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moderato.  作者: 奏多
1/56

#1 日常

「5時なんで〜お先に失礼します!」


「お疲れ様でっす!」



………またか。



派遣社員の、集団キッチリ帰宅。もとい、合コン。


終業時刻キッチリに帰って、商社マンだか医者だかと、バカバカしい話をしながら自分を可愛く装って笑う。



派遣社員が帰ったあとに残されるのは、彼女たちが残した大量の仕事の山。



「黒沢さんもどうですか?もう仕事終わってるじゃないですか〜」



呆れて物が言えない。どの面下げて言ってんだっつの。



「………いい。男に困ってないから」


「え〜そうですか?じゃ、お疲れ様です〜!」



早く消えてくれ。



ケバい化粧に振り掛けすぎの香水が鼻につく。



ドアの外から、彼女たちの話している声がする。



「黒沢さん、なに強がってんだろーね」


「仕事終わってんなら見栄張らないで来ればいいのに〜」


「ま、あんな堅物が来ても盛り下がるだけだしね」


「香織、なんであいつ誘ったの?」


「礼儀よ礼儀。誘われなかったらショックかな〜って」


「香織優し〜!」



大きなお世話だっつの。



私が早く終わらせるのは、あいつらが残した仕事を片付けるためだ。


よく飄々としていられるものだ。




「……帰っちゃったか。………黒沢くん……」


「もう始めてます」



揚げ句の果てに、完全に課長は私を頼っているし、どうしようもない。


私が会社を出るときには、決まって12時を回っている。

無能な派遣社員ばかり雇う今の会社に、少なからず反感を持っていた。




世間ではエリートと言われる部類。そこに、私は当然含まれていた。

慶応義塾大学在学中からロスに留学し、学生の間もエリートの勝ち組になるために、サークルもバイトもせずに必死で勉強した。

一流と言われているこの外資系の会社に入れた時、

「勝った」と思った。



仕事自体にはそれなりに満足している。英語も活かせるし、私には合ってると思う。



ただ…………何かが違う。


そう思い始めて、何年が過ぎただろう。


気付けば下には後輩がいて、いつのまにかやめれなくなっていた。






「お疲れ様です」



消灯した社内に残っている社員に声をかけ、トレンチコートを身に纏い、外に出る。



冷たい風が、コートの隙間から私の体を容赦なく冷やす。

コートをきつく巻き付け、足早に地下鉄への道を急ぐ。



今夜は雪が降るそうだ。

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