第38話「これはお前の問題だろうが」
すると面白いことに棚町が往年のギャグ漫画よろしくずっこけた、……なんてことはなく。
実際には「ふええっ?」とかなんとかすっかり面食らった表情をしてるだけだ。
「ち、ちょっと、どういうことなのかしら?」
「どうもこうもねーよ。だから俺は死神からもらったはずの異能力がどんなのかすら分からないんだって」
「だ、だって綾村くん、貴方以前異能力を使える的なことを言ってなかった?」
「そんな覚えはないんだけどな。お前が勘違いしているだけで、俺は魔法はもとより異能力も使えないんだよ」
「なんてことかしら……!」
きっぱりそう告げると、棚町は悄然とした様子で肩を落とした。
「今からでも遅くはない。会長になんとか上手いこと言って部の存続を認めてもらおうぜ? 順を追って話せば相手にも誠意が伝わるだろうよ。それでも駄目だったんならまた新しい部を作ればいい。なんなら俺が交渉してきてやるからさ。な、何も生徒会長と好き好んで喧嘩する必要なんてどこにもないだろ? 第一勝てないだろうし」
なんだかいた堪れない気分になってきたので俺は妥協案を提示してやる。バ○ァリンの半分は優しさで出来ているというが、俺の半分は諦めで出来ているのだ。
だが棚町は、
「……分かってない」
「へっ?」
ぽつりと一言。俺は他人事。
「綾村くんは分かってない!」
俺の何気ない言葉が地雷を踏んでしまったのか棚町は珍しく声を荒らげた。
普段のそれとは違う、心の底から震えるような本能的な恐怖が俺の身体を駆けずり回った。これがB級ホラー映画だったらば既に失禁している所である。
「な、なんだよ急に大声出して。そんなに悪いこと言ったか?」
触らぬ神に祟りなしということわざがあるが、しかし今の状況でその通りに行動する方が、かえって面倒なことになりそうな気配だった。
「また新しい部活を作ればいい? ——ふざけないでっ! あたしがどんな気持ちでこの部を作ったのか知らないくせに勝手なことばかり言わないでよ! 好き好んで喧嘩する必要がない? 当たり前だよ誰もしたくてするんじゃないのにっ! でも、しょうがないじゃない! だってそうしなきゃここが廃部にされちゃうんだもん! そんなの嫌なの、ダメなの!」
「な、何怒ってんだよ」
「怒りもするわよ! 勘違いで殺されて、こんな異世界に無理やり転生させられて、あげくにどうしようもない差別までされる! おかしいでしょ、あり得ないでしょ、理不尽でしょ!? ——だからあたしは魔法使えない部を作ったのよ! この部はそんなあたしのささやかな抵抗の証、この世界に対する反異世界組織なのよ! だからこの部は絶対に潰せない、潰しちゃダメなの!」
棚町はがなり立てる。
そこには普段の鉄面皮は剥離し、年相応の幼さを宿した少女の姿があった。主張は支離滅裂で子供の癇癪と何ら違わない。いつもと口調が変わっているのに気づいたのは寸刻遅れてからだった。
ついでに彼女もまた会長と同じく自身を化粧で偽っていたのだと、俺はこの時初めて思い知ったのだ。
「……ならやっぱりお前がやれ」
だからといって俺はこんな理不尽を受け入れるつもりはなかった。
「これはお前の問題だろうが」
嫌いな俺に素の自分を見せてまで滅茶苦茶に叫ぶくらいこの部活が大事なら最初から自分でなんとかするべきだ。世の中ってのはすこぶるほど残酷で、いくら嫌だ嫌だと渋って見せてもどうにもならないことがざらにあるのだから。
俺にもあった。
小学生の時に好きだった隣席の女の子が転校したり、とある出キご◆★か羅りんしy于Ⅳん99分ノノノノA@んセWーヲ受けたことが。
もちろんどうにもならなかったしどうにも出来なかった。
だというのに棚町にはチャンスが与えられているじゃないか。その一度きりのチャンスさえ与えられない人間がたくさんいるのに、こいつは挑戦出来るのだ。ならば当然やるべきなのである。この時点に至ってまでそうしないのはただの甘えで、ただのわがままだ。
そう思うのは何も俺だけではないはず。口にこそ出さないがロリ先輩も頸野も伏日もそして会長も同じだろう。事実誰も棚町をフォローしてはいない。優しさでも厳しさでもなく、どう声をかけていいのか分からないのだから。雰囲気が悪くなるのを承知で続けさせてもらう。
「まず第一にこのまま俺が会長と闘ったら間違いなく負ける。相手には魔法があるから一方的にボコボコだ。それでもいいなら俺がやってやるよ。だけどお前ん中では俺が負ける選択肢は許されていないんだろ?」
続ける。
「それは無茶ぶりってもんだろ。白ひとつしかないオセロや王将しか駒がない将棋と同じで、どうやっても覆せない状況はあるんだよ。今の俺らも同じ、既に詰んでる」
続ける。
「だったらせめてお前が責任を取れ。他人に役割を押し付けるな。ここの部長はお前だろう棚町。俺じゃなく、お前だ。お前がどんな気持ちでこの部を作ったのかは確かに知らない。……だが、そこまで言うならお前が動くべきだ。自分で作った部活を守りたいなら尚更そうじゃないのか? 仮部員の俺なんかに任せないで、自力でどうにかしようとは思わないのか?」
そして問いかける。他ならぬ彼女自身に。
「…………っ!」
棚町は逡巡しているのかはたまた狼狽しているのか、とにかくすぐには答えなかった。もしかしたら俺の辛辣な物言いに応えたのかもしれない。けれどそれでいい。
今のこいつには誰かが灸を据えてやらにゃいかんのだから。そしてそれは、本人に嫌われている俺が適任だろう。立場的にはいわゆる汚れ役という奴だ。俺みたいな奴にはちょうどいいポジションだ。
さあ悩め迷え若人よ。
すぐ答えを弾き出せとは言わん。だが、精一杯その足りない脳みそをこねくり回してよーく考えてみろ。何をどうするかをな。




