君の名は……とか、そんな綺麗な話でもない
強引に手を引かれ、どこに連れていかれるのかもわからないまま歩いていた。
廊下の角を曲がったあたりで、前を歩いていた子がようやく立ち止まる。
「……ここら辺でいいか」
そう言って振り返ると、掴んでいた手をぱっと離した。
「悪かったな、いきなり連れ出して」
ほんの少し申し訳なさそうな顔をして、低い声でそう告げてきた。
「全くだよ」
隣の男の子が不満そうに口を尖らせる。
「いきなり転校生引っ張ってくだすなって。オレにくらい話してから行けよなー」
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自己紹介
前の子がふっと表情を整えて、改めて口を開いた。
「俺の名前は三日月彼方だ。よろしくな」
その隣で、明るい声が続く。
「オレは九重遼! よろしく!」
遼くんはボクの手を取ると、そのまま力強く上下にぶんぶん振り回してきた。
あまりの勢いに目を丸くするしかなかった。
「……あ、あの。ボクは、一ノ花蒼っていいます」
自己紹介を口にした途端、遼くんが人懐っこい笑顔を浮かべて言った。
「知ってるって!」
その笑顔がまぶしすぎて、頬が一気に熱を帯びる。
恥ずかしくなって、思わず俯いてしまった。
それを見たのか、彼方くんが眉をひそめる。
「おい、やめろ。からかうなよ」
遼くんの頭を軽く小突く。
「えぇ? からかってないって!」と遼くんは笑いながら抗議する。
ボクは慌ててぶんぶんと首を横に振った。
「……だ、大丈夫」
小さな声でそう言うと、二人の視線がこちらに集まった。
胸がどきどきして、呼吸が少し速くなる。
けれど、不思議と嫌な気持ちはしなかった。むしろ、この二人と一緒なら……と、ほんの少しだけ安心を覚えている自分に気づいた。




