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零話 全て始まりの黒い鬼

始めて投稿いたします、くろしろウサギと申します。イラストなんぞを描いていましたが、どうもそれでは描ききれないものが出てきましたので投稿に至ったわけです。小まめに書こうと思いますので、よろしくお願いいたします。できれば挿絵も描きたいですねえ。

「ドラゴンズヘブンに世界を滅ぼす魔王が現れる」・・・・そういったウワサがここ「ヘブンズゲート」に広まりだしてから少したつ。預言者が言ったのか都市伝説か、はたまた住人どうしの世間話からか。

「ヘブンズゲートの者は早急に「ステアーズ」を目指し「神」に会わねばならない。そして、魔王を倒すのだ。それが「ヘブンズゲート」に選ばれた者たちの義務であり務めである」と。そしてそのウワサが本当である事を示すように、ここ最近「黒い鬼」が出没するようになった。「黒い鬼」はその名の通り大きな黒い体躯と角を持ち、戦闘力もかなりのモノである、と聞いていた。あくまでウワサに過ぎぬ、軍にもその「黒い鬼」に関する報告などされたことがない、だからシーズアクア隊長も副隊長のゼノンも「新兵の訓練にちょうど良い」と思ったのだ。とはいってもシーズアクア、ゼノンの高位者の他、魔法弓を持つライナレイン、ネイルローズ・・・この二人なら20人分の働きをする・・以下新兵とはいえ30名、合計34名いたので簡単な訓練としていたわけではない。現地では先に新人20名、100mほど遅れてシーズアクア、ゼノンなど14名が行軍を行っていた。天気は薄曇だが、この場所は見渡す限りの平原である。側から見ればピクニック気分になりそうな感じでもあった、が、決して油断をしていたわけではない。わけではないのだが・・・「戦争は数である」これは定石のはずだが、ときに「一人の非常識が全てを凌駕する」ことがある。

鬼は突然に現れた。

先方を行く20名の目の前である。鬼は背を向けていた、そして鬼は舞を舞った。

鬼が背を向けていたからか、20人は全て鬼に向かっていった。しかし誰も気がつかなかったのか、シーズアクアは気づいた、ゼノンも気づいた、ライナレインもネイルローズも気づいた。その鬼の背中を、鬼の気を。

しかしその20人は誰も気づけなかった。

そして、鬼は舞った「鬼の舞」を。

「参る!!」ゼノンが猛然と走り出す!赤い鎧と兜をまとったゼノンも一個の鬼のようだ。鬼との距離は約100m。魔法力のある具足をつけたゼノンなら10秒弱で到達できる。

が、それでも遅い。

「前衛の者は早く撤退しろ!」シーズアクアが叫ぶ。

「斬ッ!」

鬼の舞は一瞬で5人の命を断ち切った。

赤い色が飛ぶ!切れる音が鳴る!砕かれる音が響く!

鬼が握るは黒い巨大な野太刀。あまりの無駄のない動きに舞を舞っているように見える、時が止まる。そう、その一瞬はシーズアクアには酷く永いものに感じた。頭、腕、身体、シーズアクアには部下が斬られていくひとつひとつがハッキリと見えていた。

「矢を撃て!ゼノンにはかまうな!」

シーズアクアの叫びには、もはや、ゼノンの事は心配している余裕はない、焦りさえ感じられるものだった。

ライナレインとネイルロ-ズもそれを感じたようだ、二人は矢に力を籠める。矢が緑色の光を放ちだす、二人が放つ矢は準光速だ、100mの距離なら放った瞬間に的に突き刺さる。本来なら何秒間か力を溜めて矢を撃つのだが、今はそんなことを言っていられない。残った15人を逃がさねばならない、15秒ほど時間を稼げればよい。とはいっても光の矢が当たれば鬼もただではすまないはずだ。ネイルローズ、ライナレインとわずかに感覚をあけて撃つ。1本目を跳ね返されてもすぐに2本目が鬼に刺さるはずだ。

「ハアッ!」「ハイッ!」「ギンッ!!」

矢を撃った瞬間に鬼に到達する、しかし鬼は2本とも矢をはじいた。音はひとつ。

「ハアッ!!」「ハイッ!!」

間髪いれずに入れずに第二弾を放つ。が、今度は鬼をそれをジャンプしてよけた。

そして、ライナレインとネイルローズの矢を見て足を止めた、15人の・・「光の矢なら鬼を撃ってくれる」「援護射撃があれば勝てる」と思った・・・・

15人の真ん中に落ちてきた。

「何をしてるっ!早く逃げろ!!」

「斬!斬!斬!!

