最悪で最低な時間
「それでは、自己紹介をしてください」
先生が黒板に大きく「一ノ花蒼」と書いた。
教室中の視線が一斉にボクに突き刺さる。心臓がぎゅっと縮こまったように痛くなった。
「……一ノ花蒼です。よろしくお願いします」
声が震えそうになるのを必死で堪え、短く名前と挨拶だけを口にする。
それ以上は何も出てこなかった。教室に漂う期待の空気が怖くて、ボクは俯いたまま席に戻った。
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休み時間
ホームルームが終わり、すぐに一時間目の授業が始まった。
そして一時間目が終わった途端、予想通りの光景が待っていた。
「ねえねえ、どこから来たの?」
「趣味は? 好きな食べ物は?」
「兄弟いる? 引っ越してきた理由は?」
四方八方から浴びせられる質問。
転校生は珍しいのだろう。興味の矢が次々と突き刺さってくる。
だけどボクはうまく答えられなかった。
口から出てくるのは「……うん」とか小さな頷きだけ。声を出すのが怖い。
下を向いたまま、早く過ぎ去れと心の中で祈る。
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長すぎる十分間
時計の針の進みが遅い。
ほんの十分の休み時間が、一時間にも二時間にも思えた。息苦しくて、教室のざわめきが遠く響いて、頭がぼんやりする。
――早く、早くチャイムが鳴ってほしい。
そんなふうに願ったのは、生まれて初めてだった。
やっとチャイムが鳴った瞬間、全身の力が抜けて、ボクは深く息を吐いた。
救われたような安堵感と同時に、これから毎日同じことが繰り返されるのかと、うっすらとした恐怖が胸を締めつけていた。




