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転生しても俺は魔法が使えない  作者: 佐佑左右
幼馴染みは敗北フラグ
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第4話「んーと、とりあえずアンタとあたしは幼馴染みってことになってるわ」

「——って、そんなすごいこと出来るのか?」

「そりゃあまあ死神だしね、死者の設定くらいなら矛盾が生じない程度には弄くれるよ」


 とんでもない事実が発覚する。

 だったらステュクスに色々とオプション変更をお願いすればよかったな。今さら悔やんでも仕方ないがもったいないことをした。そういうことは早めに教えてくれよ。

 むしろ今からでも遅くない。

 俺はさざめの肩をがっちり掴み、哀願するようにその真珠のような瞳を覗き込む。


 ギブミーイケメンフェイス! 

 ギブミーモテモテジンセイ! 


 などともはや欲望の塊となり果てた俺はどんなに一匹狼を気取った男子だろうと結局は根底にある異性によく見られたいという願望を現実のものにしてもらうべく、彼女をわさわさと揺らし続ける。


「……いや残念だけど、流石に死神も万能じゃないからさそういうのは無理だよ。あたしらはあくまで異世界転生の斡旋とかが仕事なわけだし、ましてや転生する前じゃないと」


 はい短い希望でした。

 杵どころかプレス機で餅をつくような感じで淡い期待は完膚なきまでに叩き潰される。

 ……あれおかしいな、目から汗が。


「あー、それで、書き換えられた俺の設定ってどんな風になってるわけ?」

「んーと、とりあえずアンタとあたしは幼馴染みってことになってるわ」


 なってるわ、じゃなくてそういう風にしたんだろとは思っても口に出さないようにしとく。

 口は災いの元というし、無用な突っ込みは控えておくのが吉だ。

 こういった細かい配慮が人生を上手く生きるためにも(いやいや一度死んだけども)新婚夫婦が長らく結婚生活を続けるためにも必要なのである。


「他には?」

「えっと、圭の両親は共に病死をしていてアンタはこの家で一人暮らし。それを不憫に思った隣人宅のさざめちゃんが何かと甲斐甲斐しく世話を焼いているという設定よ」


 その設定を聞いて俺は顔を苦くした。

 この世界でも両親が既に他界していて奇しくも死因まで同じ病死とは。

 だけど前世では妹の近絵がいたからまだ寂しさをまぎらわせられた。

 だがこの世界にアイツはいない。

 つまり俺は本当の意味で独りになった。

 決してそのことを忘れていたわけじゃなかったが、しかし今の状況で思い出したくもなかったのもまた事実だ。


 沈鬱な空気が場を支配していく。

 もう遅いと知りつつも堪らずに俺はさざめにこう言っていた。


「せめて両親は生きている設定に出来なかったのか? よく知らなくてもいい、血が繋がってなくてもいい、それでも両親は健在させてくれててもよかったんじゃないか?」

「ちょっと落ち着きなって」


 さざめは詰め寄る俺を突きだした手のひらで牽制し、それから続ける。


「圭の言うことも分からないではないけどさ、あたしたちとしてはそうしておいた方が色々と都合がいいの。矛盾を作らないためにもね。それに死神が生者に作用出来ないのは、さっきも言った通り。だからアンタの要望に合わせた擬似家族は作れやしない」

「……っ」


 口調は辛辣だが、彼女の言ってることは全面的に正しい。悔しいがぐうの音も出ない。


「その、無理を言って困らせた。ごめん」

「こっちもちーっと口が悪くなっちゃった、たはは許してね。——まっ、でも分かってくれたようで何より」


 お互いに謝罪しあうが、それでも微妙な空気は拭えない。参ったな。ここはやっぱり男の俺がリードして話題をそらした方がいいんだろうか……?  


「あ」


 なんてことを考えているうちに俺の腹がぐるるるると情けない音を立てる。言っておくが、別に腹を下したわけじゃないぞ。


「圭、もしかしてお腹空いたの?」


 人間として生きる以上切り捨てることの出来ない生理現象、食の欲求は仕方のないことではあるが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。けれども、さざめにも俺の腹の音は聞かれてしまったので、多少赤面しつつも首肯する。


「じゃあちょびーと待ってな。あたしがちょちょちょいっと何か料理でも拵えるからさ」 


 とりあえず台所借りるねー、とさざめが腕捲りをしながら消えようとするので、慌ててその背中を追いかける。彼女曰くこの家が俺の住まいらしいが、内装を初めて見るため他人の家となんら変わらない。


 自室から廊下へ出ると、すぐ右手の扉に『物置』と書かれた下げ札がてるてる坊主よろしく吊られていた。へぇ、魔法世界にも物置は必要なのか。てっきり俺は異次元にでも物品を保管してるのかと思った。だけど待てよ、実はこの扉の先は異次元に繋がっているという可能性もなきにしもあらずだな……って、いやいやいや! そんな考察は後からにしよう。


「料理ってさざめが作るのか?」 


 俺は目の前の文字通り風を切って歩く勇ましさを秘めた彼女に話しかける。


「他に誰がいるのさ」


 すると返って来たのはそんな言葉。強いてあげれば俺とさざめと、大五郎——はいないか。 


「いやだってさざめは死神だろ? 確か死神ってリンゴしか食べないんじゃ」

「あのねぇ、それは名前を書いたら人が死ぬノートを持つ死神だけの話でしょうが。だいたい今のあたしは受肉してるから死神というよりは人間に近いの。個人としての能力もね。だから料理とか得意なのよん。それにホラ、幼馴染みだし!」

「幼馴染みだからなんだ!?」  

 

 初めて聞いたよその理論!


「そ、幼馴染みの女の子って主人公の男の子に料理を作るために存在するんでしょ? 漫画で知ったんだけどもさ」

「それは間違った知識だ」


 どんな偏見だよ。それじゃただの小間使いじゃないか。違うだろ。幼馴染みってのはもっとこうさあ、昔から積み上げてきたなんともいえない距離感とか、そっちの方で語るべきことがいくらでもあるだろ。なので俺はさっそく幼馴染みについての意見を滔々と語るべく、さざめから外していた目線を前に戻す。

 が、しかし。


「——いないし!」

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