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第8話

 この半年の間、リン・ペリオディックの大捜索は続けられてきた。しかし彼女を見つけるどころか、たった1つの目撃情報すら見つけることが出来なかった。リン・ペリオディックは依然として行方不明のままだった。

 完全に無視を決め込んだわけではないが、アーサーはリンの捜索に関して一切手を出さなかった。それにはちゃんとした理由があった。

 ルシファーがリンに、魔王城の場所を脳内に知識として与えてしまった時、『魔王の加護』がリンにかけられているはずだからだ。

 魔王の加護には、加護を持つものに対して敵対心を向ける者や害する者に幻覚を見せる魔術が存在する。幻覚を見せることで敵の認識外に逃れ、戦わずして勝利もしくは逃走をすることが出来る。更に、自身の身に何かしらの危険が迫っている場合、『その先は危険だ』という直感が感じられる。また、身体の疲れや飢えも通常の100分の1程度まで抑えてくれる。

 そのため、アーサーはリンの身をさほど心配していなかった。何しろ魔王によってかけられた加護だ。道中で死ぬことは、絶対にあり得ないと言っていい程だ。

(もし何らかの原因で死んだとしても、闇の神殿で蘇るだけだしな~)

 アーサーはのんびりとそんな事を考える。

 リンの脳内に鳴り響く警鐘――直感を無視して、その先にあるかもしれない崖から落ちる可能性は否めないが、それはあり得ないだろうとアーサーは考える。それこそ己の直感ではあるが。

 アーサーと仲間たちは魔王城の前まで来ていた。魔王城の位置と姿は前回までと違うが、アーサーはルシファーから引っ越すことを聞いていたため、迷うことはなかった。

 迷うことはなかったものの、ここまでに遭遇してきた魔物の強さは、ジャングルにいた魔物より遥かに強かった。それでもアーサーが苦労することなど有り得ないが、仲間たちはそうもいかない。全員生き残っているものの、体力の消費が激しい。標高が高過ぎるような山ではないが、足元が悪い高地での激しい戦闘は、彼らの体に大きな負担となっていた。

 アーサーは、今回もルシファーを倒すのは難しいかもしれない、と思う。仲間が魔人たちに速攻殺られてしまうと、魔王+魔人複数を自分1人で相手しなくてはいけなくなる。その状況でルシファーを討つのは流石にアーサーでも難しい。

「……今夜は近くで天幕を張る。焦る必要はないが、高地に少しでも身体を慣れさせろ」

 高地で激しい動きをする辛さを、アーサーは理解している。自分は何ともないからと仲間たちを無理に動かすことは絶対にしなかった。

 次の日の朝。魔王城の前で一晩だけ何事も無く過ごした勇者一行は、ついに魔王城の門をたたいた。



***



 今回の魔王城は高さがないため、階段を登ることで疲れるということはない。しかし、勇者たちを精神的に疲れさせたいのか、城内は迷路のように複雑な作りをしていた。

 行き止まりだと思って来た道を振り返ると壁が存在する。そして勇者たちを誘うかのように、1つだけ扉が取り付けられていた。逃げる場所もないため慎重にその扉を開けた先は魔王城の外。しかも、その結果を嘲笑うかのような声が、城外へ出されるたびに聞こえてくるのだ。他にも、よくある落とし穴、飛び出す槍と飛んでくる矢。

 これらにはアーサー含め、勇者たちは激しい怒りを覚えた。より魔王討伐に気合の入った勇者たちは、魔王が待ち構えていると思われる、大部屋の扉の前に来ていた。

「さて、お前ら。今日ル……魔王にされたことを思い出せ。怒りを思い出せ! ……今日こそ、魔王を殺す」

「うおおおおおお!!」

 気合と絆がより高まった勇者たちは、怒りに燃えながら鈍重な扉を5人で押し広げる。

 相変わらずだだっ広い魔王の間は、外と比べてかなり薄暗かった。蝋燭は灯っておらず、目を凝らしても王座までは見えない。

「いない……のか……?」

 誰が呟いたのか。『使わない部屋は消灯する』かのように真っ暗なその部屋は、わずかに漏らした囁きを拾って反響させる。

 誰も居ないのかと思い始めたその時、カッと一筋の明かりが王座を照らす。アーサー以外は「魔王か!?」と身構えるが、椅子には誰も座っていなかった。

 しばらくの沈黙の後、アーサーの仲間たちはまた魔王に(もてあそ)ばれていた事に気付く。

 怒りの火を再燃させた仲間たちはアーサーに詰め寄る。

「勇者様! これは完全にからかわれています! 死を持って報復すべきです!」

「そうだそうだ! 必ず見つけ出して八つ裂きにしてやる!」

「行くぞお前ら!」

 仲間たちは更に士気を高めて部屋を出て行く。

「あ~……気を付けてな……」

 彼らにアーサーの声は届かない。あっという間に遠くへ行ってしまったからだ。だが彼らにも勇者の加護があるため、アーサーはさほど彼らの身を心配していない。最悪死んだとしても光の神殿で蘇るだけだ。

「……さて、ルシファーは……あそこか?」

 アーサーは王座の後ろ側に回る。椅子の背中側に手を当て、魔力を流すとポッカリと穴が開く。ルシファーが趣味で作った、奥の部屋へと続く隠し扉だ。

 アーサーはその穴の中へ入り、10段程の階段を降りる。階段を回り込む形で身体の向きを180度変えて歩き始める。その通路の空気は重く湿っていた。アーサーは不快な気分を味わいながらゆっくりと歩を進める。

 王座の背に隠された隠し扉は魔力供給が停止したことで、ゴゴゴと音をたてながら勝手に閉じる。ほんの数十mだけの通路は、光一つ通さない真の暗闇と化した。しかしそんな暗闇はアーサーにとって、露程も気にならない状況だ。魔力を放出し、魔力壁から跳ね返ってくるタイミングや形で、通路の形状は理解出来ている。更に、魔力を瞳に集中することで、可視光外の波長を見ることも出来る。

 アーサーは苦労することなく、通路を出る階段にたどり着く。1段1段しっかりと踏みしめながら登っていき、頭上にある扉の取っ手を掴む。

 押し上げる形式の重い扉を開けると、眩しい光と暖かい空気がアーサーを包む。その眩しさに目を細め、その暖かさに身体を弛緩させる。

 アーサーは、にゅっとでもひょこっとでも聞こえてきそうな勢いで、通路から顔を出す。

 まずアーサーの視界に入ったのは大きなタンス。この出入口は部屋の隅に作られているようで、目の前にタンスの側面が見えていた。

 出入口から全身を出したアーサーは、息のしづらい兜の中で十分に呼吸を繰り返し、後ろを振り返った。

 振り向いたその視線の先には、アーサーが予想していた通りの光景。

 ルシファーと、リン・ペリオディックがいた。


読んで下さり、ありがとうございました。

9話目は明日の0時投稿予定です。

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