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転生しても俺は魔法が使えない  作者: 佐佑左右
やはり俺の異能バトルは間違っている

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第53話「……まだ、負けてねぇ」

 その一言が決定打だった。


「あんなルールでは貴様は私には一生勝てんよ。魔法も使えん貴様がどうやって私に勝とうとするのか興味はあったが、もういい」


 ああ……そうか。馬鹿な俺は今やっと気付いた。


「わざわざ私が決着をつけるまでもない。こんな茶番、貴様自らの手で終止符を打つといい」


 ティエリア先輩が何度も俺を追い詰めながらその都度見逃していた理由を。確かに手加減の意味もあるだろうが、それ以前に彼女は最初からこうする予定だったのだ。


 圧倒的な実力差を見せつけて敗北を認めさせるのが本来の目的で、ティエリア先輩にとってこの決闘は、あくまで魔法使えない部を廃部にすることを納得させるための手段でしかないのだと俺に悟らせたかったのだろう。


 だから部の代表者である俺が自ら諦めることに意義があるのだ。これは理不尽故の決定ではなく、お互いに同意した上での結果だと後でぎゃあぎゃあ喚かれてもそう突っ撥ねるために。


 種が分かればなんてことはない。


 結局の所、彼女にただ遊ばれていただけに過ぎなかったのだ。


「畜生……っ!」


 思わず悪態を吐いてしまう程に今現在置かれた状況は最悪だった。


 将棋で言えば王将の周りを相手の駒で囲まれているようなものだ。


 もはや詰んでるといってもいい。


 仮に逃げようとしても、次は先輩が見逃してくれはしないだろう。既に見切りをつけられたようだし、このすっかり見晴らしのよくなった焼け野原の何処にも逃げ道はない。


 つまり俺に残された選択肢の一つが見事に潰えたという訳だ。


 他の選択肢を挙げてみても、俺が大人しく降参するか、最後まで悪あがきをしてティエリア先輩に捕まるか、その二つしかない。しかも両方に大した違いはないときたもんだ。一見二者択一の様に思えても、実の所行き着く結果は同じ。これならどっちを選ぼうと変わりはない。言うなればそう、無駄な分岐点なのだ。ノベルゲームでいったらたった二%の既読率を埋めるための選択肢でしかない。


 やはり俺はティエリア先輩の敵にすらなり得ないのだろう。自分は狩人だとうそぶいてみせるが、本当に俺を狙うべき獲物に見立てているのかも怪しいもんだ。


 だけど俺は素直にはいそうですかと引き下がるつもりはなかった。例え負けるにしても最後まで抗う所存だ。無様と笑われても、醜いと罵られても、それでも俺は抗う。


 だって悔しいじゃないか。


 本心を見せてまで魔法使えない部を守ろうとした棚町も、


 自分を救ってくれた棚町に感謝して彼女の一番の理解者となったロリ先輩も、


 どうにかして魔法を使えるようになりたいと努力する伏日も、


 いまいちよく分からないけど吐血しまくってる頸野も、


 そして個性の意味を全力で取り違えているような連中の仲間になりたいと思った俺の気持ちですら、なんだか馬鹿にされた気がして。

 だから悔しいって、感じたんだ。


「……まだ、負けてねぇ」

「何だって? よく聞こえん、はっきり話せ」


 ぽつりと口をついて出た言葉。声が小さかったからなのか、先輩には聞こえなかったようなので俺はもう一度、今後は叫ぶようにして高らかに吼えた。


「まだ負けてねぇと言ったんだ! 確かに勝ってはいないけど負けてもねぇよ俺は! つまり勝負はまだ互角、まだ対等な立場なんだよ! だから上から目線で俺に余裕を振り撒くな! それが世界の理であるかのように唯我独尊ってんじゃねぇ! 独尊禁止だ独尊禁止! 自分に自惚れるのも大概にしろ! そんで次はなぁ、えーとえーと、ええい、ほらあれだ!」


 ティエリア先輩はまるで動じなかったが、勢いのままに啖呵を切る。途中から自分でも訳が分からなくなっていたが、一度声を発してしまえばもはや自制することは出来なかった。俺はこれでもかと言の葉マシンガンを矢継ぎ早に速射する。


「馬鹿にするのも大概にしろよ! これでも俺は本気でやってんだよ、アンタに勝つために、部を認めさせるためにやってんだよ! だから認識を改めろ! どうあっても俺はアンタの敵だってなぁ!」


 ——言い切った。


 ここにきて再び俺の身体がふるえていることに気付いたが、決して震えているのではない。この場合の『ふるえる』とは奮えることで、要は俺の心に火がついたという意味だ。


 そう、今の俺は燃えている。火を見るより明らかに燃えている。ティエリア先輩の魔法の炎にだって負けてねぇ。気分は灼熱の竈だ。俺の中で燻っていた火種が強さを増して行く。


 どうやら自分が思っていたよりも俺はずいぶんと熱血漢な性格らしい。


 絶望的な状況に置かれて、胸中に沸々と沸き上がってきたこの感情が諦めではなく、まさかごうごうと燃える怒りであるとは、思いもしなかった。


「——いい心構えだ」


 パチパチパチ。突然鳴り響いた拍手。


 ふとティエリア先輩を見れば、破顔していた。その様子に思わず俺は見とれてしまう。


 美人は破顔しなくても美人だが、笑えばもっと美人らしい。


 一方で先輩の態度の急な変化に戸惑いを隠せなかった。

 一体俺の支離滅裂な主張に何を感じたというのか。しかしそれも次の言葉で納得した。


「まずは非礼を詫びておこう。確かに私は貴様を敵として見てはいなかった。所詮落ちこぼれだと心の何処かで見下していたのだろうな、それについては済まないと思う。あくまで貴様が本気だと言うのなら、私もそれに応えよう」


 そう言って彼女は猛禽類のような、笑みとも睨みともつかない表情を浮かべた。俺の熱意が伝わったのか、どうやら先輩は初めて綾村圭という存在を見てくれたようだ。


 これまでとは漂う雰囲気が違う。これがいわゆる狩人の目というやつだろうか。先輩が毅然と胸を張る。意外と胸があるな……、じゃなくて。


「ここからは私も手は抜かない」


 その瞬間、空気が変わった。


 一時まで抑えられていた威圧感が再度俺を圧迫し始める。まるで見えないおもしでも背中に背負っているかのようだ。これが先輩の、本気。


「その上で今一度貴様にチャンスを与える。もしも奥の手かそれに準ずる何かがあるというのなら、出し惜しみせず私に見せてみろ。十秒やる。もしもないというのなら私は次こそ貴様を捕まえるぞ」

「……分かりました」


 ティエリア先輩の宣言に俺は覚悟と決意を固める。覚悟の後ろには失敗前提と言葉が続き、決意の後ろには作戦決行の時と続くのだが、別にゲームのパスワードじゃない。


 では何の話かというと、これから俺がやることへの確認である。


 そう、何も万策が尽きた訳ではない。

 まだ一つだけ作戦がある。

 昨日棚町にも教えたご都合主義というアレだ。

 これこそが俺に残された正真正銘最後の手段だ。


 さあ思い出せ、確か棚町にはこう説明したはずだ——。

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