鬼は舞を舞った。

シーズアクアの叫びは本当に遅かった、それを聞けたものは何人いたのか、理解できたものは何人いたのか。ゼノンは手の届きそうな場所で全力を出して走りながら、しかし、何もできず15人が斬られていくのを見ているしかなかった。

3秒間に合わなかった。たった3秒。しかし、もう取り返せない。ゼノンはようやっと鬼に追いついた。

「フーッ、ハーッ、フーッ、ハーッ」

荒い息を吐きながらゼノンは周りを見た、15人は全て死んでいた。

「なんということだ」

ゼノンは腹が立った。周りを見ながら自分に腹が立った。そして・・・鬼を睨みつけた。

鬼はゆっくりとゼノンの方に向き直る。

黒く巨大な体躯、鎧は着ているようには見えない。

そして、手に持っているのは黒い野太刀、刀身の波状紋がギラリと光る。「折れず曲がらずよく斬れる」というやつだ。折れず曲がらなければ斬れて当たり前だろうと思うだろうが、実際には硬い金属では切れない、剃刀の刃は柔らかい金属が使われる。つまり刀の芯に硬い金属を使い刃の部分にはやわらかい金属を使う。硬い部分と柔らかい部分の差が波状紋となって現れる。口で言うのは簡単だが、なかなかコレを造れる者は居らず、ゼノンも欲しいと思っていたにも関わらず結局、手に入れることはできなかった。

今、ゼノンの持つ剣、属に「両手剣」「バスターソード」と言われる剣、模様などが彫られていて見てくれは好いが剣としての切れ味は良くない。刀身の重量と自身の力で相手を叩き斬る、いやほとんど叩きつぶすと言った方が正しい。シーズアクアは細身の剣を使用しているが、あれは鎧の隙間を突くように、そして高速で突けるようにできている。ゼノンの剣よりは斬れるだろうが、無理な力を懸けると折れてしまう。

そこまで考えてゼノンは息を一つ吐いた。

「ハーッ」

落ち着け、頭に血が昇っていてはロクな剣はふれない。落ち着くんだ。

「ハーッ」

頭を2,3度振る。ようやく目が見えてきたように思う。

改めて鬼を見た。身体は2mはあるか、ゼノンよりも頭ひとつぐらい大きい。大きいながらも引き締まった体躯、盛り上がった筋肉、野太刀を持つ両手、それらを支える太い足。

鬼が刀を振るう時、舞を舞っているように見えたのは、刀の反りを生かす剣術だからだ。一切の手加減をしないのは、相手に対する礼儀だからだ・・・・だいぶ、見えてきた。

「・・・・・すまないが・・・・防具をはずしたい。少し待ってくれないか」

自然に言葉がでた。

防具・・・兜や鎧は総重量で数十キロにもなる。戦闘レベルが上がっていくと筋力や魔法力などでこれらを軽減したり動きをカバーしていく。その為上級者ほど堅固な鎧が装備できるわけで、仮にたいした能力もない初心者が上級者の鎧を着用すれば、身動き一つ出来ないし転べば起き上がれなくなる、下手をすると鎧自体に押しつぶされてしまう。この鬼に対しては防具に回している全ての要素を攻撃に使いたい、使わなければ確実に負けるだろうし使わないのは礼儀に反する。そう感じたのだった。

