勇者じゃない私が聖剣を抜いたので、女の子を泣かせる奴は全員ぶっ飛ばす
勇者じゃない私が聖剣を抜いたので、女の子を泣かせる奴は全員ぶっ飛ばす
「や、やめてください……!」
「おいおい、店員の姉ちゃん。俺たちはこの町を守っている〝衛兵様〟だ。その俺たちが一杯付き合えって言ってるんだぜ?」
政府領の軍事都市、フォーマルハウト。
この街には重厚なレンガ造りの軍事施設が建ち並び、衛兵たちが政府の権威を盾に好き勝手をしていた。
人々は街を取り囲むように建てられた灰色の防壁と、衛兵たちの存在に心底うんざりしている。
その街の一角に、一軒の、場が店を構えていた。
酒場、カッシーニ。
昼間だというのに店内には、ふわっと肉を焼く香ばしい匂いと、酒の甘い匂いが混じり合っていた。
壁に飾られたステンドグラスの明かりが、グラスを傾ける者たちの顔を照らし出している。
だが、その賑やかな人々の話し声の中に、不協和音が混ざっていた。
「一杯くらい付き合ってくれたって罰は当たらねぇだろ?こっち来いよ」
「……まだ仕事中なんです、離してください……っ!」
給仕の少女ヘーベが拒絶するが、衛兵ティタンは無理矢理その細い手首をつかみ、自分たちのテーブルへ引き寄せようとする。
「仕事ぉ?そんなことより、俺たちを労ってくれよ。なぁ?」
相方の衛兵フォボスも下卑た笑いを浮かべる。周囲の客は、見て見ぬふりをするように、顔を背けていた。
だが――。
「…………うるさい」
冷たく、しかし芯の通った声が、酒場の騒がしさを切り裂くように響いた。
――カウンターの隅。
そこには、昼間から大振りのジョッキを傾けている、一人の女がいた。
無造作な青い髪が特徴的な女剣士。
顔には笑みもなく、ただ静かに衛兵を見つめている。
だが、その赤い瞳の奥には、〝燃え盛る炎のような激しさ〟があった。
「その汚らわしい指を、今すぐその子の肌から離せ。でなければ……その腕ごと、たたっ斬るぞ」
「あぁん!?どこのどいつだ、偉そうに……ッ!?……て、テメェは……!」
衛兵ティタンの顔が、見る見るうちにサーッと青ざめていく。
その青い髪、青いマント、真紅の瞳。
そして、幾度もの修羅場を潜り抜けた者だけが持つ、鋭利な刃物のような雰囲気。
「……〝青髪のテラ〟!政府から追われている、あの賞金首かッ!?」
フォボスが思わず声を上げる。テラと呼ばれた女は、不敵に口角を上げた。
「ほう。腐ったミカンにしては、情報の処理が早いじゃないか。……だが、不合格だ。私の名を呼んでいいのは、未来ある少女だけだ。貴様のような下衆が、気安く呼んでいい名じゃない」
テラがゆっくりとカウンターから身を起こす。
その瞬間、酒場全体を覆っていた熱気が、凍てつくような冷気に変わった。
「ぬ、抜かせッ!たかが女一人、俺たち治安維持部隊の敵では――」
「そこをどけ、不純物」
――ドォォォォォォン!!
凄まじい打撃音。
テラの右足が、まるで青い稲妻のようにティタンの腹部を捉えた。
想像を絶する衝撃音と共に、屈強な男の体が木の葉のように宙を舞う。
――ガシャァァァン!
酒場のガラス窓が、まるで爆発したかのように飛び散る。
「ごふぉっ……!?げ、げはぁッ……!?」
ティタンは、酒場の窓を突き破り、表の石畳へと叩きつけられた。
フォボスが腰の剣に手をかけようとするが、それよりも早く、テラの凍てつくような視線が彼を射抜く。
「お前も、相棒を一人にするのは可哀想だろう?追いつかせてやろうか」
「ひ、ひぃぃぃっ!!」
情けない悲鳴を酒場に響かせながら、フォボスは逃げ出した。
一度も後ろを振り返ることなく、窓から差し込む陽光へと、転がるように消えていった。
「ふん、運動にもなりゃしない。……大丈夫か?ヘーベ。怖い思いをさせたな」
テラが乱れた髪を乱暴に払うと、その勇ましくも美しい横顔が光に縁取られる。
ヘーベは返事も忘れ、自分を守り抜いた女剣士の凛々しさに見惚れていた。
「いいかい、ああいう男には笑顔を見せる必要なんてない。次はもっと高い酒を注文させて、酔い潰れたところを身ぐるみ剥いでやりな」
いたずらっぽく微笑むテラの視線が重なり、ヘーベの頬が赤く染まる。
「ピィィィーーーーーーッ!!」
裏通りに、悲鳴にも似た高く鋭い警笛の音が響き渡る。それは助けを求める叫びだった。
「応援を呼べ!応援を呼べーーーッ!!青髪のテラだ!町中の衛兵、総員でかかれッ!!」
町中に響き渡る警笛の音に、テラが顔をしかめる。
ガチャガチャという鎧の音、大勢の足音。周囲の路地から、次々と衛兵たちが姿を現す。
「……チッ。昼のお散歩にしては、少しばかりゲストが多すぎるな。おい、相棒。出番だぜ」
テラは腰の鞘から、自慢の細剣――〝ゴブニュ・テンレイヤー〟を引き抜いた。
鍛冶師ゴブニュが〝十層もの強化を施した〟と豪語していた、特注の(はずの)名剣だ。
「一掃してやる。道を開けな……ッ!」
テラが鋭く剣を一閃させる――!
