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始まりのはじまり
転校初日の朝。
玄関に並べられた新しい上履きが、妙に冷たく光って見えた。
「行きたくない……」
何度そう口にしただろう。昨夜も、今朝も。けれどその声は大人の都合の前では小さすぎて、風に消えてしまったように扱われた。
「ごめんね、蒼」
母の手が、そっと頭を撫でる。柔らかくてあたたかいのに、なぜだか心は少しも安らがなかった。
謝られるたびに、余計に胸が苦しくなる。頬をふくらませるのをやめたいのに、どうしても顔に出てしまう。
卒業まであと一年だった。ずっと一緒に過ごしてきた友達と離れなくてもよかったのに。
最後の日、何度も「元気でね」と抱きしめ合った記憶がよみがえる。涙でにじむ景色を思い出すたびに、仕方ないとわかっていても、親を恨まずにはいられなかった。
「こっちの学校でもきっと友達ができるわよ」
母はそう言った。けれど蒼は、自分が無口で、人づきあいも得意じゃないことを誰よりも知っていた。だから、その言葉を信じられずにいた。
――ここではきっと、ひとりぼっちになる。
そう思い込んでいた。
けれど、その予感は意外なほど早く打ち砕かれることになる。
蒼がまだ知らない、かけがえのない「仲間たち」との出会いが、すぐそこまで迫っていた。




