第54話「具体的にはティエリア先輩との決闘中に都合よく異能力が目覚める予定だ」
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ご都合主義だ、と俺が口にすると途端に棚町は苦虫を噛み潰したかのような表情になった。分かった馬鹿なんだね、みたいなことを呟いているが、しかしそう断言するにはいささか早計だと言わざるを得ない。だから俺は続けてこう言ってやった。
「具体的にはティエリア先輩との決闘中に都合よく異能力が目覚める予定だ」
だが棚町の表情が変わることはなかった。むしろ蔑みの視線が加わった風にも思える。
「どうしよう、突っ込み所が多すぎてどこからすればいいのか分からない……」
おい、どうして頭を抱える、変なことを言った覚えはないぞ。
「まず第一に、都合よく異能力が目覚めるって何?」
「いや、そのままの意味だけど」
「意味は分かるけど、分からない」
「どっちだよ」
「大体、そんな都合よく異能力が使えるようになる訳ないでしょ? しかも決闘中に!」
「だからなんでそう決め付けるんだよ。お前も異能力は使えるんだろ?」
どんな能力かまでは頑なに教えてくれないがな。
「ま、まあね。でもあたしの場合異能力が使えるというだけで使ったことはないわ。感覚的に『ああ何かあるんだな』って思うだけ。しかもある日突然気付いたのよ」
ん、何気に重要な話を聞いた気がするんだが……。
つかおい、コイツ異能力なんてロマンを得ながらそれを使ったこともねーの? なんという豚に真珠、もったいな!
「だったら俺にもその『ある日突然』が起きてもおかしくないだろ? そもそも異能力の存在自体がご都合主義の塊だしな。それに」
俺の脳裏にスモックを着た幼女の姿が過る。面妖な口調が特徴的の人の手が及ばない存在。
「ステュクスが言っていたんだ。俺の身に危機が迫った時に異能力が発現するってさ」
例えば魔法使いと決闘なんて危険そのものだと思うんだ。どのくらい危険かというと、うなぎと梅干しの食べあわせの悪さと同じレベル。もしくはコーラにメントスを入れて振った状態でも可。精神面では英語の授業でパートナー役の相手が会話の練習をしてくれない時に近い。はいはいそんな俺はぼっちです。
だって魔法だぞ魔法。なんちゃらパトロナームで相手を眠らせたり、虚無属性で戦術兵器になったりする奴がいるんだから、そりゃヤバいって。派生系に魔砲使いなんてのもいるしな。
ましてや物語に出てくる魔法使いなんてのは大抵性格に難あったりするから俺みたいな雑魚は簡単にフルボッコにされるだろう。特にあの生徒会長ってプライドが高そうだし、実力も凄そうだし。更に落ちこぼれは嫌いだって豪語もしてたし……。やばい、今頃になってちょっと怖くなってきたぞ。
「ねぇ綾村くん」
いつの間にか棚町が俺の顔を覗いていた。いっけね、話が有らぬ方向にずれちまってた。
「前にも言ったと思うけど、死神を過剰に信用するのはよくないわ。その言葉だって果たして本当の事を言っているのやら……」
お前の疑問ももっともだ棚町。
確かに死神の言うことが全て真実だという保証はない。保証がないからアフターサービスは受けられない。なのでもし仮に異能力が使えなくてもどうにもならない。けどな、それについては俺も一言あるんだぜ。魔力の俺でも使える魔法の言葉、もとい屁理屈ってのが。
「それでもだ。俺はステュクスの言うことを信じるよ。少なくともこの件についてはな」
「どうして? 相手が幼女だから?」
幼女は関係ねえけど決まってんだろ。
「自分に都合がいいことだけを信じるのが人間の特徴だからだ」
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ひとまずこんな中途半端な所で回想を終えるが、よくよく思い返してみると説明らしい説明をしていなかった様にも思える。結局棚町から思ったほど賛同は得られなかったしな。なんか説明をすればするほど俺とあいつの温度差が生じるだけだった。
まあそれはさておき、ここで俺の狙いを再度伝えておこう。
現状を整理するまでもなくピンチな俺が勝つためには、この土壇場で異能力を発現し、その異能力をもってティエリア先輩に対抗しなければならない。対抗出来る異能力なのかどうかはこの際置いておく。
そのためにもまず異能力を手にする必要があるのだが、かのステュクス曰く、異能力を発現するには俺が危機的状況、つまり死にそうな目に遭う(拡大解釈)のが前提条件なんだそうだ。そんなこんなで俺はどうにかしてその条件を満たさなければならない訳で。
だからティエリア先輩を挑発して危機的状況を作り出そうとも考えたのだが、しかしいざとなるとその方法が思いつかない。いや、思いついたといえば思いついたんだ。
だけどこの方法はその後が怖いんだよなぁ……。
何せ今から俺がしようとしていることはどう控え目に見てもただのセクハラ行為だからだ。なので、仮に先輩にミディアムで焼かれても文句は言えないだろう。
——って、なに弱気になってんだ俺は! だからさっき覚悟と決意を固めただろ!
そうだ、そうだよ。一度やるって決めたんだ、何途中で怖じ気づいてんだよ俺は。
方法はこれしかないって言ってんだろうが。だったら盛大にやれよ綾村圭!
『二分が経過しました』
二度目のアナウンスが響く。
俺が勝つためには残り一分逃げ切らないといけない。ティエリア先輩はその逆で残りの一分以内に俺を捕まえなければならない。短くもあり、長くもある一分の壁。ここが山場だろう。




