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転生しても俺は魔法が使えない  作者: 佐佑左右
廃部の危機と退部の時期

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第40話「一つ言っておくがね」

「さて」


 伏日と、それから頸野がのろのろ続いて部室を飛び出して行くと俺を差し置いてロリ先輩は紅茶の準備を始めてしまう。これは一体どういうことだろう。


「キミも飲むかい?」


 自分に注がれている視線に気づいたのか、ロリ先輩はティーカップ片手に——最初から自分用しかないのに——そう尋ねてきたが、気分じゃないので慎んで遠慮しておいた。


「流石にやり過ぎましたかね俺」

「急にどうしたんだい?」

「いやだって部室を飛び出した時の棚町、泣いてましたし。それにほら、いくらカッと頭に血が上ったとはいえ、あいつには恐い思いをさせたから……」


 今更こんなことを言って、ましてや本人がいない所で反省しても何になるというのだろう。いや、誰に聞かずとも答えは俺の中で既に出ている。これはただの自己満足だと。自責の念に駆られた振りをしているだけの、早く自分が楽になるための醜くて浅ましい自己満足。あるいは罪悪感を滲ませたパフォーマンスといってもいい。


「一つ言っておくがね」


 紅茶で軽く唇を湿らせてからロリ先輩は言う。


「人間関係に過ぎるということはないんだよ。物怖じせず、躊躇わず、真っ向から彼女とぶつかって丁丁発止やりあったんだ、そんなに自分を卑下することはない。むしろキミは部長さん相手によく言ったよ。言いたいことも言えずに対等な関係が築ける訳がないとボクは切にそう思うね」


 むしろキミ達はこうやって腹を割って話す機会が必要だったんだよとロリ先輩は続けたが、果たしてそうだろうか。なんて、わざわざ言われるくらいだからそうなのだろう。少なくとも端から見れば。


「それはさておき、謝らなければいけないのはボクの方だ。キミにも部長さんにもね」

「ロリ先輩が俺達に?」


 何か謝れるようなことをされた覚えはないのだが、向こうにはあるのだろうか。もしかしてあれか、実は年齢詐称してるとか。まさか俺より年下ってことはないよな?


「まず明日の決闘の件だけどね、キミを代理にすることを提案したのはこのボクなんだ」

「……そうなんですか?」

「うん。最初にキミがこの部への入部を断られた時に言ったんだ。『どうせなら彼の入部試験にしてみたらどうだい?』ってね。結果はこうなってしまったが」


 そういえば確かにあの時棚町と何やら意味深長な会話をしてたっけ。俺のあずかり知らぬ所でまさかそんなことになっていたなんてな。


「でも、なんで俺なんですか?」

「男性に触れるいい機会だと思ったんだよ。部長さんにとってね」


 どうしてそこで棚町の名前が出るのだろうか。当事者は俺だろう。


「知っての通り彼女は男嫌い——いや、男性恐怖症と言った方が適切かな。キミも身をもって体験しただろうけど、アレはまだ可愛いものだよ」


 さっき打ち付けた背中の痛みを思い出す。アレで可愛いものだなんて、もしかしてあいつが本気になれば殺されたりするのか?


「でも男性恐怖症の割には結構俺と普通に接してましたよ」


 いつだったか俺の私物を投擲したこともあったし。あれは敵ながら見事なフォームだった。雰囲気だけならメジャーを狙えるレベル。まあ野球の知識なんてゲームで知った口だから適当なんだけどな。基本的に野球は延長のせいでテレビ番組が見れなくなる程度の認識しかない。


「キミとはね。だが他の男性とはああいう風にはならない。よくて無視ってとこだね」

「そうなんですか?」

「……まぁ、キミが疑問に思うのも無理はないか。ボクだってまだ半信半疑なのだから」


 飲みほしてしまったのか、再びティーカップに紅茶を注いでいる。


「彼女の男性恐怖症はちょっと特殊でね、異性の近くにいたり話したりするのは平気なんだ。ただ、男に触られるとああなるんだよ」


 ああなるとは、錯乱状態のことだろう。確かに奇声を上げ取り乱した棚町の姿は普段からは考えられないようなものだった。


「彼女は勘違い男に殺されたと言っていた。だからきっとそれがトラウマとなって男性恐怖症になってしまったんだろうね」

「それなのに俺が棚町の肩を掴んでしまったから……」


 図らずも後悔する。何げない行為が棚町のトラウマを刺激する引き金となってしまった。


 人は誰しも踏みいられたくない過去、越えられたくない一線というものが存在する。それに俺は嫌というほど覚えがあるじゃないか。だというのに取り返しのつかないことを俺はやってしまった。馬鹿だ。ああくそ。あまりに自分が馬鹿すぎて腹が立つ。


「キミが悪い訳じゃないさ。もちろん彼女もね。悪いのは全部その勘違い男だ」


 歯軋りしたくなる衝動を抑え、己を叱責しているとロリ先輩が慰めの言葉をはいた。


「でも、そんなこと棚町には関係ないですよ」

「なら部長さんのことをちゃんと伝えなかったボクに責任がある」


 どうやら俺の心境を汲んでくれたらしい。せせこましい心を見透かされたような気がして、なんだか恥ずかしくなる。意味もなく立ち上がってそれから彼女の近くに椅子を引く。

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