鬼はしゃべらなかったが刀身は下げたままだった。それを許諾とゼノンは受け取った。

「・・・・ありがたい、感謝する・・・・・」

防具を外しにかかると、シーズアクアから通信が入る。

さすがに空気が読める。前でもなく後でもなく、このタイミングなのだ。

「ゼノンそっちは大丈夫か?」

シーズアクアの声が直接頭に響く。

「大丈夫・・・かどうかはわかりませんが、今のところ問題はないです」

「私もすぐに、そっちに行く。ライナレインとネイルローズに後の事は指示してある」

「すみませんが、今相手に時間をもらっています、この男とは一対一でやりたい」

「しかし・・・・」

シーズアクアは言いよどむ。今までもこんなことは何度かあった、が今回は何か違和感があった。

「隊長、あなたには部隊を連れ帰る義務と責任があります。そして俺には殿を務める義務と権利があります」

「・・・・・そうか、わかった。部隊を帰したらすぐに戻ってくる」

「戻らなくてもいいですよ、子供じゃないんだから一人で帰れます。そうだあそこで落ち合いましょう、飲みながら報告しますよ」

「わかった、待ってるぞ」

「気をつけて帰ってください」

最後はわざとそんな言い方をした、が、気がついた。ああ、ああいう約束は守られた事はそんなにないんだったな。さて、と防具は靴以外は全部はずれたな、では始めるか。ゼノンは鬼と再度向き合った。

「待たせたな」


通信はゼノンが一方的に切った。シーズアクアは数秒ほど固まったようだが、違和感を振り払うように2、3度かぶりを振った。後ろ手に縛った長い黒髪が揺れる。

「あのー隊長?」

ライナレインが心配そうにシーズアクアに話しかける。

「ああ、大丈夫だ。・・・・これからすぐにここを撤収する。ゼノンは敵の足止めの為、ここに残る」

「援護はしなくていいの?」ネイルローズが聞く、そう、走れば100mほどの距離なのだ。

「今はいらない。とにかく今は新兵を無事帰すのが最優先だ。心配するな、ゼノンは必ず帰る。今までもそうだっただろう?」

まるで自分に言い聞かせるように話す、ライナレインとネイルローズに質問されないように。

「さあ、迅速に撤収を開始しろ、ほとんど戦闘をしていないとはいえ、半分やられたんだ、ショックも大きい。パニックに気をつけろ、二人ともサポートをよろしく頼む」

コレも自分に話すようだ、だが、そのことはシーズアクア自身は気づいていない。

ライナレインとネイルローズはそれ以上は何も聞かなかった、シーズアクアの目と表情が質問を許さなかった。

シーズアクアは一瞬だけ後ろを見た。わずか100m向こうではゼノンと鬼が対峙している。

が、その100mは遠かった・・・・・果てしなく。


ゼノンは正眼の構えをとる、鬼も同じく正眼の構えとなる。

「ほう」思わず感嘆の声がもれる。鬼の刀は巨大にも関わらず切っ先しかゼノンには見えていない、やがて鬼自身も切っ先に隠れて見えなくなった。

「なるほど、これでは新兵では勝てない」

切っ先しか見えないように構えを取るのはある程度基本ではあるが、刀身に身体を隠せてしまうというのは並の腕ではできない。鬼の「気」が「威圧感」がそうさせているのだ。新兵なら鬼の姿を見ることが出来ないまま刀と闘う錯覚を起こし、成す術もなく斬られるだろう。戦争は数と言ったが1はどんなに掛けても1の倍数だ、20倍にしても20だ。鬼は数字にしたら1万だろうか10万だろうか、これでは何人いても新兵には対応できない。・・・しかし新兵達は鬼に向かって行ったな、鬼の力を見極められなかったか。知らないというのは恐ろしい。まあ、俺もこんな達人級の化け物に新人を立ち向かわせたのだ・・・・そうだな、知らないというのは本当に恐ろしい。

「スーッ、ハー」「スーッ、ハー」

聞こえるのは自分の呼吸音だけ、見えるのは鬼の切っ先だけ。

「スーッ・・・!」

ゼノンは一気に踏み込む。と同時に鬼も踏み込んできた。

「ギンッ!!」

ものすごい衝撃がゼノンの剣に響く!そしてゼノンはその衝撃を、剣をわずかにずらし横に受け流すようにしていなす。いなさなければ身体ごとふっ飛ばさせる。そしてそのまま鬼の身体を斬る!いや、斬ろうとした、普通ならば、並みの相手ならばこれで終わりのはずだった。

「剣がっ!!」

先ほどの一撃で折れていた、鬼の一撃を完全に流せなかったのだ、これでは鬼に剣が届かない。そしてその一瞬の躊躇のあと、

「ブンッ」

風がなった。

ゼノンはとっさにに身を低くする。今、頭のあった辺りを鬼の刀が薙ぐ。一瞬のうちに戻ってきたのだ、そのスピードも尋常ではない。ゼノンが避けられたのはそれまでの積み重ねでしかなかった。

「ハアッ!!」

そのまま身体を伸ばすようにして下から剣を振り上げる!今度は距離はわかっている、折れた剣でも斬れる!