――パキィィィィィィン……
「…………は?」
視界の先、わが相棒の〝上半身(剣先)〟が、美しく弧を描いて宙を舞っていた。
手元に残ったのは、見るも無残にへし折れた〝根元〟のみ。十層の強化とやらは、どこへ消えたのか。
「…………折れた?え、嘘だろ?まだ一回も当ててないぞ?なんでだよ……」
テラの呆然とした表情は、一瞬で怒りに変わった。
「ハハハハ!壊れたか!女一人で何ができる!運の尽きだな、テラ!」
衛兵隊長ジュノーが勝ち誇った声を上げる。
「…………あの、クソ野郎。……ゴブニュの野郎!!いつか、廃棄区画のゴミ捨て場に突っ込んでやる!!」
背後からは数十人の重装歩兵。前方からも増援。手元にあるのは、もはやただの鉄の棒だ。
「やってられるか!どけえぇぇ!私は忙しいんだよッ!!」
テラは折れた剣を衛兵の顔面に投げつけると、驚異的な瞬発力で包囲網の隙間を駆け抜けた。
その逃走は、まるで青い流星のようだった。
一方その頃――。
「ついに……伝説の聖剣を抜く日がやってきたんだ」
聖剣の丘・頂上。
巨大な岩に突き刺さる、輝く剣。
吹き抜ける風の音だけが響く丘の上には、神秘的な静寂の時間が流れていた。
澄み切った青空の下、赤髪の青年アレスが神妙な面持ちで祈りを捧げている。
彼の顔には、微かな緊張と、揺るぎない決意が宿っていた。
「……〝星の瞬きが止まる時、選ばれし者が大地を救わん〟。預言の言葉は、今日、この瞬間のためにあったんだ……」
アレスは震える手で、岩に深く突き刺さった〝聖剣ガイアセイバー〟の柄を掴んだ。
その剣は、まるで生きているかのように、美しいプラチナの光を放っている。
「いくぞ……!僕が、みんなを救う勇者になるんだ!はあああぁぁぁ……ッ!!」
聖剣が呼応するように、さらに強い光を放ち始める。
大気が震え、伝説が今、まさに幕を開けようとした――その時だった。
「そこをどけえぇぇぇ!邪魔だぁぁぁ!」
「え?あ、ちょっ、ええええええ!?」
――ドゴォォォォォォン!!
凄まじい衝撃音。全速力で突っ込んできたテラの〝流星タックル〟が、アレスの脇腹にクリーンヒットした。
その勢いは、まるで巨大な岩石が激突したかのようだった。
「ぶ、ふべぇっ!?」
アレスが、物理法則を無視した勢いで崖下へと吹き飛んでいく。
「あぁぁぁぁぁぁ……れぇぇぇぇぇぇ……」
遠ざかる悲鳴を聞き流しながら、テラは肩で息をつく。
「はぁ……はぁ……!ったく、通り道でボーッとしてんじゃねえよ。……ん?なんだこの棒切れ。光ってて、いかにも丈夫そうじゃねえか」
テラは、本来アレスが抜くはずだったガイアセイバーに目を留めた。
追っ手の衛兵たちが、丘の麓まで迫っている。もう時間は残されていない。
「背に腹は代えられん。これ、借りるぞ!」
テラが柄を掴み、力任せに引き抜く――!
天を貫くような轟音と光。世界そのものが震えるかのようだった。剣から直接語り掛ける声、威厳ある響きが脳内に響く。
『……嗚呼、ついにその手が私を……。契約の時は来た。さあ、我が真の主よ。そなたの望みを……っ!?』
――シュパァァァッ!!
