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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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異世界転移した俺、王太子にマスコットとして愛でられる

作者: 江川オルカ
掲載日:2026/06/15

 三浦優は狭い視野の中でじっと外界を見ながら項垂れていた。

 さっきまで見えていた薄暗い役所のロビーとは正反対の、明るく煌びやかな室内が見える。およそ普通に過ごしていれば目にしない調度品の並ぶ棚、鼻腔をくすぐる甘い花のような香り。まるで映画でも見ているような景色に優はすぐに答えに辿り着いた。


(あぁ、これが噂の異世界転移か)


と。


 だが、この現状をどうするか。

 なんと優はバラの妖精『バラ子ちゃん』のゆるキャラの着ぐるみを着たままなのだ。

 脱げばいいじゃないか。おそらく普通なら脱ぐ。だが、スキルのせいで脱げないでいた。


スキル:マスコット

マスコットであり続ける限り、鉄壁、不老、清潔を付与


 数多のラノベにあったクソスキルの中で最もクソだと言っても過言ではない。


 ガチャッ


「っ!?」


 この部屋唯一のドアが開いた。

 優は重たいバラ子ちゃんの頭をふり、音の鳴る方へ視線を向けた。

 そこには、見るからに地位の高そうな貴族の男が一人立っていた。


(マジで終わった……)


 絶望が脳内を占めた、その時。

 入ってきた男が優を、いや、バラ子ちゃんをじっと見るや、ふわっと柔らかな笑みを浮かべたのだ。

 コツコツと高らかな足音が響き、バラ子ちゃんの顔を覗き込んできた。


(うっわ、すっげぇ綺麗な顔……)


 優は息を飲んだ。

 金色のふわっふわの髪、青色の瞳はまるで宝石のようで、その目を覆うように髪と同色の睫毛が揺れる。まるで絵本から抜け出した王子様みたい。

 ……黒い手袋を嵌めていること以外は。


(なんで?)


 そう問えるわけもなく、優は息を詰まらせたまま、じっと耐えた。


 男の青い目は、バラ子ちゃんの丸い目ではなく、口元を見て細められた。


「愛らしいな……」

「っ……う」


 優の背中にぞぞっと寒気が走った。

 今すぐにでもバラ子ちゃんの頭を脱ぎ、「着ぐるみだよ、ばぁか!」と言ってやりたい、と、優は自分のクソスキルを呪った。


「ここは私の私室だ。好きに暮らしていいぞ」


 低い声が淡々と語る。


(っ!? 追い、出されないの……?)


 優はバラ子ちゃんの顔を抑えるように手を添えた。

 その動きに男は困ったように眉尻を下げて首を傾げた。


「怯えなくてよい。私は国王の息子、ルノー・ド・ヴァルモン。君を害することはさせない」



―――――



 男・ルノーが言った通り、優はその後、何事もなく暮らした。

 スキル:マスコットは実に便利で、食欲もわかず、トイレに行きたくなることもないし、臭くなることもない。


(便利だけど、味気ねえんだよな)


 そう思ったが、そうでもないなと考えを改める。

 というのも、ルノーはよく優を薔薇の咲く庭へ連れ出してくれたからだ。中央には白いガゼボがあり、そこで二人は過ごすのが日課になっていた。


「一緒にお茶が出来ればいいのだが」


 ルノーの言葉に、優はバラ子ちゃんの頭で首を横に振った。

 ルノーは目を伏せるように笑って、紅茶を一口飲んだ。ティーカップを持つ手は変わらず黒い手袋をしている。


「わかっている。君はそのままでいい」


 髪と同色の睫毛が震えて、庭へと視線が移る。口元は弧を描いたままだが、瞳は何処か寂しそうな気がする。


 ここ数日過ごす中で、優にはわかったことがある。

 ルノーはこの国の王太子、つまり次期王になる存在だが、そんな簡単な話ではないらしい。

 ルノーのスキルは”腐食”。この世界でも珍しいらしいが、国民は勿論、臣下も召使も、家族に至るまでルノーのスキルを怖がっている。そのため、ルノーは皆を怖がらせまいと、四六時中黒い手袋を外さないでいる。

 

(俺のマスコットとは大違いだ……)


「どこまで話したか……。あぁ、そうだ。先日、市場に行って興味深いものを見つけてな――」


 ルノーは何も答えない優にいつも語り掛ける。この国のこと、街のこと、――自分のこと。

 優はバラ子ちゃんの中からじっとその話に耳を傾ける。狭い視野の中から見えるルノーは何度見ても美しかった。




――――



 ルノーが敵国との交渉で城を空けて数日。優は飽きていた。

 着ぐるみを着たままでは出来ることは限られており、食事も何もいらないとなればすることはない。書物に手を伸ばしてみたものの読める言語ではなくそっと閉じた。


(早く帰ってこねえかな、ルノー……)


 心の中でそっと名を呼んだ。


 ガシャン!