「ザン!」

手ごたえはあった!勝った!

思った瞬間、身体が伸びきった瞬間。

「ドンッ!!」

腹に衝撃が走った。

「もう一回戻ってきたのか・・・・!」

鬼はゼノンに斬られた後そのままの勢いでもう一度刀を振った。それは身体の伸びきったゼノンの身体を見事に斬った。

ゼノンが倒れるのと鬼が倒れるのは、ほぼ同時だった。

ゼノンは倒れながら、それを見ていた。鬼もこちらを見ていた・・・・目が合った。

なぜか満足した。

負けるのは悔しいが分けたのなら仕方がない、鬼もそれだけの腕を持っていたのだ。

・・・・まあ、いいだろう・・・・斬られた腹は麻痺しているのか痛みは感じない、口の中は鉄の味がした。

この時点で助からないのは解った、覚悟はできていた。

ふと、ゼノンは先程のシーズアクアとの会話を思い出していた、やはりああいう約束はだめか。

「すまないな、シズカ。まあ、許せ」

シズカというのはシーズアクアの愛称だ、シーズアクアでは長いので親しい者はシズカと呼ぶ。

そういえば、あの時のシズカの声は泣いていたかな・・・・隊長は泣き虫だからな、あんな話し方をするのもそれを隠すためなのだが・・・ああ、そうか、最後に泣いてくれる女がいたってのは、俺の最後もまんざら悪いものじゃなかったんだな・・・

ゼノンの意識はそこまでだった。


「2人ともなかなかスゴかったわね。でも助けてあげられそうにないの、ごめんなさいね。・・・・あ、でも別の意味で生き残るのかな?」

ゼノンの横に黒い影が立つ、長い黒髪がフワリとゆれる、目が赤い。

「さてと、偶然見つけちゃったけど、どうしようかしら。まあ、このままじゃもったいないのは解っているんだけど・・・・」

2人を見ながら言う。鬼にしてもゼノンにしても身体は大きい。それらの遺体を前にしても物怖じしてはいないようだ。なにやらブツブツと呟いていたが、やがて黒い影も消え「何」も無くなり、2時間ほど前とそう変わらぬ平原の風景になった。


