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第2話

連続で2話目投稿です。

 ここはマスビス国セウム都市。人間たちが住む大陸で最も大きく、1番栄えている国の中心都市だ。

 セウムの中心には王族の住む家――どこからでも見える程の大きな王宮が建っている。

 そして、王宮から少し外れた場所に、それはそびえ立つ。

 ――光の神殿。

 セウム最大の観光名所であり、いつからか勇者の家にもなっている。

 時は夕暮れ。国中はオレンジ色に染まっていた。日はあと1,2時間もすれば、完全に地平線の彼方へと顔を隠すだろう。

 1日の仕事を終え、自宅へと向かう多くの人々で大通りはごった返していた。大通りに並ぶ飲食店からは、1日の疲れを払拭(ぶっしょく)するような喧騒(けんそう)が聞こえる。道端には帰宅途中の客を捕まえるべく、露店を出している者もいた。道には肉を焼く音と煙、そして匂いが広がる。それらは労働者たちの胃袋をしっかりと捕まえていた。

 数多い露店の内の1つ。道行く人たちの視線は、その露天前の椅子に座って1人酒をしている男に注がれていた。その後ろ姿を見ただけでも、男の容姿がいい――イケメンであることを思い浮かばせる。背は高く、がっちりした体躯に引き締まった筋肉。腕を曲げていることで出来た自然な力こぶが、綺麗な肌を持ち上げて柔らかそうに盛り上がっている。サラサラとした髪は、通りを流れる(わず)かな風で揺らいでいた。男の腰には一振(ひとふ)りの剣が下げられている。一見そこらで売っている普通の剣だが、目利きの人が見れば、金貨を山ほど積んでやっと買える一級品であることが分かるだろう。

 通りを行く人たちの視線を集めるその男は、ふと視線を左へと向ける。その視線は確実に、都市内へ入るための城門の方向へ向いていた。

 しばらくすると、1人酒をしている男の見ていた方角が不意に騒がしくなる。

 女性の悲鳴。そして男性の怒声。

 女性の助けを求める叫び声が止まない。露店に居座っていた男は店主に酒代を払い、騒ぎの方へと駆ける。

 男が騒ぎの場へ向かうと、その容姿に野次馬たちの塊がモーセの海割りの(ごと)く割れていく。難なく現場の最前列へ辿り着いた男が目にしたものは、酒に酔った男が女に変態行為を及ぼうとしているのか、ダンスをしているのか微妙な状況だった。

 男は近くの男に「助けないのか?」と聞くが、どうやら酔った男は傭兵として腕の立つ、そこそこ有名な人物であることが分かる。

 それを聞いた男は溜息を付きながら、襲われている女性を助けにはいろうとする。

 すると、男のちょうど反対側から人垣を飛び越えて現場に入る者がいた。その者は足首までありそうなコートを着て、フードを深く被っていた。

 野次馬全員の視線、絡まれている女性と絡んでいる男性の視線を集めるその者は、コートの裾をはためかせながら地面に軽やかに着地する。その瞬間、コートの者はその場から視界の外へと消える。野次馬たちが彼の姿を見失った事に気付いた時には、女性に絡んでいた傭兵は、既に地面へ仰向けの状態で叩きつけられていた。

「……お怪我はありませんか? お嬢さん」

 その声は一瞬で全ての女性を(とろ)けさせた。

 美声。

 その一言では言い表せない程の美しさ。濁りが一切ない、透き通った美しさ。高くもなく低すぎもしない。そんな男の声。

 野次馬の男たちは突如やってきた男の、目にも留まらぬ早技に意識を奪われ、女たちはその男の美声に聞き惚れていると、傭兵がのそりと立ち上がる。顔は酒以外の理由――怒りによって赤くなっていた。握りしめる拳はギリギリと音をたて、力を込めているのが分かる。

 コートの男は助けた女性の顔を見ていて、傭兵に対して背を向けている。

 傭兵はコートの男に向かって拳を振り上げた。

「きゃあ!」

 誰かが殴られる光景を予期して悲鳴を上げる。

 野次馬に集まった99.9%の人が殴られると思ったことだろう。

 しかし、傭兵の振るった拳はコートを着た男に届く前に止まっていた。

「傭兵さ~ん。女性は繊細でロマンチストなんだから、もっと優しく相手したほうがいいんだ――ぜっ!」

 拳を止めてみせた男は、陽気な声を上げる。先程まで露店で1人酒をしていた男だ。

 彼は傭兵の拳を左手で苦もなく受け止めていた。そして傭兵に女性についてのアドバイスをすると同時に、腹へと重い右拳を突き入れた。

 傭兵は言葉を発することなく地へと崩れ落ちる。

 数秒の沈黙の後、辺りからは歓声が沸き上がった。

 その歓声を耳にしながら傭兵をワンパンで沈めた男は、コートを着た男に近付いた。

「……やっときたか。先に寂しく何杯も酒飲んじまったじゃねえか」

「距離を考えろよ距離を。何万キロあると思ってんだぁ」

 コートを着た男はフードを外す。その顔は魔王城の王座に座っていた男そっくり。……いや、魔王本人だ。相対する男も、魔王城で魔王と対峙(たいじ)していた男――勇者だ。

「さて、これから1ヶ月はお前の奢りだからな、アーサー」

「はぁ。また白金貨が消える。少しは遠慮してくれよな、ルシファー」

 2人は勇者アーサーと、魔王ルシファー。

 誰にも言えない秘密。それは、2人が親友であること。長きに渡り戦い続けた2人は、いつしか宿敵から友、そして親友へとなっていた。

 1310勝対1314勝。不老不死同士の今回の殺し合いは魔王が勝利を勝ち取り、連勝記録を5と伸ばしていた。

「さぁ今夜は姉ちゃんたちと朝まで飲むぜェ――ッ!」

「初日から勘弁してくれよぉ……」

 2人の姿は、待ち行く人たちの中へと消えていった。


読んで下さり、ありがとうございました。

次話もよろしくお願いします。

3話目は明日の0時投稿予定です。

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