第6話 失態
幸いなことに通行人はまばらで巻き込んでしまうということはなさそうだ。
まず真っ先に突っ込んできた男を先ほど同じようにちょこんと裏拳で吹っ飛ばす。
続いて左からバットで殴りかかってきた男のバットを左手で受け止めると、そのままバットを掴み取って持ち手側の先端で胸の辺りに一突き。
バットヤンキーが倒れるのと同時くらいに、帽子の男がその背後から飛び蹴りをしてくる。
その足を掴んで地面に叩きつける。
一瞬でに3人が地面に這いつくばって悶絶した。
『よし、いい感じに感覚が掴めている』
それを見た2人が左右から同時に攻撃を仕掛けてくる。
しかし若干攻撃のタイミングに誤差があるため、まず一人目に軽くちょこんと先制パンチを当てる。
「メキャッ…」
出来ればボディーに入れたかったが余裕がなく顔面にヒットする。
と同時に、二人目が繰り出してきた右ストレートをこちらの顔面にももらってしまう。
だが何ともないのでそのままその腕をつかんで「ボスッ」っとボディーに一撃を入れた。
ボディーの方は大丈夫だろうが、誤って顔面に入れてしまった方は軽く顔の形が変わって鼻血を出しているが大丈夫だろうか?
「ほお、やるなあアンタ」
そう言ってリーダーらしき男が構えた。
これまでの雑魚とは違う。
明らかに何かをやっている構えだ。
軽くステップを踏みながら踏み込んでくる。
『は、速い!』
「バシッ」
何をされたのかわからないくらいのタイミングでリーダーヤンキーの左ジャブが顔面にヒット。
当然痛くはないのでそのまま殴り返す。
しかし相手は打った瞬間バックステップで距離を取っている。
さらに
「バシッ」
また高速のジャブが恵一にヒット。
そう、スーパー〇〇〇人になったことによって腕力やスピードは格段に上がっているが、動体視力は元のままだ。
素人の大振りのパンチやキックには反応できても、格闘技をしっかり学んだ人間の攻撃を避けるのは容易ではない。
しかも先ほどの雑魚との戦闘を見て学習していたので、リーダーヤンキーも一撃を貰うヤバさを重々理解している。
つまり初っ端から絶対攻撃を食らわないスタンスでヒット&アウェイ戦法を取ってきているのだ。
そんな相手に一撃を加えるのもまた難しい。
「バシッ」
「バシッ」
「バシッ」
リーダーヤンキーの攻撃が恵一の顔面を捉え続ける。
『イライライライライライラ』
次第に恵一のフラストレーションが溜まっていく。
スカッ…スカッ…
相変わらず恵一の攻撃は空を切る。
もちろん本気のスピードで攻撃をすれば当たるだろうが、格闘技経験も全く無い滅茶苦茶なフォームでのパンチな上、加減をした状態で軽く振っているのでそんな攻撃が当たるわけがないのだ。
『イライライライライライラ』
「バシッ」
「バシッ」
敵の攻撃ばかり辺り、こちらの攻撃は全く当たらない。
もちろん痛くもかゆくもないのだが、イライラは最高潮に高まった。
「バシッ」
敵の攻撃が当たった瞬間だった。
「ドグシャァッ!!」
恵一の回し蹴りがリーダーヤンキーにクリーンヒットする。
「ヒュゥゥゥゥ……ドシャッ!」
「…………シーン」
リーダーヤンキーは回転しながら数メートル吹っ飛び電信柱に激突した。
『あ…ヤバイ…』
無意識だった。
当然恵一も本気で蹴るつもりなどなかった。
しかし、あまりにも上手く避けられ、しかも的確に攻撃をヒットさせてくるリーダーヤンキーと戦っているうちに、自然と絶妙なタイミングで足が出てしまったのだ。
リーダーヤンキーを見るとかなり血を流しながら倒れている。
どう見てもかなり危険な状態だ。
「キャァァァァァァァァァァァァ!」
通行人の女性が悲鳴を上げる。
『ヤバイ…逃げなくては』
恵一はその場から走り去った。
しばらく走って人気がない場所へ行くと、一気に上空へ飛んだ。
『ヤバイヤバイヤバイ、今回はかなりヤバイ。この素の姿が明らかに大勢の人に目撃されてしまった。しかもあれだけの街中だ、防犯カメラにも映っているだろう。今度こそアウトの可能性が高い。』
さっきまで実戦が出来てラッキーと思っていたのが急遽一転、最悪の状況になってしまったことに狼狽える恵一であった。