「こんな時くらい酔いつぶれるよ、だからシズカは可愛くないって言われるんだ」

「悪かったな、外で飲む時は自然とセーブするんだ。なにがあるかわかったもんじゃないからな」

酒場の喧騒と雑然とした雰囲気のなかで、私は同僚のディバインノイズと飲んでいた。

「ほら、その言い方もそうだ。もっと女らしく言ってもいいだろ。もちっと女らしくなれば見てくれはいいんだから、もてるのに」

「ごめんなさい、外で酔いつぶれるとディーノ君になにされるか、モノスゴーク不安だからセーブしているの」

「うわ、やっぱムカつくわ。いいや、シズカは男みたいな話し方でいい。俺が許す」

「なんだそれは、せっかく可愛く話してやっているのに」

「ラナレイにでも話し方を教われ。・・・・ったく、最後なんだからみんなで送ってやろうと思ってたのに、そういうところも可愛くないんだよな」

「すまないな。だが、こういう退役の仕方だから、送られないほうが気が楽だ」

あれから一ヶ月程たった。結局ゼノンはもどって来ず、私も責任をとるという理由で軍を辞めるとになった。

ディーノ・・・・ディバインノイズはゼノンと共に旧知の間柄だ。「最後なんだから一杯付き合え」と言われたのでこの赤毛の剣士と飲んでいたところだ。

「だいたいわたしは筋肉男は好きじゃないんだ、それなのに周りは筋肉だらけだ、おまえだってゼノンだってそうだ。そうじゃないのがいても頭でっかちで理屈ばかり言う」

「ああ、みんな勘違いしてるんだよな、だいたいおまえが強すぎるのが悪いんだ。男は自分より強い女なんぞ、そうそう口説かんぞ」

「私は弱いぞ、なぜか泣き虫と言われるし・・・それに今も鬼と一戦も交えずに傷心して退役しようとしている」

「なんだ、気づいてないのか・・・シズカは態度とか声にすぐ出るぞ、わかりやすい。まあ、指揮官には向いていないな」

「・・・う、そうなのか?なぜ早く言ってくれないんだ」

「なんだ、ゼノンは言わなかったのか、あいつ遊んでいたな・・・で、そんな「泣き虫」で「か弱い」お姫さまを口説こうとして、男共は一生懸命キタエ、勉強して、自信がついた頃には筋肉ムキムキになって、頭デッカチになってお姫様の好みじゃなくなっていると。よし、わかった、お前はもういっそのこと女と結婚しろ。ラナレイなんかいいだろ。軍においておくなんてもったいない、なんであの娘は軍なんかにいるんだ?」

「たしかによくわからないな、もっといい就職先があるだろうに・・・・・じゃあ、おまえが口説くといい。お墨付きでローズと二人でおまえの所に入ったからな」

説明が遅れたが、ラナレイ・・・ライナレイン。ローズ・・・ネイルローズのことだ。

「あの二人が来てくれたのはありがたい、これで遠距離支援がかなり楽になった、ほんと感謝する。他の連中にもいい刺激になるしな・・・・だがなあ、ラナレイはだめだ。大人しくていい娘なんだが、アレは黙って怒るタイプだな。アレの旦那になる男は大変だぞ、いつもニコニコしていて浮気とかに直ぐに気づく、なにせ索敵能力が半端ないからな。んでもって一瞬でズドンだ」

「ディーノ、浮気することが前提なのか。まあ、お前じゃだめだろうな・・・自分じゃ駄目なものを推薦するな」

「シズカなら浮気しないだろ。・・・・ああ、でも、相手が女だと男と浮気するか」

「だから、なぜ浮気することが前提なんだ・・・・ん?ところでさっきわたしに「酔いつぶれろ」とか言っていたが、なんだ、わたしを襲うつもりなのか」

「ないな。おれは浮気してもニッコリ笑って許してくれる、女神様みたいなのが好みだ。お前じゃ逆立ちしたって無理だろ。シズカが酔いつぶれたら面白いから記念写真でも撮って「シーズアクア様の勇姿」とか言ってみんなに配ってやろうと思ってたんだが、好感度あがるぞ。おおそうだ、好感度上げるんなら鎧も水着みたいなのにすればいいんじゃないか?どうせ結界みたいなのを張っているんだろ」

「・・・・そうだな、おまえは女神様と結婚しろ、がんばってサガせ、それで女神様に煩悩を全部浄化してもらえ・・・・・というより、手っ取り早く出家するなり去勢してもらえ」

「あーそうか、そうだな女神様だと欲望から解放されてるかもしれないな、そうすっと旦那の方も強制的に解放されちまうかもしれん。それは困るな」

「ラナレイとローズを預けたのは失敗だったかな」

「そんなことはないぞ、おかげでうちの部隊の女子力は上がったんだからな・・・・ああ、そうだ、シズカおまえ除隊して暇になったんだからラナレイに花嫁修業つーか、料理習ったらどうだ?出張サービスするぞ」

「公私混同も甚だしいが・・・・だが、まあ、あれだ、その点については、あの二人はもうがんばったんだ」

「うん?」怪訝そうにディーノが聞き返す。

「がんばってくれたが、だめだったんだ」

「・・・・・マジか?鍋料理くらいはできるだろう」

「ダシを入れて、具を入れるだけなら戦場でもできるな・・・・それに、台所に鍋一つというのはどうかと思うが・・」

「ああ、やっぱりシズカ、おまえはラナレイを嫁にもらえ、おまえが稼いでくれば問題ない」・・・・結局こうなるか。

「そうは言っても今は無職なんだが」

「まあな・・・で、これからどうするんだ?ステアーズでも上るのか?」

「いや、今のわたしでは無理だ、あそこは技量よりも精神の方が試されると聞く・・・今のわたしではな」

「可愛くなっちゃって・・・・とは言っても、ステアーズの中はどんな風なのかはさっぱりだしな。行ったやつはいるが、帰ってきたやつはいない・・・・よっぽどいいところなのか、少なくとも厭きたから戻ってきたってやつはいないな」