「っ!?」


 突如ガラスが割れるような音が聞こえ、優は着ぐるみのまま立ち上がった。振り返るとさっきまで整然としていた窓辺に黒い人影が二つ立っているではないか。


「あぁ? 王太子はいねえの?」

「いなくて正解だ。そこの異形の物を狩れとの命令だからな」

「出来んなら王太子も処分した方が金になったろ」


(なんだ、コイツら。俺を狙ってんのか? なんで?)


「無駄口はいい。とっとと任務を遂行しろ」

「へいへい」


 そう言うと、二つの影が一斉に低い体勢を取り、小刀を逆さ持ちで構えた。


(あ、これ、やばくね?)


 不老は、鉄壁は、何処まで有効なのか。


 現在、マスコットとして愛でてくれるルノーはいない。着ぐるみを着たままでは戦いには不向きだし、そもそも現代日本から転移して来た優に武闘スキルなどない。


「覚悟」


 一人が地を蹴って飛び上がる。狭い視野では見えないため、優は顎をあげて見上げた。その瞬間――。


 ころん……


「っぁ、やべ」


 バラ子ちゃんの頭が地面に転がった。


「なっ」

「うわっ、中身人間かよ」


 飛び上がった方の影が目を丸くし、地にいた方も声を上げた。


(うそ……)


 どろりとした生唾が喉の奥で詰まる。最後の砦だった"バラ子ちゃんでいる"と言う希望も潰えた。


 飛び上がった方の男の小刀がきらりと輝く。生身の優の顔目掛けて振り落とされた。


(終わった……っ)


 優は現実から目を背けるために強く目を閉じて俯いた。


「お、お前は……」

「うわぁああ!」


「……?」


 聞こえてきたのは、男たちの悲鳴。

 優は恐る恐る目を開けてみた。

 なんと優と男たちの間にはルノーが立っていた。黒い手袋を外したその手が、小刀を素手で握り潰している。刃は悲鳴を上げるように軋み、黒ずみ、腐り果て、最後には砂のようになって床へ散った。


「チッ、逃げるぞ」

「うぇっ? おい、マジかよ!」


 とびかかってきた男は早々に小刀を捨て、もう一人と一緒に窓から出ていった。


 とりあえず命の危機を脱したことに、優の口から自然と息が漏れる。が、すぐに不安が押し寄せて咥内が苦くなった。

 だって”バラ子ちゃん”ではなくなった優を、ルノーは見ているのだから。


 ルノーはいなくなった影たちを見送ると、ゆっくりと振り向いた。割れた窓から入る風が、柔らかそうな金髪を揺らしている。青い瞳がゆらりと揺れて、優を捉えた。


「やっと脱いでくれたな」

「……え」

「私のスキルは腐食だけではない。後天性のもので誰にも言ったことがなかったが、君にならいいか」


 その話し方は、いつもと変わらなかった。


「透視。つまり、中身が君であることはわかっていた」


(じゃあ、”愛らしい”って……)

 

「っんだよ、それ……」


 つい出てしまったボヤキと一緒に優の顔は火が吹いたように熱くなった。

 ルノーは、ふっと息を吐いて笑うと素肌になった手が優の頬へのびる。


(え、触れられたら……)


 優は身を固くしたが、怖いはずなのに目を逸らせなかった。

 少しひんやりとした指先が、優の頬に触れる。痛みやひりつきはない。


(どういうこと?)


 優はおそるおそる目を開けてみた。

 

「恐れることはない。君は"mascotte"なのだから」




end...

 


mascotte:幸運をもたらすお守り


 wave boxにて、リクエストありがとうございました┏○ペコリ


お題:BL、ゆるキャラ、バラ


 リクエスト小説・第七弾。

 普段は冗長な書き方ばかりしてしまうので、短く、それでいて起承転結がしっかりしたものを書けるようになりたいと思い、練習させていただきました。お付き合いいただき、ありがとうございます。


 もし奇特な方がいらっしゃいましたら是非リクエストください。いつでもお待ちしております。


「リクエストしたい!」と言う方がいらっしゃればコメント欄、または今回のようにX(旧:Twitter)→「wave box」からでもOKです。


その際、以下のことをお願いいたします。

・NL、BL、恋愛なしのいずれかひとつ

・3つのお題(上記参照してください)


~3000文字の超短編を書きます。めっっっちゃ喜んで書きます。

よろしくお願いいたします。


久しぶりの募集だったので、てんやわんやしながら書きました。

まず、ゆるキャラと薔薇で即異世界転移が思いついてしました。着ぐるみきた状態で転移させたらどうかな、と。

案の定、ギャグ寄りになってしまいましたが、最後は落とせたかな?


ここまでお読みいただきありがとうございました!


2026.6.15 江川オルカ

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