
ただ…………何かが違う。
そう思い始めて、何年が過ぎただろう。
気付けば下には後輩がいて、いつのまにかやめれなくなっていた。
「お疲れ様です」
消灯した社内に残っている社員に声をかけ、トレンチコートを身に纏い、外に出る。
冷たい風が、コートの隙間から私の体を容赦なく冷やす。
コートをきつく巻き付け、足早に地下鉄への道を急ぐ。
今夜は雪が降るそうだ。