「まあな」・・そう、みんなが憧れるステアーズの中は本当は誰も知らない。知らないから憧れるのか。

「そういえば、ディーノは「天使の羽」は使ったことはあるのか?あれを使うとステアーズでも大丈夫とか何とか言うが」

「天使の羽」というのは兜につける装備品で、なんでも精神力を何倍にもしてくれるというのだが。

「だからソレをつけてステアーズに登った結果報告がない、だれもレポートを提出した奴なんざいないさ。それにアレはどうもヤバイ」

「ほう」

「一度使ったことがあるんだが、アレを使うと軽い興奮状態になる、それで、巧く言えないんだが・・・なんていうか自分がなんでもできる気分になって、天から掲示でも聞いた気分になる、あ、それから光とか神みたいなのが見える」

「・・・・酔っ払った・・・とか」

「ちょっとちがうな、たしかに酔っ払ってんじゃないかと思うんだが、なんつーか、もっとすごいことを感じた気分になる。なんか自分が賢者というか神に選ばれた勇者になった気分だ、世の中の真理が見えた気になる。世の中のゴチャゴチャしたことが、ものすごく簡単なことなんだって思えるんだ・・・・・自分で言っていてなんだが、確かに酔っ払いの妄想なんだよな」

「脳内麻薬でも出すみたいだな」

「うん、だからアレはうちの部隊じゃ禁止している。正しく天に昇っちまう」

「そうか、しかし自分で試すとはな、ディーノらしいというか」

「ちょっと興味があったんでな。それで、少したったら軍に復帰するのか?多少ブランクがあっても俺の部隊なら大歓迎だぞ」

「それはありがたいが、本当に決めてないんだ、少し休みたい・・・・・今回のことは・・・少しこたえた、な・・・・」

「そうかあ、ま、少し休め、鬼やら魔王やらはなんとかするさ、気にするな。だが、まあ、なんにせよ、飲み仲間が減るのは寂しいな」

「友達いないのか」

「おまえといっしょにするな、だが、ゼノンとシズカと二人ともいなくなるとは、な」

「・・・・すまないな」


「じゃあ、またなシズカ。また飲もう」

「ああ、またなディーノ、そこらで寝るなよ」

「おまえこそな、まあシズカを襲う奴はいないだろうが」

「はいはい、さっさと帰れ」

「おう、じゃあな」

ディーノと別れ少し酔い覚ましに街を歩く、まだ繁華街は明かりがつきにぎやかだ。少し高台の「ヘブンズゲート」の街が見える場所に出る。街の光を見ながら少し考える・・・・・これからどうしようか・・・・

あれから、しばらくはディーノとクダラナイ話をして飲んでいた。ゼノンの話もしたがどうでもいい話しかしなかった。まあ、それでいい。暗い話はゼノンもいやがるだろうから。

あの後・・・・新兵をヘブンズゲートに無事届けた後、私はディーノ達と共に半日後には再び「あの場所」にいた。そこで20名の部下とゼノンの鎧、2つに折れた剣を回収したが、ゼノンと鬼は結局見つからなかった。ゼノンの血痕、ゼノン以外の血痕。つまりは鬼のものと思われる血痕は見つかった。が、身体はどこにもなかった。動物が持っていった可能性も考えられたが、引きずった痕跡が無いことや現場の状況から、それはないだろうと思われた。では「ゼノンと鬼はどうなったか」という事はほとんどわからなかった。ただ、ゼノンの気配も鬼の気配も近辺には感じられなかった。そして不明なことが多かったものの、ゼノンの生存の可能性はほぼ無いだろうと思われた。残念だが客観的に見て仕方のないことだった。それから数日間は事後処理に明け暮れた。そのことが気の紛れになっていたのだろう。私もゼノンの死は書類上は認知していても感覚的には認めたくなかったのだろう。酒場には毎日行った、来ないとわかっていてもどこか期待していたのだろう。そしてゼノンと部下の夢はよく見た。夢の中ではゼノンも部下たちも普通の日常を送っていた。ただ、私だけは「ゼノンも部下も死んでいる」ということを知っていた。知ってはいても部下ともゼノンとも普通に会話をして剣の修行をした。

