第36話「……それは貝柱よ」
「まだ確定じゃない」
重く淀んだ空気を破り、毅然と言い返したのは棚町だった。
「決して廃部にはさせないわ」
初めて心強いと思ってしまった。
「約束だから相手をしてやるが、まさか万が一にもこの私に勝つつもりでいるのか?」
「元より私にはその選択肢しか残されてないのなら、やるしかないでしょう」
「だが肝心の疵梨は暴力事件で停学中ではないか。彼女の他にこの私の相手が務まる者がいるとでも言うのか?」
一人一人に視線を移してはこいつは違うと首を振る。最後に残った俺に視線が注がれた時、棚町は鷹揚に頷いた。
「彼が——綾村くんがいるわ」
「……へっ、お、俺?」
いきなり話を振られ、話についていけず逼迫していた俺は思わず頓狂な声を上げた。棚町がため息をこぼしたが、仕方がないだろう。いやだって、今まで完全に蚊帳の外だったし。
「ち、ちょっと待てよ、俺には何の話かさっぱり分からんのだが」
「ふん先程から誰だとは思っていたが、まさか貴様は新入部員か」
「は、はい。そうですけど」
仁王像のような面相で睨み付けられ、つい畏縮してしまう。だからついたどたどしい敬語で答えてしまう。タイプは違うもののどこか棚町と似ていた。
「……いきなり廃部だの何だのと物騒な話をしたのには訳がある」
「訳、ですか?」
「そうだ。この部が校則違反をしているのが主な理由だ」
一転して丁寧な口調になった会長は、俺を諭すかのようにして話を続ける。
「この学校の創部における規定では、大前提として顧問一名と部員三名以上が必要なのだが、これについては問題ない。また、生徒会部活動運営委員会から認可も受けている。問題はここからだ。運動部なら運動が、文化部なら文化部らしい活動をしっかりと指導出来る者が教師を除いて最低でも一人はいなければならない。つまりだ。この『魔法使い部』ならば部員の誰かが魔法を使えなければならないということになる」
依然として会長の一方的な辯舌が続く。気分としては波平に叱られるカツオのそれに近い。
「聞くところによると、ここの部員は全員魔法が使えない落ちこぼれだそうじゃないか。とすればここにいる貴様も同じではないのか?」
「それは……、まぁ」
頷くしかない。だって魔力が使えないのは本当のことなのだから。だから俺は落ちこぼれで劣等生。認めたくはないが、しかしこれが現実だ。
「この学校には同好会というものは認められていない。そして、部活動とは言ってみれば課外授業だ。個々に違いはあれ有意義な学校生活を、または将来の糧を得るために必要なのが部活だと私は考える」
「立派な考えですね」
「けれどこの部には意味もなければ利徳もない。当然だ、名が体を表していないのだから。欺瞞を掲げ活動内容を騙っているのだから。そのため私はこんな部活は必要でないと判断した」
だから廃部にするってか。
なるほど、正論過ぎてぐうの音も出ないぞ。これはもう全面的にこっちに非があるもんな。
ただ集まってお話がしたいだけなら、部活じゃなくてプライベートでも出来るし。
そりゃあこの生徒会長も怒るよなぁ……。
「話はだいたい分かりましたが、それで俺の名前が出てきた理由は何です?」
「もちろん人柱だ。私に悉く燃やされる、な」
会長は短くそう言い放った。
「えっ、ホタテ?」
「……それは貝柱よ」
珍しく棚町から突っ込まれるが、いつもは俺がそのポジションなので結構新鮮だったりする。新鮮食品なだけに。
いやふざけてる場合じゃないか。




