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第9話

「待ってたぞ、アーサー」

「だろうな……。一応説明してくれ」

「あぁ」

 リンを避難という名目でこの部屋から隣の部屋へ移動させたルシファーは、リンがここ――魔王城にいる経緯を、リンに聞かされた事を、アーサーに説明し始めた。




 リン・ペリオディックに言い寄る男は過去に沢山いた。許嫁(いいなずけ)がいないリンは、パーティーのたびに多くの男性から婚約を迫られていた。それはもう幅広い年齢の男性方から。

 リンも自分の容姿がかなりいい部類に入ることを分かっていた。さらに、自分が公爵家の娘であることも相まって、寄ってくる男が途切れないことを、嫌々ながら理解させられていた。

 数多くの美男子、資産家。様々な男性紳士が求婚してくるが、リンはその全てを断り続けた。寄って集って来る男たちは誰もがペリオディック家の地位、そしてリンの容姿――表面的な姿にくらむ者たちばかり。誰も自分を理解しようとしてくれなかった。

 そんな時に出会ったのがルシファーということだ。最初は容姿から出る独特な雰囲気に引かれていったという。フォルミで食事を共にした時も、自分の話を聞いてくれて理解してくれていた。自分を気持ち悪い笑みで見ることもなく、只々優しく接してくれた事が嬉しかった。

 その時、リンは生まれて初めて本当の恋をした。

 それから1ヶ月後。ペリオディック家主催のパーティーで、リンはルシファーと再会することが出来た。パーティー中はルシファーと常に行動するリンだったが、パーティーの中盤、ルシファーとの別れは唐突にやって来た。

 ルシファーが去ってリンに残ったのは、ルシファーが魔王だという事実。そして、自身の胸の奥を締め付ける、決して解放されることのない想い。

 リンはルシファーが魔王だという事実を誰に告げることもなく、自室にこもって泣き続けた。

 心から想える初めての相手が、よりによって魔王だったとは。

 部屋にこもっている数日の間、飲食をせずとも衰えない体力に気付くことなく、只々泣き続けた。

 恋は盲目。恋が常識や理性を失わせてしまうのはこういう状況を言うのだろう。リン・ペリオディックは何の前置きもなく、忽然(こつぜん)と部屋から姿を消した。

 リンは屋敷から脱走すると、お腹が減らない、喉が渇かない、そして誰の目にも留まらないのをいいことに、休むことなく魔王城目指して歩き続けた。

 リンが魔大陸に着いたのは脱走から約半年。人間大陸から海を渡る時に着ていた服はビリビリに裂け、日に焼けた素肌が眩しく見える。髪はボサボサとなり、目の下には隈を作っている。体も以前より細くなり、心身ともにボロボロだった。

 ただルシファーを想う気持ちだけは枯れることがなく、その想いをエネルギーにして、リンは魔大陸の浜辺まで辿り着いた。

 だが、魔王の加護を持つリンでも既に限界の時を迎えていた。

 ここまで来たからには何としてでもルシファーの元へ向かいたいが、無い体力では振り絞ろうにも振り絞れない。

 柄にもなく、「ここまで……か……」と自嘲気味に思ったリンの頬に、一筋の涙が流れる。

 最後にひと目だけでいいから見たかったのは、家族でもなくルシファーただ一人。

 自分の意識が遠のくのを感じながら、誰かが砂浜を歩くザリッという音が聞こえる。視線を僅かに動かすと――――




「そこにいたのは白馬の王子様じゃなくて、黒衣を(まと)った魔王様である(おる)ぇ~」

「……はいはい脚色どぉ~も。美談過ぎて目も開けてらんねえよ」

「まぁたしかに後半は色付けが多分にあったなぁ……8割程……」

「10割ではないんだなっ」

 説明し終えたルシファーは、座っていたソファにごろりと仰向けになる。椅子に深く腰掛けていたアーサーは、腰を前に出して椅子の背もたれに寄り掛かる。アーサーは既に鎧を全て脱ぎ去っている。

「端的にいうと、ランタンで倒れてたリンを、たまたま散歩に来ていたお前が見つけて城まで連れ帰った、ということだな」

「そゆことぉ」

「んでさっきのラブシーンか……」

 アーサーがこの部屋に入った時、リンはアーサーの腰に抱きつき、アーサーはリンの肩をとってソファに座っていた。2人のバックにはハートの嵐が吹き荒れていそうな程で、誰しもが胸焼けを起こしそうなシーンだった。

「それでどうすんだ? 貰うのか?」

「ま、覚悟は決めてるさぁ」

 アーサーとルシファーは不老不死だ。そのため2人は、自分の妻となる女性を持ったことが殆ど無い。持ったことがあっても片手の指で簡単に数えられるくらいだ。何しろ老いることがなく、死ぬことがない2人が結婚でもすると、妻が先立つのを何度も見送らなければならない。本当に人を愛すと、その別れが辛い。だから2人はどれだけ求婚されようとも、妻を(めと)る気がなかった。

 ただこの数千年の内、数度は熱烈な求愛を受けて結婚したこともあった。そのたびに2人は辛い別れがあろうとも、覚悟を決めるのだ。妻を一生愛し続け、別れの時まで共にいる覚悟を。因みに2人のどちらかが結婚した場合、殺し合いは一時休戦となる。2人が勝手に決めていることだが……。

「ルシファー様……」

 あまりにも静かで長い時間1人でいたからか、リンが隣の部屋から顔を出してきた。

「ん? おいで」

「はい……え……?」

 しかし、ルシファーの前にはもう1人の男が座っていた。その男――アーサーは鎧を来ていない。リンは半年前に出会ったもう1人の美男子をしっかり覚えていた。

「アーサー……様……?」

「やっ」

 アーサーは右手を上げて軽く挨拶をする。そして、何故こんなところにいるのか、何故魔王であるルシファーと仲良く平和に会話をしているのかを明かした。

「そ、そうだったんですか。ルシファー様たちの仲がそんな昔からあったなんて……(羨ましい……)」

「ま、俺たちは不老不死だから、たとえ互いを殺しあっていても、いずれこうなることは明白だったんだけどな」

「そうかぁ? 俺はそんな事全然考えてなかったけどなぁ」

「はぁ……」

「ふふ」

 3人は静かに紅茶を飲んでいた。魔王城の中ではアーサーの仲間がルシファーを探しているというのに、なんとも言えない、ゆっくりとした空気が流れていた。

「アーサー様。もし出来ましたら、ルシファー様の昔について教えて下さいませんか?」

「え?」

「おう、いいぞ。こいつは昔から馬鹿だしお調子もんだったぜ」

「……おい、よせ」

 ルシファーの静止も聞かずに、アーサーは語り始める。しかし、その話をぶった切ってアーサーは爆弾発言をした。

「まぁそんな事はいくらでも時間があるから置いといて――」

「そんな事ではありませんわ」

「まぁまぁ。……俺、セリンと結婚した」

「……はぁ!?」

「まあ♡」


読んで下さり、ありがとうございました。

10話目は12時投稿予定です。

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