「お前たちは死んでいるんだ、もうここにはいないんだ」

夢の中で部下とゼノンに何度も言いそうになる、だが、言ってしまうと部下もゼノンも消えてしまう、それを認めたくない、だから言えなかった。

夢から覚め鏡を見る度に思った「ひどい顔をしているな」と。

こんな状態ではステアーズに登るどころか、軍にいるわけにもいかなかった。

・・・ステアーズ・・・・

ヘブンズゲートに集まる者の最終目的であり、私もかつてはいつかは登ることになるだろうと思っていた場所。

それはヘブンズゲートの上空8000mに浮かぶ白色に光る、直径300mほどの球で、球の赤道上には一階建ての宮殿のような建物が並ぶ。ステアーズに行くにはヘブンズゲートから軌道エレベータに乗って向かう。それはヘブンズゲートからドラゴンズヘブンへ移動する時に使うものと同じだ。ステアーズの中に入るには、周りの宮殿から中に入る以外にどこにも門は無く、入るのはこの門としても出口はこの門ではない。少なくとも軍には、この門から誰か帰ってきたという記録は残っていない。ステアーズの周りにある宮殿内には管理人の宿直室ぐらいしかなく、あとはただの廊下が続いていると言われている。宮殿自体はステアーズの内部とは直接関係はなく、宮殿には出入り口があり、管理人は元より出入りは自由だと言う。宮殿に入ったはいいが「やっぱりステアーズには入れなかった」という輩もいるだろう、ステアーズに入れなかったといってもペナルティがあるわけではない。が、最後の決断の場所というわけだ。私は宮殿に入ったことは一度もないが、やめて出てくる勇気も大変だろうと思う。宮殿には管理人や門番が常駐していて不遜な輩が入ってこれないようにはなっているが、別に入るのにテストがあるわけじゃない。

さて、いよいよステアーズの内部のことだが、先程ディバインノイズと話していたが、本当に内部のことはなにもわかっていない。記録が残っていないのだ。伝説というか口伝というか、単なるウワサではないだろうが確かな記録はない。

「ステアーズの中には神の世界へと通ずる道があり、それを走破できれば神に会うことができ神への段階、人を超えた者になれると言う。ステアーズ・・大きな階段・・の意味は神への階段の意味だ」

ただし昇るのか降りるのかわからない、いや階段なぞ無いのかもしれない。私も子供の頃に「ステアーズに昇り、神と会い英雄になった男」の冒険の話を読んだことがあった。が、軍に入り軍の資料や図書を捜しても上官に聞いても、その物語の元の話はおろか断片も見つからなかった。わかったのはステアーズには神がいるだろうという口伝のみだった。それでは、ヘブンズゲートの住人が目指している「ステアーズ」とは何なのか。そう、それは「わからない」ということなのだ。そしてそのことは、私たちや軍の連中には当たり前のことになっていた。上官も軍も「ステアーズの内部はわからない」ということに規制や口止めをしなかった。「自分で確かめろ」というわけだ。そこまで開き直られると逆に目指したくなる人間もいる。ディバインノイズや私が話していたことは「ステアーズには神がいるなんて信じられん」とバカにしていたわけではない。内部がわからないから、わからない。と話していたに過ぎない、昇りたい奴は昇るだろうということだ。私が精神論がどうとか話していたのも、神に対して力技というのはどうだろう、と言ったまでのことだ。裏づけがあるわけじゃない。ステアーズとはそういった場所だ。

そういえば私の両親もステアーズには昇っていない。両親は私が独り立ちするとドラゴンズヘブンに降りた。両親にそのことを聞くと「昇る昇らないは自由だ、昇らないから敗者。というわけじゃない」と言われた。当時は納得がいかない部分もあったが今はなんとなくわかる・・・・そうだな、そういうのもあったか。ドラゴンズヘブンに降りる。光る町並みを見ながら、考えた。今の私には上の「わからない」ステアーズよりは下の広大な大地の方が魅力的に見えた。

とりあえず零話みたいなモノです、まだ始まってもいません。この話だって説明がたりないような気がしますし。まあ、いいか。がんばって次書こうと思います。

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