第5話
飽食の都市セレンの中でもトップ5に入る、指折りの高級料理店――フォルミ。平民貴族誰でも利用できる高級料理店ではあるものの、とてもではないが平民の利用出来る良心的な値段設定ではない。
店は5階建て。入るのが躊躇われる程の高級感溢れる入り口。黒を基調とした入り口の枠組みは、金の装飾が施されている。その上には大きく『フォルミ』の文字が書かれた看板が見える。店内は仄かに明るく、人が心地よく安心して食事が出来るよう幻想的な雰囲気で満たされていた。
そんな料理店の1階にある大部屋――宴会場を2人で貸しきっている男たちがいた。いくつもの長机が組み合わせられて出来た1つの巨大な長机の上には、尋常でない数の品々が並べられている。
しかしその品々は次々と消えていく。
「ほらほらぁ、じゃんじゃん持ってこ~い」
「白金貨が1ま~い……白金貨が2ま~い……うぅ~、しくしく」
運び込まれた料理は並べられると同時に、ルシファーの胃袋へと消えていく。
既に料理の支払合計金額は白金貨を超えていた。しかもまだ支払額は増え続け、スロットの数字が回転するようにどんどん増えていく。
ルシファーが食事をするスピードは、光速で消えていく料理をちゃんと味わえているのか心配になる勢い――いや、そもそも本当に食べているのか分からない勢いだ。
そして最もかわいそうなのが、金を払う役目を負っているアーサーだろう。アーサー自身も大食いであるはずだが、実際に食べている量は大皿1皿分。料理はとても美味しく、もっと食べたい気持ちがあるのか、ちらちらとうず高く盛られた料理を見ている。しかし少しでも出費を抑えるためか、1口も手を付けていなかった。
勢いの衰えることを知らないルシファーに辟易し、アーサーはルシファーにストップをかけようと試みる。
「ルシファー……そろそろ、お暇しねえか? ここの食料が尽きちまうぞ?」
「何ふざけたことを吐かしやがる。食料が尽きるなどありえん。そして食うことは止めん。甘えたことを言うな」
「そうでした。甘えたこと言ってすんませ~ん……(最悪だぁーっ)」
「分かればいいんだぁ、分かればぁ。おーい、この皿にあったやつまた持ってきてくれぇ!」
ルシファーは会計係がアーサーということで、遠慮無く料理の追加を頼む。
かれこれ食事を開始してから約1時間。突如店の入口方向が騒がしくなる。アーサーはすることがないため、興味本位で騒ぎの原因を確かめるため入り口へと向かった。
アーサーが入り口で見たのは貴族だった。それも公爵家という、王族の血が流れる人たち。
何故アーサーがその人たちを知っているかというと、自分が住んでいるマスビス国セウム都市の公爵家だからだ。アーサー自身は甲冑姿ではあったが、パーティーなどで何度も会話をしたことがある相手。しかし今は甲冑など着ていない。アーサーの正体が彼らにバレることはなかった。
その公爵家は9人家族。男3人女6人の家族構成。
アーサーはその公爵家の女性陣の性格は熟知していた。彼女らは男に目がない。羨ましいことだが、アーサー自身も自分の容姿が世界でもトップクラスであることは分かっている。もしこの場で彼女らに見つかれば、この店を出ること……いや、この場を動くことさえ叶わないだろう。そうすればルシファーの食事量は更に増え、アーサーの借金が更に積み上がっていくのが目に見て取れる。
危機感を感じたアーサーはさっさと部屋に戻り、会計を済ますことにした。
「ルシファー。クリプトン公の連中が何故か食事に来てる。厄介なことになる前にずらかろうぜ」
「……そ、それは厄介だ。アーサーの言う通りさっさと出るかぁ」
ルシファーは一瞬食事の手を止め、冷や汗を垂らす。そして料理をかっこむ勢いを更に上げ、テーブルに並べられていた計500人前の料理を平らげた。
「白金貨10枚で……は、足りねえよな~……」
出費の額はもう諦めていたアーサー。前回の借金白金貨500枚の記録を更新しそうな勢いである。
「ごっつぁ~ん」と給仕の人たちに声をかけてルシファーは大部屋を後にする。このままフォルミを出て次の料理店へと向かうつもりのルシファーだったが、そう簡単に事は運ばなかった。
「スズお姉さま! 見て見て! やっぱりいたわ! イケメンがいたわ! 私の鼻に間違いはなかったわ!」
「あら~、ほんとですわね。流石はイリィです。先ほど聞こえた美声はやはり殿方でしたのね」
「ちょっとそこをどきなさい! 妹たちが無礼を働き、誠に申し訳ありません。お詫びとして私、セリンが殿方の妻となって差し上げます故、どうぞ妹たちの所業をお許し下さい」
「セリン姉上……。それはどうかと思うのですが。失礼しました。私、マスビス国のクリプトン公の娘、次女のリンと申します。こちらが我が屋敷の住所になります。1ヶ月後にパーティーを催す予定でございます。ぜひお越しください」
「もう、お姉さまたちは揃いも揃って男誑しですわ! 殿方様。是非、この私ルビィとお食事をしてくださいませんか? 私たち、これから夕食を取ろうと思っていたところなのです」
2人から半径50cm以内に群がる5人娘に、アーサーとルシファーは諦めの境地に立っていた。美女の好意を無下に出来ない2人は天井を仰ぐ。全力を出せばこの窮地を脱っすることは簡単だったが、本気を出せば死人が出る。そもそも紳士として淑女の頼みなど無視出来ない。結婚については、端から無理だが……。
2人は美女5人に連れられ、公爵家の夕食に同伴することとなった。
「ルシファー。……めんどくなったな」
「黙っとけ。取り敢えず飯食うぞ」
「はぁ~……。マイペースだよな、お前」
読んで下さり、ありがとうございました。
6話目は12時投稿予定です。




