自由と愛と君と僕
ある春の日の事だった。
「私と付き合って下さい」
驚きのあまり言葉が何も浮かばない。こんな少女漫画的な展開なんて、よめるわけない。
「私、小・中・高でずっと先輩と同じ学校でした。」
『先輩』ってことは、一つ下か二つ下か。知らなかったなぁ。まさか僕が後輩から告白されるなんて。まさかのドッキリかもしれない。
「先輩は、私のこと存じてないですよね……。私、夏初月弥生です。先輩の一つ下です。」
夏初月弥生かぁ。春生まれなのかな?聞いてみよう。
「キミは、春生まれなのかな?もしかして、四月生まれとか?」
夏初月弥生の見事なまでに驚いた顔には、疑問と少しながら嬉しさが混ざっていた。
「当たりです!!どうして分かったんですか?」
「名前……かな。」
「名前?」
「うん。まず名字の『夏初月』って、確か四月の別称だよね。あと『弥生』ってのも、三月のことだし。だから何となくだけど、春生まれなのかな~って。」
「先輩……かっこいいです。」
夏初月弥生は、顔を真っ赤にして地面を見ながら呟いた。下手したら、聞き逃してしまうほど声は小さかったけど、聞き逃してたまるかと思い、耳に神経を集中させた。
初対面の人と、こんなに話すことは滅多にない。その僕が、こんなに話すなんて自分でも驚きだ。
だけど、だからこそ、ぼくは……
「付き合えない。」
夏初月弥生は、沈黙した。ぼくは、夏初月弥生を沈黙させた。
「今は、付き合えない。」
「今は?」
「うん。ぼくは、君と付き合うにはあまりにも君を知らなすぎる。だけど、友達になるには名前を知ってるだけで、十分だろ?だから、まずは友達から、ね?」
僕の言葉を、一言一句聞き逃すまいと、夏初月弥生は真面目な顔で聞いていた。
「分かりました。………私、先輩のほうから告白するくらい、魅力的な女の子になります。覚悟しといて下さいね」