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『煙の向こう側の異世界』第二話 新大臣の始動

王国の未来を支える“緑”の再生。

その大きな使命を託された大輔のもとに、誠実な秘書アイビーが加わり、新体制が動き始めます。

家族と村の人々の祝福、そして胸に残る“緑の女神”の伝承――。

それらが、この国の行く末を少しずつ形づくっていきます。

第二話では、大輔の人柄と周囲の温かさ、そして未来への第一歩が描かれます。


第二話 新大臣の始動

お城の南翼にある大臣室では、大輔が荷物を整理していた。

任命式が終わってまだ数時間。窓の外では、淡い緑の光が城の塔を包み、春の風が高く流れている。

ノックの音がして、扉が静かに開いた。

「秘書のアイビーです」

姿を見せたのは、二十五歳ほどの清楚な女性。

淡い灰緑色の瞳をしており、どこか森を思わせる静けさがあった。

「アイビーさん、前任の大臣の秘書だったそうですね。これからよろしくお願いします」

「はい。大臣のお仕事は多岐にわたりますが、できる限りお力になります」

その声には確かな誠実さがあり、微笑むだけで部屋の空気が柔らかくなった。

「今日は帰宅します。明日から本格的にお願いしますね」

「承知しました、大臣。お疲れさまでした」

夕暮れ、浮遊車が役宅の門をくぐる。

建物の白い壁と青い屋根を持ち、窓には柔らかな灯がともっていた。

胸の奥では、期待と不安が静かに入り交じる。

玄関ではアニーが待っていた。

「お帰りなさい、大臣」

はにかみながら抱きついてくるその姿に、自然と笑みがこぼれた。

「パパとママのこと、これからはお父さんお母さんって呼ぶね」

「パパでもママでも、好きなように呼んでいいよ」

二人は笑い合いながら居間へ向かった。

「お母さん、今日、王から正式に植物大臣に任命されました」

「まあ、大輔、おめでとう! 国のために働くのよに」

母は目を細め、抱きしめてくれた。

「お父さん、ただいま戻りました」

「聞いたよ、大輔。王の信頼を得たんだな。アニーをよろしく頼む」

「素晴らしい娘です。……アニーのウェディングドレス姿を、いつか見たいですね」

「私もだ」父が笑った。

食堂には、アニーと母が飾りつけをした祝いのケーキが待っていた。

火を灯すと、甘い香りとともに光が部屋を包みこむ。

その時、外から歌声が聞こえた。

窓を開けると、村の人々が手作りの灯りを掲げていた。

「皆さん、ありがとうございます!」

大輔とアニーは外に出て、深く頭を下げた。

「この村から続けて大臣が出るとは、めでたいことです」

長老が笑顔で声をかける。


「この地には昔、“緑の女神”が眠るという伝承があります。どうか、その恵みを絶やさぬように」

長老の言葉に、大輔の胸が少しざわめいた。

祝福の歌が夜空に響き、湖面が柔らかく光を返していた。

――その夜。

皆が眠ったあと、大輔は庭に出た。

風にそよぐ木々が、かすかに光を放っている。

「この国の緑を守る……王はそう言われた」

だが、それがどんな意味を持つのか、大輔にはまだわからなかった。

翌朝。アニーを湖畑に送り届け、浮遊車は再び城へ向かう。

「おはようございます、大臣」

明るい声が出迎えた。アイビーである。

「おはよう、今日から頼りにするよ。……アイビー、あなたはどんな仕事ができるのですか?」

「計画書の作成、植物管理の統計、そしてCADでの設計図作成もできます」

「図面も描けるのか。植物工場の新設計を考えている。手伝ってもらえるかな」

「もちろんです」

そのやりとりの中に、確かな信頼が生まれ始めていた。

その日の午後。大輔は湖畑に向かい、アニーと打ち合わせを始めた。

「アニー、会議をしよう。植物工場の計画を進めたい。何から生産すればいいだろう?」

「案はあるの?」

「キノコの栽培を考えている。菌の種類も数種、すでに用意してある」

「それは良い考えね。次は葉物が良いと思う」

「アニーはすぐ意見が出るね。キノコは健康にも良い。よし、まずはキノコから始めよう」

決まった瞬間、二人は笑い合い、昼食を囲んだ。

穏やかで幸せな時間だった。

「アニーの料理はおいしいから好きだよ」と大輔が言うと、アニーは少し顔を赤らめた。

午後は植物の生長を確認した。アニーの管理は完璧だった。

三時を過ぎ、城へ戻るため浮遊車に乗ると、アニーが小さくつぶやいた。

「アイビーさんに会ってみたいな」

その言葉に、大輔は穏やかに笑みを浮かべた。

新しい日々が、確かに動き出していた。


大輔とアニー、そして新たに登場したアイビー。

三人の関係がどのように育ち、王国の植物再生計画がどう進展していくのか。

「緑の女神」の伝承が物語の鍵を握り始めます。

次話では、工場計画が本格化し、異世界の自然と人の絆がより深く描かれる予定です。


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