勘違いという名の笑い
昼休みの案内の終わりに
校舎の隅まで歩き回って、ようやく一息ついた頃。
彼方くんが腕を組みながら言った。
「うーん……学校案内もこれくらいか?」
隣の遼くんが軽く伸びをして答える。
「まぁな。六年で使う場所はこんなもんじゃね?」
二人が話し合っている間、ボクはおずおずと口を開いた。
「……あ、あの」
同時に、二人の視線がボクに注がれる。
ぎゅっと心臓が縮む。息が詰まりそうになった。
けれど、気づけば口から出ていた。
「……ふ、二人って……不良じゃないの?」
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爆笑
言ってしまった瞬間、血の気が引いた。
――ば、バカだボク! なんて直球なんだ!
自分の迂闊さを呪い、慌てて両手を振る。
「あ、いや、その……ち、違っ……あの、その……」
言い訳を探してあたふたするボクをよそに、二人は顔を見合わせ――。
「……ぷっ」
「はははははっ!」
次の瞬間、腹を抱えて爆笑していた。
あまりの大笑いに、ボクはますますどうしていいかわからず、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
不良の定義
「あ〜、笑える〜!」
遼くんが腹を抱えて爆笑している。
その隣で、彼方くんは口元を手で押さえながら、少し笑いを堪えて言った。
「……それ、もしかして担任に言われたのか?」
ボクはこくんとうなずいた。
彼方くんは「あー、なるほどな」と納得したようにため息をつく。
「まぁ、不良の定義が授業をサボるとかなら、俺たちはそんなことはしないぞ」
きっぱりとした声に、思わずボクは瞬きをする。
「ただな、担任の意見に従わないことを“不良”って言うなら、俺たちはそっち側の不良だろうな」
そう言って彼方くんは、横の遼くんへ視線を投げる。
「んー、まぁそういうことだな」
遼くんはひょうひょうとした笑顔で頷いた。
「自分の意見を曲げてまで人の言うことを聞くのは、オレたちの流儀に反するって感じ?」
「どこのヤクザなんだよ、オレたちは」
彼方くんがすかさずツッコミを入れる。
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彼方の言葉
「……なんでもかんでも先生の言うことを聞くことがすべてじゃない。
自分の思ってることをちゃんと意見にして言うってことだ」
彼方くんはそう言い切ると、ビシッと指先でボクを差した。
その真っ直ぐな目に、思わず背筋がぴんと伸びる。
「だけどな。だからって蒼に強要するわけじゃない。
蒼がオレたちの考え方に賛成できないなら、それはそれで仕方ない。
強要することじゃないんだ。自分で考えることだからな」
指差されたまま、胸がどくんと鳴った。
“強要しない”――そう言い切る彼方くんの姿が、なぜか格好よく見えてしまった。
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いつものやりとり
「おいおい、行儀悪いぞ」
隣の遼くんが、軽口を叩くようにちゃちゃを入れる。
「……黙れ」
彼方くんが即座にどつき返す。
二人のいつものやりとりに、ボクは思わず小さく笑ってしまった。
胸の奥に残っていた“この二人は不良なんじゃないか”という不安が、少しずつほどけていく気がした。