『……って、ええええええ!?お前誰だよ!?勇者くんは!?さっきまで目が合ってたよね!?』
「お……なんだ。この棒、喋るのか?まぁいい、この溢れ出すパワー……最高だ。ゴブニュの折れた安物の剣とは比べ物にならねえ!」
テラの言葉に、剣が激しく明滅する。
『〝棒〟って言うな!私は世界の意志、聖剣ガイアセイバー……って、待て!お前の魂、真っ黒……いや、真っ青だ!暴力と欲望と〝女好き〟の波動しか感じられないんだけど!?無理無理無理、抜いちゃダメなタイプの人だこれーーー!!』
「うるせえ!抜けたんだから、今日からお前は私の所有物だ。……いいか、〝ガイア〟。私の邪魔をする奴を、一欠片も残さず薙ぎ払え!」
『ヒェッ……目、目が本気だ……。あぁもう、どうにでもなれぇぇぇ!!』
丘を包囲する衛兵たちの動きが、一瞬で凍りついた。
「テラ……貴様、聖剣を……抜いただと……!?伝説の勇者にしか抜けないはずの、あのガイアセイバーを……!」
衛兵隊長ジュノーが、信じられないものを見るかのように、目を見開いてテラを見つめている。
テラの手には、白金の輝きを放つ伝説の聖剣が握られていた。
彼女は聖剣を肩に担ぎ、不敵に笑う。
「伝説?そんなのは、力のない奴が作るおとぎ話だ。……私の前にあるのは、ただの〝勝利〟という事実だけだ」
テラがにやりと笑い、大地を蹴る。
「……行くぞ、雑魚ども。お前たちの汚い鎧を、この光で綺麗に溶かしてやるよ!テラ・クラァァァッシュ!!」
横一文字に振るわれた聖剣から、濁流のような激しい光があふれ出した。
――ズドォォォォォォンッ!!!
それは〝光〟という名の、凶悪な暴力だった。
衛兵たちが悲鳴を上げる間もなく、その巨体が次々と宙を舞う。金属の鎧が紙のように吹き飛び、彼らを石畳へと叩き落とした。
「ぐ、ぐわあああ!?な、なんて力だ!?これが……聖剣の真の力だというのかぁぁぁ!?」
ジュノーの絶叫も虚しく、その体は光の中に消えていった。ほんの数秒の出来事だった。
聖剣の丘に、先刻までの静寂さが戻る。
鎧をボロボロにされた衛兵たちが横たわる中、テラ一人だけが悠然と立っていた。
皆、意識を失っているものの、命に別状はない。
『ひ、ひえええ……。何てことしやがるんだ、お前は!聖剣は破壊の道具じゃないんだぞ!?』
「ふん。騒ぐな、ガイア。これくらいで壊れるほどヤワじゃねえだろ。……さて、これで邪魔者はいなくなったな」
テラが満足げに聖剣を肩に担ぎ直した、その時だった。
「「「ワァァァァァァ!!」」」
遠くから人々の歓声が聞こえる。丘の麓から、大勢の住民たちが駆け上がってきた。
彼らは、倒れ伏す衛兵たちと、聖剣を担いだテラを見て、目を見開いた。
「お、おお……!衛兵どもが、たった一人で!」
「あの聖剣……!もしかして、預言に伝わる〝勇者様〟!?」
「勇者?なんだそりゃ。私はただ、邪魔だった奴らをどかしただけだ」
テラがぶっきらぼうに答えるが、民衆の熱狂は止まらない。
「おお、なんと謙虚なお方だ!手柄を誇らぬ奥ゆかしさ!まさしく本物の勇者!」
「我々を苦しめていた横暴な衛兵どもを、一掃してくださった!」
住民たちがテラの周りに集まり、次々とひざまずく。
テラの表情は、困惑から明らかに不快感へと変わっていった。
「勇者様!どうか、どうか我々をお守りください!」
「魔王に娘たちがさらわれました!政府に訴えても〝魔王を刺激するな〟と門前払い……。お願いです、あの子たちを!」
住民たちが涙ながらに訴える。その言葉に、テラは鼻で笑った。
「ハッ、笑わせる。女の子一人守れないで、何が政府だ。守る価値もないのは、その椅子に座ってる奴らの方だな」
テラの赤い瞳が、ギラリと光る。
政府も魔王も関係ない。可愛い子を泣かせる奴は、誰であろうと私の敵だ。
「よし。お前たちの願い、聞き届けよう。……だが、礼は可愛い女の子だけだ。男の感謝などいらん」
『おい!聞き届けようって、お前は聖剣の力を私物化する気か!?』
「当たり前だろ、ガイア。私に拾われた時点で、お前の運命は私と共にある。……それに、可愛い子が困ってるんだ。私が助けなくてどうする?」
私が世界を救うなんて、これっぽっちも思っちゃいない。
私の目的はいつだってシンプルだ。
美味い酒と、女の子の笑顔。そして邪魔な男をぶん殴る自由。それだけだ。
「難しい話はどーでもいい。全部、ぶっ飛ばせば済むことだ」
その後、彼女は腐敗政府も魔王軍も「テラ・クラッシュ」でなぎ倒し、青い流星は伝説となった。
ーTHE ENDー
お読みいただきありがとうございました!
この物語は連載版のプロローグを短編としてまとめたものです。
このあとテラは、魔王軍も腐敗政府も関係なく全部ぶっ飛ばしていきます。
▼この先、さらに暴れます(連載版はこちら)
https://ncode.syosetu.com/n1317ly/




